禁書使用者の末路
そして数日が経ち、今まで無言だった朝食に言葉が交わされた。
「ガルム、何かやったのでしょう」
「何……というと」
「レイジ教授が行方不明になったの。ワタクシがガルムに話してからよ。何かしたか話しなさい」
「俺を疑うの!」
あれはジョージさんの行いで、俺は何も。
「ジョージ……? ジョージなの!」
「え、俺は何も……」
まるで心が読まれているかのような、そんな感覚さえあった。
「これくらいあなたの目を見ればわかるわよ! それよりもジョージが何かしたのね!」
「待って! 姉さん、ジョージさんは姉さんを思って」
「知らないわ! ジョージよりもワタクシとガルムの将来の方が大事よ!」
「でも、ちょっと待って!」
止めようとしたが、姉さんはすぐに外に出た。
「ジョージ! 何をしたの!」
姉さんの足は俺よりも早く、研究所に到着すると、ジョージの首を絞めていた姉さんの姿があった。
「マリー。お、落ち着くんだ! わ、私は何も」
「嘘を言わないで! 何かしたからレイジ教授は消えたのでしょう!」
「何を根拠に言っているんだ!」
「それは……そうね、その本が怪しいわ」
あり得ないと思った。
姉さんは、まだ見せたこともないはずの魔術書に指をさして疑った。
「待ちたまえ。ガルム君! 何か話したのかい!」
「いえ! 一言も……」
「弟の考えなんて姉ならわかるわよ!」
「それにしては度が過ぎている……まさかマリー、君は……」
そう言って、ジョージさんは姉さんを見つめる。
いつもの緊張と照れ臭い感じの甘い空気とは違い、氷のような冷たい空気が漂い、無言が続く。
「マリー、君も……魔術を!」
「っく!」
姉さんはジョージさんを突き飛ばし、深呼吸をする。
「ジョージさん、一体何を……」
「私は最近覚えた『心情読破』という心を読む魔術を使ったのだが、マリーの心は読めなかった……マリー、まさか私の知る以上に魔術を!」
まったく話についていけなかった。え、魔術ってあの小説が有名になって広まった言葉で、物語のはずじゃ。
「そうよ。魔術……正確には神々の術とも言われているけど、ジョージの知る以上にワタクシは知っているわ」
「まさか、まさか私以外にこの……この魔術書を読めるものがいたなんて!」
突如ジョージさんは机を思い切りたたき出した。恐怖、憎悪、様々な感情が浮かんでいるようだった。
「ジョージさん、落ち着いてください!」
「無駄よガルム。ジョージの魔力は切れて、今は正常を保てないわ」
「魔力切れ?」
「ええ、人間の目には見えない精神の部分の力を使って、心を読んだり、相手を見えなくする。この力はそういう力なの」
「姉さんはそれを今まで……」
「……」
俺の言葉に姉さんは黙り込んだ。
「そんな、いつも俺の考えを読んでいたのは、この力を使っていたから?」
「待って、全部じゃないわ!」
「でも、姉さんはそれを今日まで黙っていた!」
「聞いて!」
俺は気が気じゃ無かった。今まで信じていたものがすべて失った感覚に陥った。
そんな中、ジョージさんは突如笑い出し、魔術書に触れた。
「しまった!」
姉さんが焦る中、ジョージさんは不気味な笑いを浮かべ、何かを唱える。
「ガルム! 聞いて、ワタクシは決してあなたの敵じゃない!」
「でも、姉さんは……」
「秘密はある! 今日だってあなたはワタクシにずっと隠してた! 研究を一人でやって、収入をすべて家に収めていたことも黙っていた。ワタクシは知っていたけど、ガルムが言うまでは黙っていたの!」
そうだ。
俺はずっと黙っていた。
姉さんのためと思って、ずっと頑張ってきた。
姉さんは知っていたのに、ずっと黙って見てくれていた。
「だまれえええええ!」
突如ジョージさんが叫ぶ。
「魔術は……魔術は私だけのものだ! 誰にも渡さない!」
本が輝き始めた。あれは一体……。
「私以外の魔術師は、消えてしまええええ!」
その言葉と同時に、姉さんが。
笑みを浮かべて、光に包まれ。
この世界から消えていった。