(3)
七海はあかねと連絡先を交換すると、歩いてワイナリーを後にした。
(――まさか、あかねさんの記憶がないなんて)
やけどの痕まで一緒だから、もしかすると晶の母親ではないかと思ったが、「もしかすると」が「やっぱり」に変わったくらいの衝撃的な事実だったな、と七海は思った。
信彦は前、晶の母親は数年前の地震の時に、階段から落ちて頭を打って亡くなったと言っていた。
(――あの地震、確か6年前だった)
晶の母親が亡くなった年とあかねの記憶が無くなった時期も一致する。
これはもう、「偶然」で片づけられる問題ではなさそうだ。
七海はいろいろと考えながら、信彦が待っているであろうスーパーの駐車場まで急いだ。
スーパーの駐車場に着くと、七海は隅に停めてある信彦の車の窓ガラスをコンコンとノックした。
「――ああ、七海さん、お帰りなさい。どうでしたか?」
助手席に入ってきた七海に信彦が訊いた。
信彦の顔は、いつになく真剣な表情だった。
「あの、やっぱり、あのあかねさんという方、堀之内さんのお母さんみたいな感じがします」
「何かわかったんですか?」
七海は信彦にあかねの記憶がないこと、あかねの記憶が途切れたのは晶の母親が死んだ時期と同時期だと言うことを話した。
「――何てことだ」
信彦も七海の話を聞いて驚いた様子だった。
「やっぱり、あのあかねさん、堀之内さんの亡くなったお母さんなのでしょうか?」
「顔がそっくりだというだけなら、ありえないこともありません。でも、左手の甲のやけどの痕が同じで記憶が途切れた時期も同じ、そして僕がそのあかねさんが働いているワイナリーに絶対行けないようになってしまっているとなると、これはやっぱりあのあかねさんが晶の母親で、晶はそのことを隠しているとしか思えないですね」
「そう、ですよね。でも、どうして堀之内さんはお母さんが生きていることを隠しているんでしょうか? ノブさんにも言わないで、しかもノブさんとあかねさんが会えないようにしているなんて……」
信彦と晶の父親と母親は中学・高校の同級生で友達だったと聞いている。
信彦だって、晶の母親が生きていれば会いたいはずだ。晶だって信彦が母親に会いたいと言う気持ちはわかるだろう。
七海は晶がいつも信彦のことを「ノブさん、ノブさん!」と慕っていることを思い出した。
あんなに慕っているのに、信彦にあかねと故意に合わせないようにしているなんて、どんな事情があるというのだろうか。
「晶も普段はあんな感じですが、何も考えずに何かするような子ではないですしね」
「そう、ですよね……」
七海も最近晶と接していて、晶が案外「何も考えていない」わけではないような気がするのは、何となくわかって来ていた。
「何か重大な事情があるのでしょう。でも、こればかりは直接本人に訊いてみないと……。ただ、僕と母親を会わせないような魔法を掛けているとなると、何かしらの事情があるはずだから訊いたところで素直に話してくれる確率は低いですが、それでもやっぱり訊いてみましょう。訊かないうちは何も始まりませんからね」
「そうですね。あかねさんも堀之内さんに会いたいって言ってました。あかねさんも自分の記憶が途切れている間に何があったのか知りたいみたいです」
「取りあえず、明日にでも晶に訊いてみますか。――で、七海さん、一つお願いがあるのですが」
七海は信彦にキョトンとした表情を向けた。
「はい、なんでしょうか?」




