姉の決断
仕事が終わり家に帰ると、姉さんがいつも家で夕食を作っていた。
両親は結婚して数年後に不慮の事故で亡くなり、血の繋がっていない姉と二人で生活することになった。
最初は気まずい空気もあったが、次第に慣れが生じて今では普通に生活ができるようになった。
そして今日もいつも通り家に帰り、姉さんが食事の準備を終えた後、真剣な顔で俺に話をし始めた。
「ガルム。話があるの」
「ん?」
「結婚しようと思ってるの」
「……ジョージさんと?」
ふと、そんな言葉が無意識に出た。だって、普通に考えたらそうだと思ったからだ。
だが、姉さんの答えは虚しく、俺の質問を否定するものだった。
「なんでジョージと?」
「あ、ああ、いや、俺の知っている範囲で姉さんの知っている男はジョージさんしかいなかったから」
「面白いことを言うわね。でも違うわ。大学で知り合った教授よ」
「教授?」
「ええ、かなり年上だけど、でも悪い話じゃ無いと思って」
「……姉さんはそれで良いの?」
俺の質問に、一瞬戸惑いがあった。
「うん。教授の将来と、ワタクシ達の今後を考えると、最善だと思うの」
「教授はどんなことを?」
「……雷の研究をしている人よ」
「ダメだ!」
瞬時に言葉が出てしまった。
理由は俺だけでなく、姉さんもわかるはずだ。雷は……。
「わかっているわ。雷はワタクシ達の両親を奪った。でも、それを科学で解明すれば、両親のような悲劇は今後起こらないと思うの!」
「でも……」
俺にはこれ以上言葉が見つからなかった。
姉さんには幸せになってほしい。大学の教授ともなれば収入面でも期待でき、姉さんが仕事を辞めて子を授かっても問題はない。
だが、雷だけはどうしても駄目だ。
「わかってほしいの。これ以上、ガルムには苦労をかけたく無いの」
「苦労なんてかかっては」
「いいえ、毎日研究して、ジョージの代わりに色々とレポートを提出して、自分のお金をすべて生活に回している姿を姉のワタクシが気づかないと思ってた?」
バレていた?
確かに姉さんの言っていることは当たっているが、それを完全に隠していたと自信を持っていた。一体いつから……。
「最初から分かっていたわ。ガルムがジョージの代わりに研究をして、ジョージは別のお金にならない研究をして、色々我慢していたことも。だからね」
一息ついて、姉さんは真剣な目で俺を見る。
「教授の……夫となる人の下で、働いてほしいの」
衝撃だった。
今まですべて我慢して、ジョージさんの研究所で働き、少ない収入で切り盛りしてきたのは事実だが、これではまるで……。
「姉さんが身を犠牲にしてるようじゃないか!」
そう言わざる終えなかった。
「そんなことないわ。教授は優しい人よ。雷についての研究も順調だし、それにね、今日渡されたレポートを見て思ったの。雷に近い何かがあるって」
「……それは」
雷と摩擦が何かしら関係があるかはわからない。しかし、そう説得されてもすぐには納得できなかった。
「ごめん姉さん。少し考えさせて」
「わかったわ。今すぐは難しいわよね。良い返事を待ってる」
「……」
その質問に答えは、出せなかった。