(1)
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(――今日もホットケーキ、作ろう)
七海は重い足取りでキッチンへと向かった。
毎日ホットケーキを作るのが、最近の七海の日課になっていた。
毎日毎日、「こうすればもっと美味しくなる」「こうすればもっと見た目が良くなる」とあらゆる工夫を凝らしている。
自分でも日に日にホットケーキを焼く腕があがっていることがわかる。
でも、自分のホットケーキが美味しそうに出来上がるのと、食べてもらえることは、どうも別問題のようだった。
食べてもらえるかどうかわからない、それでも、七海は毎日キッチンへ向かってホットケーキを作っていた。
わずかな望みに希望を託して。
(――今日はこっちの青いパッケージのホットケーキを試してみようかな)
七海はキッチンの戸棚の中をゴソゴソとしながら、青いパッケージのホットケーキの素を取り出した。
ホットケーキの素と卵と牛乳をボールで混ぜて生地を作り、熱したフライパンで焼く。
キッチンいっぱいにホットケーキの甘い香りが漂って来る。
出来上がったホットケーキを見て、七海は我ながら良い出来だ、と思った。
ホットケーキの素のパッケージ写真のように、ふっくらとしていて適度な焦げ目もついていて完璧だ。
いや、パッケージの写真よりも自分の作ったホットケーキの方が美味しそうに見えるかもしれない。
七海は出来上がったホットケーキにバターとメープルシロップを掛けると、「今日こそは食べてくれるかもしれない」と期待しながら、二階へと運ぼうとした。
「――サンキュー」
後ろから声が聞こえてきて、七海が持っているホットケーキの皿を誰かが取り上げた。
七海が後ろを振り返って見ると、フォークを持った晶が七海の焼いたホットケーキを食べようとしているところだった。
「待ってください、堀之内さん!」
七海は晶に向かって大声を上げた。「そのホットケーキ、堀之内さんに焼いたんじゃないです。それは……」
* * * * *
七海が瞼を開けると、見慣れた自分の部屋の天井が目に飛び込んできた。
(――何だ、夢か)
七海は起き上がると、枕元の目覚まし時計を見た。
まだ、早朝の5:28だ。
もう一度寝ようと七海は頭から毛布をかぶった。
(――でも、未だにあんな夢を見るなんて)
七海が目を閉じると、瞼と瞼の間から涙がひと滴、頬を伝って落ちた。




