(21)
その後も走っている二人の行く手を阻むように長い連節バスが現れたり、突然植木鉢が落ちてきたり、どこかの看板が風もないのに目の前に倒れて来たり……。
(――私と堀之内さん、本当に神社までたどり着けるの?)
何度も降ってはわいてくる障害物に(もう、ダメかも……)と七海は思ったが、晶に手首を引っ張られながら、何とか目的地の神社の鳥居が見えるところまでたどり着くことが出来た。
(――後、少しだ)
七海は真っ赤な鳥居を見ると、ホッと胸をなで下ろした。
しかし……。
七海は自分の背後に、ふと只ならぬ気配を感じて振り返った。
犬がいる。
首輪を付けていないから、野良犬か何かなのだろうか。
ただ犬がいるのであれば、七海もそれほど気にも止めなかっただろう。
でも、その犬は明らかに七海と晶の方に「敵意」とも言える鋭い視線を投げつけていた。
「ほっ、堀之内さん!」
晶が振り返ったと同時に、犬は七海に向かって大きく口を開けて跳びかかって来た。
(――襲われる!)
七海が心の中で叫んだ。
「危ない!」
晶は七海の手首を離し、グラジオラスの花束から一輪グラジオラスを抜き出すと、七海に襲い掛かって来た犬に向かって投げつけた。
グラジオラスの花が当たった途端、犬はみるみる内にしぼんで行き、やがてグラジオラスの花と一緒に道路の上に落ちた。
七海が道路に落ちたグラジオラスの花に目をやると、グラジオラスの花びらの上に、一羽のアゲハチョウがヒラヒラと羽を動かしながら止まっている。
(――あの犬、アゲハチョウになっちゃったの?)
アゲハチョウはグラジオラスの花から飛び立つと、呆気に取られている七海と晶の間を通り抜けて、どこかへ行ってしまった。
「ほっ、堀之内さん!」
七海は呆然としている晶の方を振り向いて言った。「やっぱり、魔法使えるじゃないですか! あの犬、アゲハチョウになりましたよ!」
「あっ、ああ……」
晶は道路に落ちているグラジオラスの花を、「信じられない」というような表情で見つめた。
「ありがとうございます、助けてくれて。そう言えば、さっきもおじいちゃんとぶつかりそうになったところを魔法で助けてもらったし……、ありがとうございます!」
どういうタイミングで魔法が使えるのかはわからないが、晶はビルの外でも魔法が使えることは使えるんだ……。
七海が笑顔で礼を言うと、晶は何故か何かに気付いたかのような「ハッ」とした表情をした。
「もしかして……」
「えっ? 何か言いましたか?」
晶が珍しく真剣そうな表情をしている。
七海は「あれっ?」と思ったが、晶の表情はすぐにいつものふてぶてしいものに変わってしまった。
「別に何でもねーよ。おい、ボーッとしてないでさっさと行くぞ」
晶は七海に背を向けると、また「ガツガツ」と神社に向けて歩き始めた。
「あっ、待ってください!」
七海は慌てて晶の背中を追いかけた。




