第219話 運動会 4 障害物競走
『続きましては、三年生による障害物競争です』
「私の出番ですね」
樹里が立ち上がる。
「樹里さん、頑張ってください」
「頑張ってね、樹里ちゃん」
「はい、見ていてください」
樹里はスタート地点へと向かって行く。
『障害物競走は色々な障害物が用意してあります』
『障害物は全部で五つあるので頑張ってください』
「位置について、よーい」
パン。
銃声と共に樹里は走り出す。
樹里の運動神経は悪くないので上位に入っている。
そして最初の障害物に当たる。
『さあ、最初の障害物に入りました』
『最初の障害物は網の下を潜り抜けていくので絡まったりすると時間を食います』
柳瀬先生の言う通り何人かは絡まったりして苦戦している。
(負けませんよ)
樹里は前進していき何とか最初の障害物を突破した。
そのまま走って行くと次の障害物が来た。
『さあ、二つ目の障害物です』
『二つ目の障害物は平均台ですね、バランス感覚が大事なのでバランスを取るのが上手い人はここで突き放すチャンスですね』
「うわわわ」
樹里はふらつきながらもゆっくりと移動し渡り終えるが順位は下がっていた。
(何とかしないと)
そう思いながら樹里は次の障害物へと向かう。
『三つ目の障害物は重りを抱えて走ります』
『重りと言っても水が満タンに入ったペットボトルを二本持って走るだけです、次の障害物に着いたら置いてください』
樹里は二本のペットボトルを持ち走る。
「はあ、はあ」
息を吐きながらも樹里は走るスペースを緩めない。
(結構大変ですね、何でこんな大変な思いをしないといけないんですか)
そんな事を思いながら樹里は次の障害物に向かった。
『四つ目の障害物はハードルです』
『ジャンプして飛び越えますが、足を引っ掛けて転んでケガをしないように気をつけてください』
『ケガをしても大丈夫よ!! 私が優しく治療してあげるからね!!』
佐藤先生が突然マイクを持ち言う。
『あー、嫌だと思ったらゆっくりと飛ぶ事をおすすめします、もしケガをしたら保護者同伴でお願いします』
柳瀬先生が付け加えるように言う。
「くうっ」
樹里はハードルをジャンプして超える。
しかし、早く行けずに少しスピードダウンしてしまう。
順位は三位、頑張ればまだいけるが。
(ここで頑張っても、どうせ一位には・・・・・・)
樹里はもう一位にはなれないと思ったのか諦めそうになっている。
と、その時。
「樹里さん!! 頑張ってください!!」
(え?)
樹里は声のした方を向く。
するとそこには応援しているシエラがいた。
「まだ逆転できるよ!! 頑張って!!」
奈津美も応援している。
(お姉様、奈津美さん)
「樹里ちゃん、頑張れー!!」
「今、三位だから逆転できるよ!!」
「最後まで諦めないでー!!」
他のクラスメイト達も樹里の応援をしている。
(皆さん、あんなに酷い事をしたのにそれなのに私の応援をしてくれるなんて、そんな事言われたら、頑張らないわけにはいかないじゃないですか!!)
樹里は全力で走った。
息が切れそうになっても走るペースを落とさなかった、そして最後の障害物に近づいた。
『さあ、最後の障害物です、最後の障害物は箱の中にある粉の中に飴玉がありますのでそれを手を使わず口で見つけてください』
『バラエティー番組とかでやってるアレですね、顔を埋めて顔が真っ白になると言うアレ』
最後の障害物に着いたが見ると樹里よりも早くいた子達がまだ粉の中からアメを探していた。
『なんとこの最後の障害にて選手全員が並びました』
『まあ、お嬢様学校だし、あの子達も乙女ですからね、自分の顔が粉まみれになるのはと言った所でしょうか』
柳瀬先生の言う通り、自分で顔を粉まみれにするのはあまり気が乗らないのか少しづつ粉を退けてアメを探している。
(逆転するなら今しかないですね)
樹里は大量の粉を見る。
(ええーい、何を迷っているのですか!! 私は変わるって決めたんですから!!)
「おおおおおおおおおおお!!」
叫び声と共に樹里は思いっきり顔を粉の中に突っ込みそしてそのまま勢いよく動かしやがて顔を上げる。
見ると口の中にアメをくわえている。
そしてそのまま樹里は走り出しゴールテープを切りゴールしたのだった。
『ゴール!! 一位は紅組です!!』
『いやー、最後のは豪快でしたね、あの子うちのクラスの子なんですよ、よく頑張ったぞ稲村』
「お姉様、やりました!! 私一位になりました!!」
樹里は誇らしげに言う。
「おめでとうございます樹里さん、でも顔が粉まみれですよ」
「そうだね、はい樹里ちゃんこれで吹いてあげるね」
奈津美は粉まみれで顔が真っ白になった樹里の顔をタオルで拭き取る。
「ありがとうございます、実は私もう諦めようかと思ってたんです、ですが皆さんが応援してくれてあんなに酷い事をした私なんかを応援してくれて、だから私諦めずに最後まで走れました」
「樹里さん、私なんかなんて言わないでください、皆さんが自然に応援したのはあなたが良い方に変わったからですよ」
「そうだよ、もし今までの樹里ちゃんのままだったら私も皆も応援していないよ、樹里ちゃんが頑張ったから私達も樹里ちゃんを応援できたんだよ」
シエラと奈津美の言葉に他のクラスメイト達も頷く。
「皆さん、う、ううー」
樹里の目からは涙が出ていた。
シエラと奈津美は何も言わず笑顔で樹里の肩に手を置くのだった。
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同時に投稿している作品「Sランク冒険者の彼女が高ランクの魔物の討伐依頼を受ける理由」もよろしくお願いします。




