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第133話 わかってほしかったから 

「さてと、まずは、この女性ですね」


 カナルとの戦闘を終えたシエラは、カナルに襲われそうになった人間の女性を見る。


「気を失っているみたいですし、命に別状は、ありませんね」


 シエラは、女性の状態を調べ異常がない事を確認する。


「ちょっと失礼しますね」


 シエラは、女性の頭に手を置き記憶を見る魔法を使う。


「家は、ここですかでは」


 シエラは、転移の魔法を使い女性の家に繋げる。

 そして女性を入口の所に置く。


「・・・・・・んっ」


「目が覚めそうですね、後は、大丈夫ですね」


 シエラは、そう言いカナルがいた場所に戻る。


「さて、後は、このヴァンパイア族ですが」


 シエラは、気絶しているカナルを見る。


「このまま野放しと言うわけには、いきませんね、そう言えば、レイアお姉ちゃんがこの人間界に迷惑を掛ける魔族がいたらイゴールさんの所に行けと言っていましたね、そうしますか」


 シエラは、カナルに拘束の魔法を掛けイゴールの元に転移するのだった。






~side イゴールの家~


 イゴールの住む場所に転移し、扉をノックする。

 やがて扉が開きイゴールが出て来る。


「はい、おや、もしやシエラさんですか?」


「はい、急にすみません、今大丈夫ですか?」


「ええ、問題ありませんが、一体何の用・・・・・・ああ、そう言う事ですか、中にどうぞ」


 イゴールは、拘束魔法を掛けられている、カナルを見て察しシエラを中に入れる。

 中には、食事をしている松来の姿があった。


「食事中だったのですね、すみません」


「いえいえ、気になさらず、松来さん申し訳ないですがお願いできますか?」


「・・・・・・はい、良いですよ」


 松来は、食事をやめシエラに近づく。


「純粋なヴァンパイア族ですね?」


「はい」


「それで彼は、何をしたのですか?」


「はい、それが」


 シエラは、松来にカナルがした事の説明をする。


「なるほど、確かに人間達に迷惑を掛けていますが、具体的にどれくらいなのか本人に聞かないとわかりませんね」


「わかりました、では、起こしますね」


 シエラは、そう言いカナルを起こす。


「んん・・・ここは?」


 カナルは、辺りを見渡す。


「!! 何ですかこれは?」


 カナルは、自分が拘束されている事に気づき驚いている。


「気がつきましたか?」


「あなたは?」


「私は、イゴールと言います」


「イゴールって《災害のイゴール》!?」


「はい、そうですが、私の事は、別に良いでしょう、それで何故気絶してたか覚えてますか?」


「・・・・・・ええ、僕は、混ざり物のヴァンパイア族に負けたと言う事ですね、実に不愉快ですけど」


 カナルは、シエラを見て言う。


「・・・・・・はあ、まさか混ざり物に負けるとは、思いませんでしたよ」


「驚きましたね、てっきり油断していたからとか、混ざり物に負けるわけがないとか、色々言い訳するかと思いましたが」


「馬鹿にしないでくださいよ、油断とかそう言うのを除いたとしてもあの時の一撃であなたがどれくらいの強さかわからない程、節穴では、ないですよ、しかもあなた全然本気を出してないですよね?」


「わかるのですか? 意外ですね」


「あなたは、どれだけ僕を馬鹿にしているのですか、全く」


 自分との実力差がわかっているからかカナルは、シエラに対して先程のような侮辱している態度からいくらか柔和な態度になっている。

 

「まあ、そんな事よりあなたに聞きたい事があるそうですよ?」


「そんな事って・・・・・・もういいですよ、で何ですか?」


「あなた、血を吸っていましたけど具体的には、何人の血を吸っていたのですか?」


「そんな事聞いてどうするのですか?」


「どうするのですか?」


 シエラは、イゴールに聞く。


「そこから先は、私が説明しましょう」


 イゴールは、カナルに説明をする。


「なるほど、確かに本来僕達は、この世界にいる事自体有り得ない事ですし、生きるためとは、言え迷惑を掛けたなら仕方ないですね」


 カナルは、イゴールの説明に納得する。


「あなたは、素直に受け入れるんですね?」


「どういう事ですか?」


「いえ、少し前にウィザード族の者がこの人間界の人間に迷惑を掛けたのに全く反省していなかったので三百年も封印される事になりましたので」


「そうですか、まあ正直納得していませんが、この状況じゃ逃れられませんからね潔く罰を受けますよ」


「そうですか」


「で、僕が血を吸っていた人間の数ですが、正直覚えていませんね、一日に一人吸っていたようなものですから」


「それは、いつからですか?」


「僕が、この世界に来たのが数年前ですからその時からですね」


「どうやって来たのですか?」


「普通に暮らしていたら急に空間が歪んでそれに吸い込まれて気づいたらこの世界にいました」


「そうですか、では、血を吸った人間は、殺したのですか?」


「していませんよ、全部の血を吸わなくてもいいのですから」


「どんな人間をターゲットにしていましたか?」


「主に若い女性ですね、僕も男ですから一応男より女の方が良いですから」


「子供は、襲いましたか?」


「襲ってませんよ、ちょうどいい感じに血が美味しいのが大体十七から二十代くらいの女性ですから」


「そうですか、わかりました」


 イゴールは、カナルへの質問を終える。


「どうですか、松来さん?」


 イゴールは、松来に問う。


「まず、そのヴァンパイア族が言っているのは、本当なのか怪しいですね」


「あ、じゃあ私が見ましょうか」


 シエラは、松来に提案する。


「できるのですか?」


「はい、できますよ」


「では、お願いします」


「わかりました、あの今からあなたの記憶を見ますけど良いですよね?」


 シエラは、カナルに問う。


「僕に拒否権は、ありませんからご自由に」


「わかりました」


 カナルの了承を得たのでシエラは、記憶を見る魔法でカナルの記憶を見る。


「記憶を見ました、彼の言っている事に嘘は、ありませんね」


「そうですか、では、判決を言います、ヴァンパイア族のカナル、あなたがした事は、例えあなた自身が生き抜くために仕方なくやった事だとしても、普段自分が住む世界とは、関係ない別世界の多くの人間を襲いました、本来なら百年以上の刑になりますが、あなたは、必要な分だけの血を吸っただけで殺しては、いませんので、五十年に減刑しますよろしいですね?」


「はい、その罰を受けます」


 松来の判決をカナルは、特に反論する事無く受け入れる。


「わかりました、では」


「ちょっと待ってください」


 松来がカナルを本に封じ込めようとするが、シエラが止めに入る。


「何ですか?」


「少し時間を貰って良いですか?」


「・・・・・・別に構いませんが」


「ありがとうございます」


 シエラは、松来に礼を言いカナルに近づく。


「何ですか?」


「すぐに終わりますよ、えーと、これもらって良いですか?」


 シエラは、まだ手を付けていない食事を指さし言う。


「ええ、良いですよ」


「ありがとうございます」


 イゴールの許可をもらったシエラは、大量に盛ってあるハンバーグを一つ皿に乗せカナルの元に向かう。


「これ、食べて見てください」


「何故ですか?」


 カナルは、疑問に思う。


「いいから、食べてください」


 シエラに言われカナルは、ハンバーグを一口食べる。


「どうですか? 美味しいですか?」


「・・・・・美味しい」


 今まで血だけを吸って生きてきたカナルにとってハンバーグの美味しさは、驚きだった。


「何ですか、これは? 血を吸った時と同じように美味しく感じます」


「美味しいと言う事は、味覚があると言う事、もし血だけを吸うなら、他の食べ物が美味しいと感じる必要は、ありませんよね?」


「あ」


 シエラの言葉にカナルは、ハッとする。


「ヴァンパイア族は、こうして食事を摂れば血を吸わなくても生きていけるんですよ、その事をあなたにわかってほしかった、古い考えに囚われている純粋なヴァンパイア族に」


「そうですか、まさか混ざり物に教わるとは、もう純粋なヴァンパイアとか混ざり物の出来損ないヴァンパイアとかどうでもよくなりましたね」


 カナルは、笑って答える。


「あなた、名前は?」


 カナルは、シエラに問う。


「名前ですか?」


「混ざり物じゃ失礼ですからね、あなたの名前を覚えておきたいんです」


「良いですよ、私は、魔王レイア様の配下で五大幹部の一人、魔王の右腕シエラと申します」


「レイアって最強の魔王と言われている、あの」


「そうですよ」


 シエラは、笑顔で答える。


「最強の魔王の右腕ですか、それじゃ僕が勝てないわけですね」


 カナルは、納得したように笑った。


「そろそろ、良いですか?」


 松来がシエラに問う。


「ええ、良いですよ」


「僕も良いですよ」


「わかりました、では、ヴァンパイア族のカナル、あなたを五十年この本に封じ込めます」


 そう言って松来は、本を開く。

 本が開き、カナルは、その本に吸い込まれて行く。


「これで、刑は、終わりました」


 そしてカナルを吸い込んだ本を松来は、閉じるのだった。


読んでいただきありがとうございます。


今年ももうすぐ終わりです。

もう一話あげられたらと思っています。

それでは、次回をお楽しみに。

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