(15)
今朝のN市は良く晴れている。
しばらくするとこの辺りの道は通勤・通学の人間で溢れてくるのだろうが、早朝の今は人通りがほぼなかった。
ジョギングをしたり犬の散歩をしている人がチラホラ、車もチラホラと通っている程度だ。
七海は時々、物陰や電信柱や木の影に隠れながら、晶の後をこっそりとついて行った。
今のところ、前を行く晶に気付かれている様子はない。
(――でも、どうしよう)
もうすぐこの県内でも有名な、ランドマークの一つとも言える橋の入り口に到着してしまう。
橋に入ってしまったら、隠れるものが何もなくなってしまうのだ。
(――取りあえず、堀之内さんが橋を渡り切るのを待ってから私も渡ればいいのかな? でも、それだと絶対に見失ってしまうかも)
晶は背が高くて脚も長いせいなのか、歩くのが早い。
背も低く運動も苦手な七海は、晶の後をついて行くだけでもかなりへとへとになってしまっていた。
一応、行先は七海も良く知っているH神社だとわかっているから、晶のことを見失ったってどうということもないのかもしれない。
でも、自分が神社に着く前に、晶に何かあったら……。
七海がいろいろと考えながら晶の後を歩いていると、ふと晶の歩みが止まった。
七海も慌てて歩みを止めると、近くにあった植木に隠れた。
(――まさか、バレたのかな?)
七海が息を潜めて植木の陰でジッとしていると、晶の「ガツガツ」という足音が自分の方へ向かってくるのが聞こえてきた。
「お前、さあ」
晶が七海の隠れている植木を覗き込んだ。「さっきから黙ってれば良い気になりやがって! あんなに『ついて来るな』って言っただろ?! 何でついて来てんだよ!」
「さっき、から?」
七海は晶の顔を見上げながら、首を傾げた。
「そうだよ!」
「さっきからって、まさか、さっきからバレていたんですか?」
「バレバレなんだよ! お前、わかり易すぎるんだよ! 本屋のところからついて来てただろ? その内、諦めるかと思って黙ってたけど、しつこいんだよ!」
「そんな……。絶対バレてないと思ってたのに」
七海が悲しそうな声を出すと、晶は「何だ、コイツ」というような呆れた表情をした。
「お前、その自信どっから来るんだよ? もっと上手く尾行したいんだったら、刑事ドラマでも観て勉強してから出直して来い。とにかく、さっさとノブさんのところに戻れ」
「えっ? ……イヤです!」
七海がキッパリと言って首を横に振ると、晶も首を振り返した。
「お前がいても足手まといだって言っただろ? お前が来てるって知ったらノブさんも心配するし、とにかく戻れ!」
「イヤです! だって、だって……」
七海は何とか「自分が晶について行っても良い理由」もしくは「足手まといにならない理由」を見つけようと、必死になって頭を働かせた。
「だって、だってって、何だよ?」
「だって……。ほら! 堀之内さん、私と一緒にいた時、ビルの外なのに二回も魔法使えたじゃないですか!」
「はあ? 何だ、それ?」
「ほら、あの親戚の魔法使いの人が襲ってきた時ですよ。私と一緒にいた時、ビルの外なのに二回も魔法が使えましたよね? 私のそばにいれば、また魔法が使えるかもしれませんよ」
七海はなるべく笑顔を浮かべながら穏やかに言ったが、晶の表情はますます不機嫌になって行く一方だった。
「『私のそばにいれば』って……。お前、本当にどこからその自信がやってくるんだよ? まあ、本当にお前がそばにいて魔法が使えるって言うんなら連れてくけど、お前にそんな力があるわけないだろう?! いいから帰れ! さっさと帰らねーと、この橋から突き落とすぞ!」
晶は言うと、くるりと七海に後ろ姿を見せて、さっさと橋の上を歩き始めた。




