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翌日、七海が「Tanaka Books」へ出勤すると、信彦がいつも通りのにこやかな笑顔で迎えてくれた。
「おはようございます、七海さん」
「ノブさん、おはようございます」
七海は言いながら、早速自分のカバンからスマホを取り出した。「ノブさん、実は私、昨日N区のワイナリーに行って来たんです」
「ああ、あそこですか。僕も一回行きたいと思っていたところです」
「友だちがそのワイナリーで働いているから遊びに行ったんですけど、そこでこの人に会って……」
七海は信彦に昨日撮ったあかねの写真を見せた。
「――まなみさん?!」
写真を見た信彦は突然大きな声を上げた。
七海は一瞬、信彦が「ななみさん?!」と自分の名前を言ったのかと思ったが、信彦は「まなみさん?!」と言ったようだった。
「――」
「ああ、すみません、七海さん。びっくりさせてしまいまして」
信彦はまだ「信じられない」とでも言いたそうな驚いた表情をしていた。「本当に、本当に驚いてしまいました。この写真の女性、晶の母親の愛美さんにそっくりなんです」
やっぱり、信彦もあかねが晶の母親に似ていると感じたのか、と七海は思った。
「ノブさんもそう思いますか? 私も前にノブさんに見せてもらった写真の堀之内さんのお母さんの写真にそっくりだと思って……」
信彦はレジの奥から、前に七海に見せた晶が家族で写っている写真を持ってきた。
七海のスマホに表示されているあかねの写真と、晶の家族写真を並べてみる。
やっぱり似ている……と七海は思った。
もちろん、信彦の写真の女性の方が若いが、似ているというレベルではなく、完全に同じ人間では? と思えるほどそっくりだった。
「年齢的に考えても、晶の母親が生きていれば、この女性くらいの年齢になっているはずですよ」
信彦は写真を見比べながら不思議そうに呟いた。
「でも、堀之内さんのお母さんって、お亡くなりになったんですよね?」
「そうです。前にも話しましたが、地震のせいで階段から足を滑らせて……。月命日には、僕は晶の代わりにお墓参りに行っているんですよ。だから、この女性が愛美さんのはずはないんですが、それにしてもそっくり過ぎる」
「そう、ですよね……」
信彦は晶の家族写真を手に持ちながら、七海の方に笑顔を向けた。
「まさか、この女性、左の手の甲にやけどの痕とか、なかったですよね?」
「えっ?」
「晶の母親は結構おっちょこちょいなところがあって、晶が小学生の頃にヤカンの熱湯をかけてやけどしてしまったことがあるんです。まさか、この女性にもやけどの痕なんて……」
七海は身体中に寒気のようなものが起こるのを感じた。
「いえ、あの……、ありました。この方にも左の手の甲にやけどの痕がありました」
信彦の手元から、晶の家族写真がこぼれ落ちた。




