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怖い夢

作者: 中根すあま


おかしい、と思い始めたのはいつのことだっただろうか。

4月に別の学校から転任してきた校長は、着任式の挨拶で全校生徒にこう伝えた。

「わたしは出来の悪い生徒が嫌いです。この1年間で一定のレベルに満たなかった生徒は徹底的に排除し、最後のひとりとなった生徒だけが、わたしの教え子です。」

女の人だった。体は痩せ細り、頬はこけていて、どことなく魔女のような雰囲気の彼女は、それだけ言い放つと、颯爽とステージを後にしたのだ。

案の定、体育館は生徒たちのどよめきに包まれ、ただ事ではない空気のまま、着任式は終わった。


高校生という生き物は呑気なもので、どんなに衝撃をうけた出来事でも、楽しいことがあればすぐに忘れてしまう。

そうして、やってきた5月。

全校集会でステージに上がった校長は、長々と話をした。

15分、30分、1時間、2時間…校長の話は終わらない。

校長の話が3時間を超えた頃から、周りの人間たちがばたばたと倒れ始めた。

ずっと立たされていた生徒たちが、限界を迎えたのだ。

その様子を見た校長が口の端を釣り上げて笑う。

「残念、脱落です。」

その言葉を合図にして、周りを取り囲んでいた教師たちがポケットから銃を取り出し、倒れた生徒たちを撃ち始めた。

思えばこれが、全ての始まりだったように思う。


その後も校長は、様々な方法で生徒を「脱落」させていった。

教室に空調を管理する機能は一切無いため、生徒たちは、夏は熱中症に倒れ、冬はインフルエンザが蔓延、数百名の「脱落者」が出た。

調理実習では、用意されていたかのごとく食中毒が起き、学校の前の横断歩道では交通事故が多発。隙を見せた生徒から順に、無残な死体となっていったのだ。


保護者たちはなぜ止めなかったのか、そう思うかもしれない。

日本では、かつて行っていた「ゆとり教育」を重大な失敗ととらえ、若者たちに厳しく接する教育が進められていた。

そんな中この学校で行われた「脱落者」制度は、斬新で画期的だと高く評価されたのだ。

保護者たちはいくら我が子が殺されようと、国の意向には逆らえず、泣き寝入りをしていたようだ。

と、説明をしてみたはいいが、どう考えても異常である。

もっとも恐ろしいことは、この異常性に、僕以外誰ひとり気がついていないということだ。


3月、修了式の日。

体育館に立っていた生徒は、僕ひとりだった。

校長はいつもの不自然極まりない笑顔で、僕にこう言った。

「1年間、よくがんばりました。あなたが、あなただけが、わたしの教え子です。」

僕は周りを見回す。

そこには、ごみとなったかつての友人たちが無造作に捨てられていた。

血なまぐさい体育館。

僕は、死んだ目をした教師のポケットから銃を奪い取り、素早く校長の方に向けた。

どさ。

魔女の体がごみになる。

僕は、勝ったのだ。

何に?僕は何に勝ったのか?

分からない、わからないわからない。

わからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからない。



ぐわん。

視界が急に歪みだす。

ぐわんぐわんぐわん。



これは。

夢だったのか。

随分と物騒な夢だったな、とそんなことを思う。

ここは、日本、理想の国。

法律はない、時間の概念もない、お金も必要ない、好きなときに好きなことを好きなだけ、自分の気持ちの赴くままに。

窓の外から聞こえるのは、銃声、怒号、だれかの悲鳴。

だけど、いいんだ。

ここは日本、理想の国。

最高の自由と、ゆとりが与えられているのだから。

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