(10)
七海と晶が人通りのない道路の上で言い合っていると、後ろから車がやってきたらしく、ライトの灯りで急に周りが明るくなった。
七海がチラリと明るくなった方向に目をやると、バン? という車種の車だろうか、大きくて黒い車が七海と晶の近くでブレーキ音と一緒にピタリと止まった。
あれっ? と七海は思った。
あの車、どこかで見たことがあるような気がする。
黒い車のスライドドアが開いて、中から人が降りてくる。
黒縁の眼鏡をかけた30歳くらいの男だ。
黒いジーンズに灰色の薄手のコート、でも、そこだけまるで何かで切り取られたかのように真っ白いニューバランスのスニーカーを履いている。
(――あの男)
あの男、見たことある、と七海は思った。
この間、「Tanaka Books」の前をウロウロしていた、信彦が「晶の魔法の継承を狙っている」と言っていた、晶の親戚の男だ。
自分に「晶をどうにかしよう」という「呪いの魔法」を掛けてきた男だ。
(――どうしよう)
七海は慌てて晶の方に視線を向けようとしたが、なぜか身体が思うように動かない。
何とか首だけ苦労して動かして晶の方を見てみると、晶にしては珍しく、額に汗を滲ませながら、目を見開いて男の方を凝視している。
いつもふてぶてしい表情をしている晶が、こんなにも焦った表情をしているなんて……。
七海は晶に「早く、ビルの中へ……」と言おうとしたが、どうも晶も思うように身体が動かせないようだった。
(――これって、もしかして)
今、こちらの方へゆっくりと歩いてきているあの白いニューバランスのスニーカーの男が「魔法」でも掛けて、自分と晶の身体を動かないようにしているのだろうか。
そう言えば、晶と初めて会った時も、晶は身体が動かせないような感じだった。
晶の方からアルコールのにおいがしてきたから、てっきり泥酔しているのだろうと思っていたが、あれは酒に酔って身体が動かせなかったのではなく、「魔法」で身体を動かせなくさせられていたのかもしれない。
黒いバンから、もう一人、男が出て来た。
全身黒ずくめの服装なのに、やはりそこだけ切り取られたかのように真っ白いニットの帽子をかぶっている。
先に降りて来たスニーカーの男は晶の方へ、後から降りて来たニット帽の男は七海の方へゆっくりと近付いて来る。
七海はどうすることもできず、晶と並んで立ちすくんだまま、ただ、男たちが自分の方へ歩いて来るのを見ているしかなかった。
大声で信彦のことを呼ぼうとも思ったが、さすがに「Tanaka Books」のあるビルまで距離が離れすぎている。
(――私と堀之内さん、これからどうなってしまうの?!)




