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ビルの中の魔法使い  作者: 木原式部
6. Stand by Me(スタンド・バイ・ミー)
96/105

(23)

 七海は神社の本殿への道をひたすら走りながら、何だかいつもと違う雰囲気を感じていた。

(――何か、いつもよりも辺りが暗いような気がするんだけど)

 この神社は地元でも有名な神社だ。七海も何回か訪れたことがある。

 神社の中は木が生い茂っていて緑が多いから、確かに太陽の光を塞ぐような感じもあることはあるが、それにしてもいつもより暗い。

 暗いだけでなく、何だか辺りの空気もどんよりとしているような気もする。

 七海は特に霊感みたいなものはないが、それでも、この暗さと空気のどんより感が神社の境内に相応しくない「邪気」みたいなものなのではないかということは、何となくわかった。


 七海は不意に怖くなってきた。

 でも、ここまで来たんだからもう引き返せない。七海は首を横にブンブンと振りながら本殿の方へと進んで行った。


 七海も参拝したことがある神社の本殿が見えてくると、お賽銭箱の向こう側の床に誰かが倒れているのが見えた。

(――あれ、あかねさんだ!)

 七海はあかねの姿を見て先を急ごうと思ったが、ふと誰かに腕を掴まれて、立ち止まってしまった。

 七海は背筋が凍る程の寒気を覚えた。

 恐る恐る後ろを振り返って見ると、今のこの神社内の空気のようにどんよりとした黒ずくめの服を着た男が、自分の腕を力いっぱい握っている。

 七海は思わず顔をしかめて腕を振り解こうとしたが、自分の腕を握っている男の手はビクともしない。

 良く見ると、男は全身黒ずくめの服を着ているが、そこだけまるで何かで切り取ったかのように白いカッターシャツを黒いジャケットの下を着ている。

 七海は男のカッターシャツの鮮やかさな白さを見て、軽い眩暈を覚えた。


「――はっ、離してください!」

 七海は一応声に出して抵抗してはみたが、腕を握る男の手の強さは変わらない。

 七海は男に腕を掴まれたまま、引きずられるように神社の本殿へと連れて行かれた。



 七海が賽銭箱の近くまで引きずられていくと、本殿の奥から男が一人出て来た。

 自分の腕を握っている男と同じように全身黒ずくめの服装だが、そこだけまるで何かで切り取ったかのように真っ白いアドミラルのスニーカーを履いている。

(――この男の人)

 この男の人、見覚えがある、と七海は思った。

 晶の親戚だとか言う、魔法使いだ。

 自分に晶を「どうにかする」呪いをかけて、ビルの外に出た晶と自分を捕まえようとした、あの男だ。


「お前ひとりか?」

 晶の親戚の男は、掛けている黒縁の眼鏡の奥の瞳をギラリと光らせながら言った。

「ひとりです」

 七海は男の瞳の奥の「ギラリ」とした光にたじろぎながらも、なるべく大きな声でハッキリと答えた。

「あいつ、お前をひとりでここに寄越したのか? ひどい男だな」

 男が含み笑いをしたので、七海は「ムッ」とした気持ちになった。

 晶のことをひどい男だなんて、自分こそ「ひどい男」ではないか。

 せっかく晶が父親から譲り受けた魔法の継承を横取りしようとしているし、そのために晶の母親であるあかねさんまで誘拐して……。

(――堀之内さんだって、この人がいなければ、ビルの外に自由に出かけられるのに!)


「私がひとりで勝手にここに来たんです! あそこにいるあかねさんを、堀之内さんのお母さんを引き取りに来ました」

 七海は怖さと怒りで足がガクガクに震えていたが、口から出る言葉だけは毅然きぜんとしたものにしようと、頑張って大きな声を出した。

「あの男はどうした? あの男の『魔法の継承』と引き換えだ。あの男をここに連れて来い」

 やっぱり、この男の人は晶があかねと絶対に会えないことを知らないんだ、と七海は思った。

 だったら……、と七海は怖さと怒りでぼんやりとする頭を一生懸命働かせながら、どうすればよいか必死に考えた。

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