(5)
翌日、晶に「ホットケーキ!」と言われた七海は、いつものように給湯室でホットケーキを焼くと、晶の元へと持って行った。
「――おい! どうしたんだよ?」
晶は目の前に置かれたホットケーキを見ると、驚いたような声を上げた。
「どうしたって、何がですか?」
「ホットケーキの上にアイスクリームが乗ってるじゃん!」
「アイス、嫌いですか?」
「嫌いなわけねーだろ? どういう風の吹きまわしだよ、アイス乗っけるって……」
晶は不思議そうにブツブツと言いながら、アイスクリームが乗っているホットケーキを美味しそうに食べた。
七海は晶がアイスクリームの乗ったホットケーキを美味しそうに食べているのを見て、「まあ、たまにはいいか」と思った。
ホットケーキにがっついている晶を見ながら、それにしても、信彦が見せてくれた写真の晶の父親は本当に今ここにいる晶にそっくりだな、と七海は改めて思った。
多分、あの写真を撮った時の年齢が、今の晶くらいなのだろう。
今の晶くらいの年齢であの美しい女性と結婚して、それこそ玉のように可愛らしい子供を授かったなんて……、と七海は少々複雑な気持ちになった。
(――同じくらいの年齢で同じような顔だと言っても、今ここにいるこの人が誰かと結婚して誰かの父親になるなんて、到底考えられない)
七海は心の中でため息を吐くと、ホットケーキを食べている晶を残して、仕事の続きをしに店に戻った。
(――だって、あの人、まるで子どもだし)
でも、性格や言動は「まるで子ども」だとしても、晶の見た目はかなり人目を引くものがあるのは確かだ。
あそこまで「美青年」という言葉がピッタリくる容姿の男性も、なかなかいない。
普通に街中を歩いていたら、それこそすれ違いざまに振り向いてしまう女の子もたくさんいるのではないだろうか。
七海だって、悔しいけど何も知らずに街中で晶とすれ違ったら、すれ違いざまに振り返ってしまう自信がある。
彼女とか女の子の友達とかいるのかな? と七海は思わず考えてしまい、「ハッ」として慌てて自分の思考を打ち消した。
何を考えているんだろうか。これでは、まるで自分が晶に彼女とか女の子の友達がいることを気にしているようではないか。
第一、晶はビルの中から出られないから、彼女とか作る余裕もないだろうし……。
「――七海さん」
不意に信彦が七海に声を掛けた。
晶のことをいろいろと考えていた七海は驚いて、「はっ、はい!」と上ずったような声を上げてしまった。
「すみません、少し買い物をしてきてくれませんか?」
信彦は言いながら、七海に丁寧に折りたたんだメモ紙を手渡した。
「わかりました」
七海は「Tanaka Books」の紺色のエプロンを脱ぐと、店を出た。
(――ええと、セロハンテープと角砂糖と)
七海は歩きながら信彦から手渡されたメモ紙に目を落としたが、メモの字を追うのに夢中になってしまったのか、ふとすれ違いざまに誰かにぶつかってしまった。
「あっ、すみません」
七海がぶつかった男に謝ると、男は軽く会釈をし、そのまま七海とは反対方向、つまり「Tanaka Books」の方へと足早に歩いて行った。
七海は何となくぶつかった男の方を見た。
中年、とまでは行かない年齢だろうか。黒縁の眼鏡に濃い灰色の薄手のコートを着て、黒いジーンズに黒いカバンを持っている。足元だけ、そこだけまるで何かで切り取られたかのように真っ白いコンバースのスニーカーを履いているのがやけに目立つ。
七海は少しの間、男のことを見ていたが、すぐに前を向くと足早に買い物へと出かけて行った。




