(9)
七海はその日は一日、チラリチラリと店の窓の外を見ながら過ごした。
晶の親戚だとかいう、店の前でウロウロしていた男がまた来るのではないかと思って警戒していたが、店の閉店の時間になってもあの男はとうとう現れなかった。
そして、あの店の前をウロウロしていた男も来なかったが、晶もその日は一日「Tanaka Books」に姿を見せなかった。
(――魔力が弱まっているから、部屋に引っ込んでいるかな?)
まあ、晶が一日姿を見せないことも珍しいことでもないし……と七海は思ったが、それでも、ちょっと心配と言えば心配だ。
(――やだ、私ったら。ノブさんも「その内、晶の魔力は戻ります」って言ってるし、私が心配したって何にもならないし)
それでも、あのウロウロしていた男対策のために、近くの花屋に行ってグラジオラスを買い占めた方が良いのだろうか……。
七海がいろいろと考えながら店の窓の外をジッと見ていると、窓の外をものすごくキレイな女性が通り過ぎて行った。
ジーンズにボーダーのシャツを着ているが、足元がヒールのある靴でトレンチコートを羽織っているせいか、全然子供っぽく見えない。むしろ「大人な女性の休日」みたいなキャプションが付きそうな見た目だ。
髪はフワフワと適度にパーマをかけていて、メイクも完璧だ。かと言って厚化粧な感じではなく、むしろナチュラルなイメージさえ感じる。
七海はしばらくそのキレイな女性に見とれていたが、やがて「はあっ……」とため息を吐いた。
あの女性、多分自分と同い年くらいだろう。
七海は毎朝見る鏡の中の自分の姿と、あの女性の姿を比べてみた。
まあ、その人その人の「個性」みたいなものは大事なのだろうけど、どうして自分はあの女性のように「大人な女性」みたいな見た目ではないのだろうか……、と七海はまたため息を吐いた。
初めて会った時に晶に「だって、お前、まさかの未成年じゃないのか?」と言われたことでもわかる通り、七海は童顔で子供っぽく見えてしまうことが悩みだった。
なるべく服装も「大人っぽい」ものを選んでいるし、外出する時はメイクも欠かさない。
だと言うのに、23歳になった今でも「学生さんですか?」とか、下手すると「高校生ですか?」と訊かれるのだ。
友達と居酒屋などのアルコールを出す店に行く時は、年齢を証明する免許証は欠かせない。
もっとメイクを濃くすれば良いのだろうかとも思うが、七海はメイクを濃くすると、すごく「厚化粧」に見えてしまうたちなのだ。
自分はこんなに悩んでいるのに、あの女性は「ジーンズ」や「ボーダーのシャツ」という子供っぽく見えてしまいそうな服装を、あんなにサラリと「大人な女性」の雰囲気を醸し出しながらまとっている。
そう言えば、晶もリーバイスのジーンズとかフレッドペリーのジャージとか、子どもっぽい服装をしているけど、子どもっぽくは見えない。
と、言うことは、これは童顔とかそういう問題ではなく、顔の造形の美しさの問題なのだろうか……。
(――羨ましいな)
七海がそのキレイな女性を目で追いかけていると、女性は店の前を横切って、店の入っているビルの入り口を開けて、ビルの中へとスッと入って行った。
七海は「あれっ?」と思った。
普通にビルの中に入って行ったけど、あの女性を見るのは初めてだ。新しくこのビルの住人にでもなった人なのだろうか。
七海はしばらくあのキレイな女性のことを考えていたが、またため息を吐くと、店の閉店の準備を始めた。




