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ビルの中の魔法使い  作者: 木原式部
4. Some Might Say(サム・マイト・セイ)
43/105

(1)

* * * * *


(――今日もホットケーキ、作ろう)

 七海は重い足取りでキッチンへと向かった。


 毎日ホットケーキを作るのが、最近の七海の日課になっていた。

 毎日毎日、「こうすればもっと美味しくなる」「こうすればもっと見た目が良くなる」とあらゆる工夫を凝らしている。

 自分でも日に日にホットケーキを焼く腕があがっていることがわかる。


 でも、自分のホットケーキが美味しそうに出来上がるのと、食べてもらえることは、どうも別問題のようだった。


 食べてもらえるかどうかわからない、それでも、七海は毎日キッチンへ向かってホットケーキを作っていた。

 わずかな望みに希望を託して。


(――今日はこっちの青いパッケージのホットケーキを試してみようかな)

 七海はキッチンの戸棚の中をゴソゴソとしながら、青いパッケージのホットケーキの素を取り出した。


 ホットケーキの素と卵と牛乳をボールで混ぜて生地を作り、熱したフライパンで焼く。

 キッチンいっぱいにホットケーキの甘い香りが漂って来る。


 出来上がったホットケーキを見て、七海は我ながら良い出来だ、と思った。

 ホットケーキの素のパッケージ写真のように、ふっくらとしていて適度な焦げ目もついていて完璧だ。

 いや、パッケージの写真よりも自分の作ったホットケーキの方が美味しそうに見えるかもしれない。

 七海は出来上がったホットケーキにバターとメープルシロップを掛けると、「今日こそは食べてくれるかもしれない」と期待しながら、二階へと運ぼうとした。



「――サンキュー」

 後ろから声が聞こえてきて、七海が持っているホットケーキの皿を誰かが取り上げた。

 七海が後ろを振り返って見ると、フォークを持った晶が七海の焼いたホットケーキを食べようとしているところだった。

「待ってください、堀之内ほりのうちさん!」

 七海は晶に向かって大声を上げた。「そのホットケーキ、堀之内さんに焼いたんじゃないです。それは……」




* * * * *


 七海が瞼を開けると、見慣れた自分の部屋の天井が目に飛び込んできた。

(――何だ、夢か)


 七海は起き上がると、枕元の目覚まし時計を見た。

 まだ、早朝の5:28だ。

 もう一度寝ようと七海は頭から毛布をかぶった。


(――でも、未だにあんな夢を見るなんて)

 七海が目を閉じると、瞼と瞼の間から涙がひと滴、頬を伝って落ちた。

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