(22)
七海と晶は何とか目的地の神社の入り口の鳥居のところまでたどり着いた。
「さて、何とか着いたけど、これからどうすっかな?」
晶が大きな鳥居を見上げながら言った。
「あの、堀之内さんの親戚の人たちとかあかねさんとか、神社のどこにいるんでしょうか?」
「多分、本殿じゃね? あそこが一番神聖な場所だし。魔法の継承をどうこうするには持ってこいの場所だよな」
「でも、いつも神社にいる神主さんとかどうしているんですか? いきなりに魔法使いが本殿に居座っていたら、邪魔じゃないんですか?」
「あいつらも一応魔法使いだから、そこら辺は上手くやってんじゃね?」
七海はあかねのことはもちろん心配だったが、今度は元々神社にいる神主や巫女のことも心配し始めた。
「えーっ! じゃあ、早くどうにかしないといけないじゃないですか! 取りあえず、堀之内さんが本殿行けないんなら、私行きます!」
七海が鳥居を潜ろうとすると、晶が慌てて七海のブラウスの襟元を引っ張った。
「おい、待てよ! お前がのこのこ行ったら、それこそ『ミイラ取りがミイラになる』ってヤツだぞ! 大体、お前が行ってどうするんだよ? 『魔法の継承は諦めて、堀之内さんのお母さんを解放してください。神社の人も迷惑してます』とか都合の良いこと言おうとか思ってないよな?」
「えっ? もちろん、言おうと思ってましたよ」
七海が当たり前のような表情で言うと、晶はため息をついた。
「お前さあ、そんな都合の良いことが通用するんだったら、あいつら最初から母さんを誘拐なんてしねーよ!」
「じゃあ、どうするんですか? まさか、堀之内さん、あかねさんと引き換えに魔法の継承を親戚の人に渡そうとか思ってるんですか?」
「そんなん、絶対ヤダよ! あいつらなんかに父さんからもらった魔法の継承を絶対に渡してやるものか! 俺は父さんに『母さんと魔法を頼む』って言われたんだよ! それに……」
「それに?」
「あいつらに魔法の継承を渡したら、俺、死ぬかもしれねーし」
「えっー!」
七海は思わず大声を上げた。「どうして、魔法の継承を渡したら、堀之内さんが死んじゃうんですか?」
「だって、魔法の継承って、本当だったら魔法使いが死ぬ一年前からやるもんだし。魔法使いは自分が死ぬとわかったら魔法の継承を始めて、継承が終わったら死ぬんだよ。俺だって、父さんが死ぬ一年前から山にこもって継承したんだぜ」
「それって……」
それって、つまり、晶は自分の父親の死期を知っていた、ということなのだろうか。
(――そんな悲しいことって、あるの?)
七海は晶のビー玉のような瞳を、ただジッと見つめた。
このキレイなビー玉のような瞳の中には、たくさんのツラさや悲しみが閉じ込められていると言うのだろうか。
だからこそ、こんなにビー玉のようにキラキラとキレイに輝いていると言うのだろうか……。
「何だよ、お前、また急に黙りやがって」
急に俯いて静かになってしまった七海を見て、晶が不思議そうに声を掛けてきた。
晶の言動は相変わらずふてぶてしい。
でも、今の七海にはこの晶のふてぶてしささえも、晶の心の中にあるツラさや悲しみの裏返しのように思えてならなかった。
「絶対ダメです!」
七海は顔を上げると、晶の腕をすがりつくように掴みながら言った。
「えっ? お前、何? どうしたんだよ、いきなり」
晶は七海の真剣な表情を見て、「はあ?」と言った表情をした。
「絶対ダメです! 堀之内さん、死なないでください! 後、魔法の継承も親戚に渡さないでください! 絶対です! 絶対に死なないでください。私、堀之内さんが死ぬの、絶対にイヤです……」
「お前に言われなくたって、そーするし、俺は死なねーよ」
晶はなぜか七海から視線を逸らすと、またふてぶてしい口調と表情で言った。
「だから私……、やっぱり本殿に行ってきます!」
七海はすがりついていた晶の腕から手を離すと、鳥居を潜り、神社の中へと走って行った。
「えっ?! 待てよ!」
七海の耳に晶の声と、何やら木が「ドサドサッ」と倒れる音が聞こえた。
多分、晶が神社に近付こうとしたから、近くの木が晶の行く手を阻むように倒れて来たのだろう。
晶の言った「ミイラ取りがミイラになる」と言う言葉。
七海も確かにその通りだと思った。
でも、自分以外にあかねに近付ける人間はいないし、あかねを捕えている晶の親戚に近付ける人間もいない。
やっぱり、自分がどうにかするしかないんだ。
七海はそう思いながら、ひたすら本殿の方へと向かって走って行った。




