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ビルの中の魔法使い  作者: 木原式部
6. Stand by Me(スタンド・バイ・ミー)
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(13)

「――でも、どうしてお前の親戚は愛美さんを誘拐なんてしたんだ?」

 しばらくの沈黙の後、信彦が訊くと、晶は顔を上げて目元を服の袖で拭った。

「あの紙に『H神社に来い』って書いてあったよな? あいつら、母さんと引き換えに俺の魔法の継承を差し出せって言ってるんだよ」

「魔法の継承を? でも、何で『神社に来い』でそれがわかるんだ?」

「魔法を引き継ぐ時は、神聖な場所でやらないといけねーんだよ。ノブさん、俺が父さんから魔法を受け継ぐ時、一年間Y山にこもったこと、覚えているだろ?」

 晶が地元でも有名なパワースポットの神社がある山の名前を言うと、信彦は頷いた。

「覚えてるよ」

「本当だったらああいう山で一年間くらいかけてやらないといけねーんだけど、あいつら、とりあえず俺の魔法の継承がもらえれば何だっていいんだろうな。だから、あの神社なんだよ。ほんっとにあいつらふざけてるよな。魔法を何だと思ってんだよ! あいつらに俺のやってることが出来るかってんだよ!」

 晶が立ちあがって大きな声を出すと、信彦が「まあ、落ち着け……」と晶をなだめた。

「お前、じゃあ明日、その神社に……」

「もちろん、行くさ」

 晶が当たり前のようにさらりと答えると、七海と信彦も「えっ?!」と驚きの声を上げた。


「行くんですか?」

「本当に行くのか?」

 七海と信彦が同時に言うと、晶は二人を見下ろしながら「何言ってんだよ?」というような表情をした。

「行くに決まってるだろ? 母さんがどうかなるのなんて、二度と見たくねーよ!」

「お前、じゃあ、魔法の継承は?」

「もちろん、あいつらになんて渡さねーよ! あいつらに渡したってロクなことにならねーのはわかってるし。だから、取りあえず明日行って、取りあえずその時に考える」

 取りあえずその時に考えるって、あまりにも計画性がないではないか……と七海は心の中でため息をついた。

「でも、お前が行って、愛美さんは誰が助けるんだ? お前が行ったって愛美さんに二度と会えないのなら、救えないだろ?」

「だから、取りあえずその時に考えるって!」

「じゃあ、僕も一緒に行こう。愛美さんを救うためだったら……」

 信彦が立ちあがりながら言った。

「ダメだって、ノブさんだって母さんに会えないんだって!」

「あっ、そうだった……」

 信彦は言葉に詰まって俯いてしまった。


 七海は晶と信彦の様子を黙って聞いていたが、ふと立ち上がって言った。

「じゃあ、私が行きます!」

「えっ?!」

 晶と信彦が驚いた表情を七海に向けた。

「だって、私だったらあかねさんに普通に会えますし、堀之内さんの親戚にも面識があるし……」

「はあ? お前、何ふざけたこと言ってんだよ。絶対に来るな! 絶対に!」

 晶が予想以上の剣幕でまくし立てて来たので、七海はひるみそうになったが、グッと手の平を握りしめて、晶の方にジッと見た。

「でも、私が行かなかったら、誰があかねさんを救うんですか?」

「お前が来なくたって、何とかなるさ。第一、お前が来たって足手まといなだけなんだよ。いいか、絶対に来るなよ! 来たら、それこそ魔法でどうにかしてやるからな!」

「そんな……」

 確かに足手まといになるかもしれないが、そこまで邪険にしなくても……、と七海は何だか淋しい気持ちになった。

(――私はただ単に、堀之内さんの役に立ちたいと思っただけなのに)


 七海の両目から、自分でも気付かないうちに一つ二つと涙が溢れ出てきて、七海の両頬を伝って落ちて行った。


「えっ?! お前、何で泣いてるの?」

 晶が突然涙を零し始めた七海を見て、驚いた声を上げた。

「だって……。だって、私、堀之内さんの役に立ちたいと思っただけなのに、いくらなんでも、堀之内さん、そこまでジャマ扱いしなくてもいいじゃないですか……」

 七海は手の甲で溢れてくる涙を拭いながら、途切れ途切れ言った。

「そんなん言われても、ジャマなものはジャマだし……。まるで俺がお前を泣かしたような感じで言うなよ! 勝手に泣いたの、そっちだろうが!」

「そんなジャマジャマって言わなくても……。どうして私の気持ちをわかってくれないんですか?」

「そっちこそ、どうして俺の言ってることがわかんねーんだよ!」

「まあまあ……」

 七海と晶の間に信彦が割って入ってきた。「二人とも落ち着いて。――七海さん、気持ちはわかりますが、七海さんが晶について行くのは危険ですよ。晶だって、言い方があるだろう? どうして自分の気持ちを素直に伝えられないのか……」

 信彦がため息交じりに言うと、晶は信彦に鋭い視線を向けた。

「俺はいつだって素直だよ! いいか? 絶対についてくるなよ。取りあえず何とかするから、絶対についてくるな!」

 晶はまた七海に向かってまくし立てたが、七海は心の中でブンブンと首を横に振っていた。


(――取りあえず何とかするって、絶対何とかならないじゃないの!)

 晶はビルの外に出たら魔法が使えないし、母親に会えないのであれば、あかねさんを救うこともできない。

 事情を知っているノブさんも、あかねさんに会うことはできない。

 だったら、あかねさんに会える自分が何とかしないと……。

 七海の心は決まっていた。

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