消えた温もり
姉さんが消えてから数時間。
研究室には警察が何人も入り、調査を行っていた。
「この死体はあっちへ運べ」
そんな声が響く中、俺は椅子に座り周囲を見るしかできなかった。
「災難でしたな」
「……あなたは」
俺の前に立った人は、白髪で白い髭の男性。レイジ教授だった。
「レイジ教授……」
「僕を知っているのですね」
「あ、いや、その……」
「まあ、もしかしたら、白い髭で白髪の男性となれば、君のお姉さんから聞いているかもしれませんね」
「……はい」
教授の言葉に助けられた。
「マリーさんはまだ見つかりませんか」
「はい。光に包まれたあと、消えてしまいました」
「そうですか。まるで僕のようですね」
「……僕のよう?」
とぼけるしかなかった。もしここで博士が光に包まれていないといえば、自白したことになる。やったのはジョージさんだけど。
「僕は今日までずっと、誰にも見えませんでした。今日、君と話したのが久しぶりの人との会話です」
「そうなんですね」
そんな会話をしながら、俺は目の前の警察の動きを目で追うしかなかった。
「マリーさんはとても良い人です。僕には勿体無い人とも思っています」
「……」
「雷でご両親が亡くなったことも知っています」
「……」
「だから、僕と結婚して君を僕の下で働かせるという話も聞いています」
「姉さんがそこまで?」
「ええ、本来は雷の研究の部下として雇うつもりでしたが、別案件で君をスカウトしようと思います」
そう言って、レイジ教授はジョージさんの死体に指をさす。
「あれは、一体何ですか?」
「あれ……といっても、ジョージさんの亡骸としか」
「髪は白く、顔はシワだらけ。まるで僕よりも年上にしか見えません。何かを吸い取られたかのような姿です」
「……」
魔力というものが本当に存在し、科学で解明できるのであれば、そう答えただろう。だが、今の知る知識では答えが出ない。
「近年流行した物語では、そういう精神的概念や異常現象が描かれています。仮にそれは作者本人の実体験だとしたら、君はどう思いますか?」
「関わりたくありません」
「ですが関わりました。そして君のお姉さんは消えました」
「はい」
「では、次はどうするか、ひとつ僕に答えを聞かせてくれませんか?」
「俺に、魔術について、研究させてください」
そして、唯一の手掛かりであるネクロノミコンを持ち、俺は研究を行う。
絶対にどこかに姉さんはいる。そう信じて。
いとです。今回は少し暗めのお話を書いて見ました。
自分なりの課題としては、今作品では「表向きは禁書を出して、裏では姉の心情が考察できる」物語としました。
今後も色々挑戦して行きたいと思います! よろしくです!