(17)
どういう事情で七海がそばにいれば魔法が使えたのかはわからないが、どういう事情であれ「助かった」と七海は思った。
(――だって、堀之内さん一人で行ったって、あかねさんと二度と会えないようになっているなら、どうやったって救えないじゃないの)
七海は晶の背中を見ながら心の中で呟いて、何とも切ない気持ちになった。
せっかく「ビルの中でしか魔法が使えない」「母親に二度と会えない」という条件をのんで母親を生き返らせたというのに、肝心の母親に会えないなんて……。
晶は一体、今までどういう気持ちで生きてきたのだろうか。
悲しかったのか、淋しかったのか、ツラかったのか、切なかったのか、悔しかったのか、これらのどの感情を抱いて生きてきたのだろうか。
いや、もしかすると、「どの感情」ではなく「全ての感情」を抱いて生きてきたのかもしれない。
自分だって姉が亡くなって、悲しかったし、淋しかったし、ツラかったし、切なかったし、悔しかった。
でも、自分の姉はもう亡くなってしまってこの世にいない。
亡くなってしまった姉に対する感情よりも、本当は生きていて会える状況であるというのに絶対に母親に会えない晶の方が、よっぽど複雑な感情で生きてきたのではないだろうか、と七海は思った。
(――もしかして、そんな複雑な感情を隠すために、いつもあんなふてぶてしい態度でいるのかな?)
七海は晶の背中をジッと見つめながら思った。
七海が晶の背中を見ていると、ふと晶が立ち止まって、横を向いた。
(――キレイな横顔)
七海は晶の横顔を後ろから見ながら思った。
風がそよそよと吹くたびに、晶の少し茶色い柔らかそうな髪の毛がさらさらとなびく。
立ち止まった晶は橋から川をジッと眺めている。
その眺める晶の表情が、何とも切なそうに見えるのは気のせいだろうか。
県内のランドマークの一つでもあるこの橋。
七海はそれこそ毎日、通勤でバスに乗りながらこの橋を渡っているから、橋からの風景は見慣れたものだ。
でも、七海にとっては「見慣れた風景」でも、晶にとっては「滅多に見られない風景」なのだ。
もしかすると、「二度と見られない風景」なのかもしれない……。
「――お前、何だよ? 立ち止まってボーッとして」
晶がふと口を開くと七海に向かってふてぶてしい口調で言った。
七海が見とれていた「キレイな横顔」は、いつの間にか「ふてぶてしい表情」に変わってしまっていた。
「何言ってるんですか? 堀之内さんが立ち止まったから、私も立ち止まっただけです」
「そうだっけ?」
「そうです!」
「まあな、川、キレイだしな」
晶は橋の欄干に手を掛けると、また川の方を見つめた。
晶のそれこそ「美青年」という言葉がピッタリ来るような顔立ちの口から、「キレイ」という言葉が出てくるのは意外だった。
七海は晶の隣に並んで立つと、一緒に水面を見つめた。
七海はチラリと晶の方を見上げた。
あのいつもふてぶてしい表情の晶が、今は珍しく穏やかな表情をしている。




