第207話 まだ続くよ、夏休み 3 本物のラーメン屋の店主
真央達の前に現れた老婆は真央の食べたラーメンの器をじっと見つめる。
「・・・・・・なるほど、確かに全部食べ切っているね」
それから老婆はラーメン屋の店主に顔を向ける。
「みっともないね、こんな後付けで勝とうとするなんて、このお嬢ちゃんが食べ切った時点でアンタの負けだよ」
「な、何なんだよいきなり!!」
「このお嬢ちゃんは正々堂々と目の前で食べ切ったと言うのに、アンタは屁理屈で負けだと言って、ましてや子供に頭を下げさせて謝らせるなんて、大人気ないね」
「う、うるせえ!! 関係ねえだろ!! つーか誰だよ!!」
「ほう、あたしを知らないのかい? この町で飲食店をしている店主なら全員あたしの事を知っているはずなんだがね」
老婆は凄みを込めて言う。
その凄みに押され店主は冷や汗をかく。
「それにそこのお嬢ちゃんの言った通り、確かにこの店のラーメンの味は落ちているよ、いや、正直とても客に出せる物じゃないね、と言うかアンタ本当に店主かい?」
「な、何だよ、そうだと言ってるだろ!!」
「おかしいね、あたしの記憶じゃ、ここの店主が代わったなんて聞いてないね」
「やはり、そうでしたか」
ここで客の一人である女子高生が立ち上がり言う。
「おかしいと思いましたよ、あんなに美味しかったのに急に味がありえないくらい落ちていましたから」
「確かに、ここまで味が落ちたのはおかしいと思ったが、作る店主が代わったのならそれも納得がいくね」
客の一人である会社員の男性が言う。
「しかし、店主が代わったとしても、あの人の耳に入らないのは確かにおかしな話だな」
客の一人である中年くらいの男性が言う。
と言うより、いつもの三人がいた。
「な、何だよ、お前ら!! このババアが何だって言うんだよ!!」
ラーメン屋の店主は怒鳴り散らす。
「まさか、あなた店主なのに知らないのですか?」
「この人はこの町の全ての飲食店を統べる者、他の店主達からは会長と呼ばれている」
「この町の飲食店の店主なら全員知っているはずだが、お前本当に店主なのか? 怪しいなぁ」
女子高生、会社員の男性、中年くらいの男性がそれぞれ言う。
「う、うるさい!! 俺は、この店の店主だ!!」
その時、店の扉が開き一人の男性が入って来た。
「よお!! 今帰ったぞ!! 悪いな留守にして!!」
そう言って男性は入って行くが店の状況を見て止まった。
「って、どう言う状況だ!? 店がこんなに空いてるなんて」
「ラーメン屋の店主、アンタ今までどこに行ってたんだい?」
老婆が男性に問う。
「え? 会長? どうしたんですか?」
「いいから答えな」
「えーと、俺はさらに旨いラーメンを作るために修行の旅に出てましたよ」
「それはあたしも聞いている」
「で、その間この店を代わりの奴に任せましたよ」
「で、それがこいつかい?」
会長は若者を指差して言う。
「ん? お前誰だ? 俺が頼んだのは別の奴ですよ」
「こいつが何故か店主になっていて、この店の状況はこんな感じだよ」
「なん、だと」
男は驚いている。
「おい!! 今すぐここの従業員全員出て来い!!」
少しして正気を取り戻した男はすぐに店の従業員を全員呼ぶ。
「おい、これはどう言う事だ?」
男は従業員達を見て静かに言う。
その感じはどこか怒っている感じだ。
「俺が任せた奴はどうした? 他の従業員はどうした? ここにいる奴ら全員知らねえぞ、おい」
男の言葉にラーメン屋の従業員達は恐怖で固まる。
「おい、お前は誰だ? 何で俺が雇った従業員達が一人もいないんだ?」
「う・・・・・・」
ラーメン屋の店主も男の圧で言葉を失う。
「おい!! お前、俺が留守にしてる間に何した!!」
男は怒鳴る。
「う、うるせえ!! 俺はこの店の店主だ!! 文句があるなら出てけ!!」
「この店の店主は俺だ!! お前こそ出てけ!!」
ラーメン屋の店主は反発するが男がさらに怒鳴り声を上げた事により後ずさる。
「騒がしいな、一体何なんだ?」
するとここで一人の男性が店に入って来る。
「お、親父!!」
ラーメン屋の店主はその男性を見て助かったと言うような顔をする。
「親父って」
「もしかして、あの店主のお父様ですか?」
「何だか凄い事になってきてるよ」
「あれ? あの人って」
翔子がその男性を見て何かを思い出しそうな顔をする。
「お姉様、知っている人ですか?」
「ええ、どこかで見た事あるわ、どこだったかしら?」
翔子は思い出そうと記憶を巡っている。
そうしている間にまた向こうでは話が進んでいる。
「親父、助けてくれ!! こいつらが俺の店に文句を言うんだ!!」
「文句だと? どう言う事だ?」
「こいつらが、俺に難癖つけてるんだよ!!」
ラーメン屋の店主が男達を指差して言う。
「難癖?」
「アンタ、この店主の親かい?」
老婆はラーメン屋の店主の父親らしき人に聞く。
「ええ、そうですが」
「だったら、話を聞いてもらうよ、自分の息子の話だけじゃ、何が何だかわからないだろ?」
「ええ、息子の話だと店に文句を言っているくらいしかわからないので」
「そうかい、じゃあこっちの言い分も聞いてもらうよ」
老婆は事の成り行きを男性に話す。
「なるほど、それでその発端となったお嬢さんとは?」
「あそこに座ってる子達だよ」
男性は真央達の所に行く。
「君がこの特大デカ盛りラーメンと言うのを食べたのかい?」
男性は真央に問う。
「はい」
「ふむ、確かに器は空になってるね、で、息子がそれはダメだと言ったのかい?」
「はい、この店のルールだとダメみたいです」
「それに、味も旨くなかったと?」
「はい、正直盛り付けも雑でしたし、何でこんな物をお客さんに食べさせてるのか不思議でした」
男性の問いに真央は答える。
「そうか」
「おい、親父!! 何普通に信じてんだよ、そんなのこのガキの嘘に決まってんだろ!!」
「はあ? この期に及んでまだそんな事言うの!! いい加減にしなさいよね!!」
「うるせえ!! 女は黙ってろ!!」
ラーメン屋の店主は反論した翔子に怒鳴る。
「ん? あなたは・・・・・・」
男性は翔子を見る。
するとだんだん顔が青ざめていき汗が流れてくる。
「女って、今そんなの関係ないでしょ!!」
「うるせえ!! 女のくせに生意気なんだ・・・って親父?」
ラーメン屋の店主が何かを言っている途中で男性が肩を掴む。
しかし、その掴む手は震えていた。
「親父?」
「こ、このバカ息子があああああああああああああ!!!」
男性はラーメン屋の店主を思いっきり殴り飛ばす。
その光景に真央達も驚く。
「親父!?」
突然の事にラーメン屋の店主は何が起きたのかわからない顔をする。
しかし、男性はさらに詰め寄る。
「この大バカ者が!!! こちらにおられる方を誰だと思っている!!! 我が社と取引しているあの高梨財閥の社長の御令嬢だぞ!!! お前とは天と地ほどの差があるんだぞ!!! その方にその口の聞き方は何だ!!! お前は我が社を、いや我が家を潰す気か!!!」
男性はラーメン屋の店主の身体を激しく揺さぶりながら言う。
「ああ、思い出した、父さんが取引している会社の一つの社長だわ、前に一度会った事があるわ」
翔子は男性の事を思い出す。
「申し訳ありません!! このバカ息子がとんだ御無礼を致しました!!」
男性はラーメン屋の店主の頭を掴み強引に土下座させ自身も土下座をして謝罪する。
「・・・・・・」
翔子はそれを見て何かを思いついたのか笑顔になる。
ただし、その笑顔は意味が違う笑顔だと思う。
「ねえ、この子私の妹なのよね、それはもうとってもかわいい妹でさ」
翔子は真理亜を自分に寄せて言う。
「しかも、そこの店主が私の妹とその友達に親の教育がなってないって言ったのよね」
翔子の言葉を聞きさらに男性は顔を青ざめていく。
「しかもさ、そこにいる男性がどうやらここの店の店主らしく修行に出かけている間に、何故かそこの男が店主になっていたらしいんだけど、そこの男性は知らないみたいでしかもここの従業員も全員知らない人がなっていたみたいなのよね、そこの男が何かしたとしか思えないのよね」
「おい!! お前!! 詳しく説明しろ!! 私はこの店で店主をやっている事しか聞いてないぞ!! お前はどうやって店主になった!!」
「お、親父、俺よりその女を信じるのかよ?」
「うるさい!! 正直に言え!!!」
父親に言われラーメン屋の店主は素直に話した。
話を聞くとこんな感じだ、要するにこの男は本物のラーメン屋に店主がいない間に任された店主を脅したのだ。
父親が会社の社長と言う事を良い事にそれで脅して店主になったらしい、さらに自分に反発する従業員も次々とクビにしていき現在の状況になったそうだ。
だから、本物の店主が従業員を誰一人知らなかったのである。
「・・・・・・」
男の父親は拳を強く握りしめプルプルと震えている。
そして。
「このバカ息子があああああああああああああ!!!」
再び男を殴り飛ばした。
「お前と言う奴は何をしているんだ!! どれだけの人に迷惑を掛けているんだ!!!」
「ご、ごめんよ、親父ぃ・・・・・・」
男は参ったのか泣き言を言う。
「許さん!! その性根叩き直してやる!!」
男の父親は立ち上がる。
「申し訳ない、このバカのした責任は全て私にある、迷惑を掛けた分の料金はきちんと払わせてもらう」
男性は本物のラーメン屋の店主に頭を下げ息子のした責任を取る事を伝える。
「はあ、そうですか、じゃあ、お願いします」
「君達にも迷惑を掛けてしまって申し訳ない」
男性は真央達にも謝罪をする。
「では、私はこのバカの性根を叩き直すためこれで失礼する、本当に申し訳なかった」
そう言って男性は息子を連れて店を出て行った。
「あの偽店主の父親、まともな人だったな」
「息子はあんなだったけど、父親の方はちゃんとした常識人よ、でなければ父さんが取引相手に選んだりしないわ」
沙月の言葉に翔子は答える。
「とりあえず、終わったみたいですね」
「どうなるかと思ったけど、無事に済んで良かったよ~」
皆が安堵しているが。
「ところで、真央ちゃんの大食い勝負はどうなるの?」
『あ』
真理亜の言葉ですっかりその事を忘れていたのであった。
読んでいただきありがとうございます。
同時に投稿している作品「Sランク冒険者の彼女が高ランクの魔物の討伐依頼を受ける理由」もよろしくお願いします。




