(10)
翌日、七海は昨日見たキレイな女性に触発されて、自分の服の中でも一番「大人っぽい」と思われる服装とメイクで出勤した。
細かい花柄のひざ下丈のフレアスカートにボウタイの付いたブラウス、アイメイクはブラウンでまとめて、少し濃い目の口紅を塗った。
鏡の中の自分は、まあ、いつもよりは「大人っぽい」部類に入るだろう、と七海は思った。
(――これだったら、堀之内さんだって「未成年じゃないのか?」なんて、言えないだろうな)
七海は自分が心の中で呟いた言葉に頷きながら、「Tanaka Books」の最寄りのバス停を降りた。
店に行ってみると、信彦はまだ来ていないらしく、店のドアにはカギが掛かっている。
七海はカギの空いているビルの入り口の方から中に入り、信彦から預かっているカギで店の裏口のドアを開けようとした。
七海が店の裏口のドアの前でカギを探そうとカバンの中をゴソゴソしていると、ふと、ビルのエレベーターの扉が開いた。
何気なくエレベーターの方を見た七海は、思わず反射的にビルの柱の影に身を潜めた。
柱の影からこっそりとエレベーターの方を見る。
エレベーターから出て来たのは晶だった。
相変わらず、リーバイスのジーンズにアディダスのスニーカー、そしてアディダスのジャージという子供っぽい恰好をしている。
そして、もう一人……。
(――あの人、昨日店の前を歩いていた女の人だ!)
晶と一緒にエレベーターを降りて来たのは、昨日、七海が「はあっ……」とため息を吐いた、あのキレイな女性だった。
二人は笑顔で何か話しながら連れ立ってビルのエレベーターを降りた。
ビルの出入り口まで行くと、女性は晶に軽く手を振って、ビルの外へと消えて行った。
七海は晶と女性の一連のやり取りに思わず心を奪われてしまった。
美男と美女……。何気ないやり取りなのに、まるでドラマか映画のワンシーンのようだ。
でも、七海は重要なことに気付くと、「ハッ」と我に返った。
(――どうして、あの女の人、昨日と同じ服装なの?!)
ビルの外に消えて行った女性の服装は、昨日七海が見た時と同じジーンズにボーダーのシャツ、そしてトレンチコートだった。
昨日と同じ服装って、それって、つまり……。
「――ああ、七海さん、おはようございます! どうしたんですか? そんなところで」
柱の影に隠れていた七海の後ろから、大きな声が聞こえてきた。
七海がギクリとして振り返ると、爽やかな笑顔を見せた信彦が自分の方に向かって歩いて来るのが見えた。
ノブさん、ちょっと空気読んでよ……と七海は思ったが、事情を知らない信彦には何のことやらと言ったところだろう。
「そうだよ、お前、さっきからコソコソと何してんだよ?」
信彦の方を振り返った七海の後ろから、今度は晶のふてぶてしい声が聞こえてきた。
晶の「さっきから」という言葉、どうも自分が柱の影から様子を伺っていたことはバレバレだったらしい。
まあ、相手は魔法使いだし、それくらいはお見通しだということなのだろうか。
振り返った七海は晶のビー玉のような瞳と目が合い、どうして良いかわからず顔を下に向けた。




