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「こんな感じでどうでしょうか?」
店の閉店後、七海は書きあげたPOP広告を信彦に見せた。
「素晴らしいじゃないですか! 早速飾りましょう」
「ありがとうございます!」
信彦はレジの近くの棚に平積みになっている「魔法使いジョニー」シリーズの最新刊の横に、七海の書いたPOP広告を置いた。
七海が「Tanaka Books(田中書店)」でアルバイトを始めて1ヶ月が経った。
七海は店の仕事にもすっかり慣れて、常連のお客さんと何気ない会話を楽しめるようになったし、こうやって店に飾るPOP広告を書いたりするようにもなっていた。
「本当、七海さんは優秀ですね。POPを書くのも上手いし、お客さんも『良い娘が入ってきたね』って僕に言って来るんですよ」
「本当ですか?」
信彦に言われ、七海は嬉しそうな笑顔を見せた。
会社が突然倒産して成り行きで始めた「Tanaka Books」でのアルバイトではあるが、七海はこの本屋での仕事がどんどん好きになって来ていた。
大好きな本に囲まれての仕事はもちろん楽しいし、意外と接客の仕事自体も面白い。次女の七海は少々内弁慶なところもあるが、学生の頃に大手ファーストフードでアルバイトした経験もあるし、慣れてしまえばお客さんと接するのもすごく楽しくなってきた。
そして、一緒に働いている店長の信彦の人柄も素晴らしい。お客さんへの接し方も自由にやらせてくれるし、ちょっとしたことをしても「ありがとうございます」とお礼をちゃんと言ってくれる。
かと言って、何かトラブルが起きたとしても、七海任せにせず、ちゃんと最後まで責任を持って対応してくれる。
良い人の元で働けて良かった、と七海は心の底から思っていた。
「そうですよ。そして、何よりも晶が……。晶が七海さんのことを気に入ってくれて、本当に嬉しいです。晶が今までバイトの子をこんなに気に入ることはなかったんですよ……」
信彦は瞳を少しウルウルとさせ、言葉を詰まらせた。
「あっ、いえ……。それは、きっと私のホットケーキが気に入っているだけなんだと思いますけど」
七海は信彦のウルウルとした瞳を見て、やっぱり信彦も多少は晶に手を焼いているのだろうな、と思った。
それにしても、あの人……、と七海は思った。
この「Tanaka Books」で働いて1ヶ月経つが、未だに晶がどういう人間なのかよくわからない。
晶のことでわかっているのは、魔法使いだと言うこと、何故かこのビルの中でしか魔法が使えないこと、ホットケーキとブランデーケーキが好きなこと、それくらいだろうか。
普段、何をやっているかもまったくナゾだ。
多分、あの三階の自分の部屋で魔法使いの仕事はやっているのだろう。でも、魔法使いの仕事をやっている時以外は何をしているのかはわからないし、魔法使いの仕事自体、どんなことをやっているのかナゾだ。
時々、「ガツガツ」と足音を立てながら店にやってきて、「ホットケーキ作って」と言ったり、「これ買って来い」とか言ってクシャクシャのメモ紙を渡したりするが、それ以外、普段どういう行動をしているのかはわからない。
まあ、魔法が使えなくなるから、ビルの外には一切出てはいないことぐらいはわかるけど……。




