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ビルの中の魔法使い  作者: 木原式部
3.
37/105

(7)

 晶は駆け足で七海の近くまで来ると、持っていたグラジオラスの花で七海の背中を思いっきり叩こうとした。

(――えっ? この人、何するの?!)

 七海はとっさに晶の突然の来襲らいしゅうを避けようとした。

 しかし、七海が避けるよりも早く、七海の身体に触れるか触れないかのところで、グラジオラスの花がまるでテープの早送りか何かのように急に萎れて行った。

 最後には灰のように粉々になってしまった。

(――えっ? 何?!)

 七海は床に微かに散らばっているグラジオラスの灰を見下ろしながら、訳も分からず呆然としていた。


「――あっぶねー!」

 晶が近くにあったイスに倒れるように座り込んだ。

 晶の顔を見てみると、額に汗を滲ませている。よほど、慌てていたのだろうか。

「晶、どうしたんだ?」

 信彦が晶にハンカチを渡した。

「マジ、ヤバかったって! ――お前さあ、表でヘンな男とかに会わなかったかよ?」

「えっ? ヘンな男ですか?」

 突然話を振られた七海は、首を傾げながらも、服装はほぼ黒なのに足元だけ真っ白いコンバースのスニーカーを履いていた「あの男」を思い出した。

「お前、やっぱり会ったんだな?」

「えっ? 何でわかったんですか?」

 晶は前、自分の顔に手の平をかざして、「こうやると、(人の心の中が)読めるんだよ」と言っていた。

 でも、今は手のひらをかざしていないのに、何で自分の考えが晶に伝わったのだろうか。

「わかったって……。顔に超書いてあるんだよ。心の中、読まなくたってわかるって! お前、わかり易すぎるんだよ!」

 七海は思わず両手で顔を覆った。

 こういうやり取り、晶と初めて会った時にもあったような気がする。


「確かに、お店の前でウロウロしている男の人に会いましたけど……。その男の人がどうしたって言うんですか?」

 七海が言うと、晶と信彦は二人にしては珍しい真面目な表情をした。

「晶、もしかして……」

「そうだよ、ノブさん、あいつらだよ」

「あいつら?」

 七海が不思議そうに訊き返すと、晶は店の窓のところへ行き、額を窓ガラスにくっつけて、ジッと外の様子を伺った。

「今はいねーな。まったく、あいつら、しつこいんだよなー」

 晶は七海と信彦の近くに戻って来ると、また「ドカッ」とイスに倒れ込むように座った。


「どっ、どうしたんですか? 一体?」

 七海は晶と信彦の普段と違う態度に戸惑いながら、訊いた。

「お前さあ、『呪われた』んだよ、あの男に」

「えっ?」

「『呪いの魔法』掛けられてたんだよ! 何か、ヘンな感じとかしただろ?」

 七海は晶が言う「ヘンな男」のことを思い出した。

 確かにあの男の視線、何か寒気というかやけに刺すような視線だなとは思った。

 でも、まさかそれが晶の言う「呪いの魔法」だったなんて……。

「えーっ! じゃあ、私、呪われちゃったんですか? 大丈夫なんですか?」

 七海は大きな声を上げた。

「さっき、グラジオラスで追い払ったから何ともねーよ。それに、お前なんて別に何も危ないことなんてねーんだよ。――あの魔法、俺をどうかしようってヤツだからな」

「えっ?」

「晶、もしかして、また魔力が……」

 信彦が話しかけると、晶はイスから立ち上がって身を翻し、入ってきたのと同じ店の奥のドアの向こうへと消えて行った。

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