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第130話 シエラの学園生活 8 予想外な事になりました

 奈津美に言われた樹里は、理由を言うのだった。


 樹里の話によると、樹里がこの学園に入ったのは、二年生の時で樹里は、転校してきたのである。

 つまり、理由の発端になったのは、転校する前の出来事である。

 樹里は、お金持ちの家の娘であった。

 この時の彼女は、素直で良い子であった。

 使用人達も優しく、学校でもたくさんの友達がいたため彼女は、幸せな日々を送っていた。

 しかし、ある日、今の彼女になるきっかけが起きた。

 それは、両親が事故に会い生死が不明な状況になったのである。

 そして彼女の周りでは、変化が起きた。

 使用人達は、全員彼女に冷たくなり、家にある金目の物を退職金代わりとして持って出て行ったのである。

 そして友達も全員彼女に対して冷たくなり、遊ばなくなったのだ。

 そう、使用人達が樹里に優しかったのは、彼女がお金持ちの娘だったからであり、たくさんの友達も彼女がお金持ちの娘だったから仲良くしていただけであり、その彼女の両親がいなくなった事により、お金持ちの娘じゃなくなった彼女には、何の意味もないと思い、優しくする必要もなくなったので彼女の元から離れたのである。

 最初から、稲村樹里と言う子には、何も思っていなかったのである。

 

 ところが、数日後、何と彼女の両親は、無事に生きていたのである。

 樹里は、その事を知り喜んだが、その時だった。

 出て行った使用人達が全員戻ってきたのである。

 しかも、彼女の友達だった者達も全員彼女の元に寄って来たのである。

 そして前のように彼女に接する、元使用人と元友人達。

 彼女の両親が戻って来たので再び彼女がお金持ちの娘になったので寄って来たのだと、樹里は、この時思った。

 その見事な手のひら返しな態度に、彼女の怒りは、頂点に達したのである。

 両親は、事情を知り元使用人達を全員クビにさせ、学校も変え現在の清涼女子学園に転校したのである。

 しかし、この時樹里の中では、親以外を信じる事ができなくなっていた。

 周りに寄って来るのは、自分自身を見ているわけでは、なくお金持ちの娘と言うレッテルを見ているだけだと。

 そのため例え本当に友達になりたいと思って寄って来る子も樹里からすれば信じられなくなったのである。

 またあの時のような思いをするくらいなら自分が持っている物で全員を支配すればいい誰も自分に逆らえなくすればいいと思い、このような行動を起こしたのであった。

 間違ってるとわかっていても自分が傷つかないならそれでいいと思いいつの間にか歪んでいった。

 そしてそんな歪んだ自分がおかしいのか笑っていたのである。

 いじめていて笑っているのは、それが理由だったのである。

 

 話をまとめると大体こんな感じである。

 やられた側からしたらくだらない理由だと思ったから樹里は、話す事を渋っていたのだが。


『ああー』


 クラスの皆は、くだらないと思うどころか意外にも納得いく反応が多くあった。


「おや、皆さん樹里さんの気持ちがわかるのですか?」


 シエラは、クラスの皆に問う。


「うん、わかるよ」


「私もそう言うのあったから」


「私もあったよ、友達だと思ってたのにお金持ちだから付き合ってたって、こっそり隠れて言ってる所を聞いた時は、ショックだったよ、まあその子達とは、絶交したけど」


「そんな経験したら、確かに誰も信じられなくなるよね」


「親がお金持ちだと、一般の家の子達からしたら媚びを売ろうと寄って来る子とかいるよね、まあ中には、本当に友達になりたくて来る子もいるけど」


「少なくとも樹里ちゃんのような思いをしたら自分を守るためにそう言う行動も何となくわかるかも」


 各々が樹里の理由に賛同しているのだった。

 

「理由は、わかったよ、その気持ちは、わからなくないよ私だってそんな思いしたら、怖くて誰も信じられないもん」


「奈津美さんも樹里さんの理由に賛同ですか?」


「それとこれとは、違うよシエラちゃん」


「と言いますと?」


「樹里ちゃんの気持ちは、わかるよ、でもだからってそれで樹里ちゃんのした事を簡単に許せると思う? 何も知らなかった私達からしたらそれで? だから何? 自分のした事も仕方ないって思うの? 冗談じゃないよ勝手に巻き込まれていい迷惑だよ」


「奈津美さんの意見も一理ありますね」


「だから、樹里ちゃん」


「う、何?」


「簡単には、許さないよ」


「う、うん」


「だから、罰を受けてもらうよ」


「罰?」


 樹里は、怯えた感じになっている。

 でも、当然の事だと思っている。

 自分がどれほど酷い事をしたかを理解しているからだ。


「怖がらなくても大丈夫ですよ」


 そう言ってシエラは、樹里の手を握る。


「え?」


「言ったじゃないですか、私は、あなたの味方でいると」


 シエラは、強く樹里の手を握る。


「・・・・・・」


 樹里は、シエラに握られた手の温もりで怯えが治まる。

 どんな罰でも受けようと覚悟を決める。


「それで奈津美さん、どんな罰を与えるのですか?」


 シエラは、奈津美に問う。


「うん、それは、樹里ちゃんが私達を信じて本当の友達になる事だよ」


「え?」


 奈津美の答えに樹里は、疑問の声を上げる。


『??』


 そして、クラスの皆も疑問に思う。

 

「奈津美さん、それは、罰なのですか?」


 皆の疑問を代弁するようにシエラが問う。


「うん、そうだよ、だって樹里ちゃんは、今まで誰も信じられなかったんだものそんな子がいきなり誰かを信じるなんて難しいよ、ましてや今まで脅していた子達と友達になるなんて簡単な事じゃないからね、樹里ちゃんにとっては、罰になるでしょ?」


 奈津美は、笑ってそう言うのだった。


「・・・・・・ふっ、あはははははははははははは!!」


 シエラが笑い出す。


「シエラちゃん!?」


「どうしたの!?」


 クラスの皆は、シエラが笑い出した事に驚く。


「はははっ、いえ、ごめんなさい奈津美さんあなた凄いですね、確かに樹里さんには、これ以上ない罰ですね」


「そうでしょ」


 奈津美は、笑顔で答える。


(本当は、許す気があるけどそれだと樹里さんを甘やかす事になると思ったから、罰と言う形で友達になろうと言う考えになったわけですか、確かに許すと言う形より罰と言う形にすれば、樹里さんも自分が酷い事をしたと言う自覚をより強く持てますからね)


 シエラは、内心で奈津美の考えを言うのだった。


「シエラちゃん、私が言いたい事は、言ったよこれで全員終わったでしょ?」


「そうですね、それじゃ樹里さん」


「え?」


 シエラは、樹里を抱きしめる。

 突然の事に樹里は、驚く。

 クラスの皆も驚く。


「あの」


「よく頑張りましたね、偉いですよ」


 シエラは、優しく抱きしめたまま、樹里の頭を優しく撫でる。


「自分のした事に目を背けず、辛くても最後までよく受け止めましたね、これであなたは、一歩成長しましたよ、よく頑張りました」


「あ・・・」


「ですが、大事なのは、これからです、今までした事は、簡単には、消えませんから、ですが今は、あなたを褒めてあげます、本当によく頑張りました、偉いですよ」


 シエラは、樹里に優しく言う。

 まるで愛しいものに言うように。


「あ・・・あ・・・」


 樹里の目からは、涙が零れていた。


「あああああああー!! ごめんなさい!! ごめんなさい!!」


 樹里は、泣き出し謝罪を口にする。

 今まで我慢していたものを吐き出すように。


「良いのですよ、落ち着くまでこうしてますから、存分に泣きなさい」


 シエラは、そう言って優しく抱きしめたまま頭を撫でる。

 奈津美もクラスの皆もしょうがないなと言う感じで笑ってその光景を暖かく見守っていた。


(さてと、これで樹里さんも私に対して何かをするなんてしませんね、これだけの事をされたのですから、同じ思いをしたくないから、二度とかかわったりしませんね、これで心置きなく真理亜様を守る事に専念できますね)


 内心でシエラは、そう思っていた。

 ところが。


「落ち着きましたか?」


「うん」


「それは、良かったです」


 そう言ってシエラは、樹里から離れようとしたが樹里がシエラに抱き着く。


「樹里さん?」


「・・・()()()


「・・・・・・ん?」


 突然の樹里の言葉にシエラは、固まった。

 そしてそれは、奈津美やクラスの皆も同じだった。

 まるでこの教室の時が一瞬止まったかのように。

 

「あのー、樹里さーん? どういう事ですかー?」


 シエラは、言うが明らかに棒読みな感じだった。


「私が間違った時、厳しくても導こうとしてくれたから、頑張ったら褒めてくれたから、私一人っ子だからお姉様は、理想でしかないけどあなたは、私の理想のお姉様そのものだから、だから私のお姉様!!」


 樹里は、シエラを思いっきり抱きしめる。


『・・・・・・こ、壊れたああああああああああああああああー!!』


 クラスの皆が内心でそうツッコむ。


「シエラちゃん」


 奈津美もさすがにこうなるとは、思わなかったのか苦笑いをする。

 そしてシエラは。


(・・・・・・もしかして私、開けては、いけない扉を開けてしまいました?)


 どうやらそのようである。





 

 

読んでいただきありがとうございます。

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