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ビルの中の魔法使い  作者: 木原式部
2. Songbird(ソングバード)
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(21)

「でも、葉月さんが『実はあの小説、僕が書いた小説ではないんです』って言った時、全然驚いてなかったじゃないですか」

「盗作とかは知らねーけど、あいつのあの本、ノブさんから渡された時に、ヘンな感じがしたんだよ。違和感? って言うの? だから、あいつが自分が書いたんじゃないって言った時も、そういうことだったんだなって。――大体、あいつ、最初からヘンだなって思ってたんだよ。やたら暗いし」

 自分が葉月に感じていた「意外」な気持ち、確かに晶の言う「違和感」に似ていると言えば似ているな、と七海は思った。

「だから、私に『あんまりあいつの前で小説書く話とか言うな』とか言ったんですか? 葉月さんがやたら暗いから、ますます暗くならないように……」

「知るか、そんなこと」

「えっ?」

 七海は思わず横にいる晶のことを見上げた。

 晶の瞳は相変わらずビー玉のように輝いている。バックにある宮古島の星空と同じくらいキラキラとしている。


「お前があんまりにもお節介しようとするから、言っただけに決まってるだろ? あいつのやることはあいつが決めればいいんだよ。他のヤツがとやかく言うことじゃねーんだよ」

「確かにそうですけど……」

 七海はまた「ムッ」とした気持ちになった。

「でも、あいつ、あれで良かったんじゃね? あのまま他人が書いた小説のことでとやかく言われるよりは、さ。あれであいつも自由に生きられるってもんだよ。あいつの暗い表情かお、見てただろ? 他人に縛られる人生なんて、バカバカしいだけじゃねーか」

「――」

 七海はまた横に立っている晶のことを見上げた。


 ――他人に縛られる人生。


 何だか引っかかる言葉だな、と七海は思った。

 引っかかるということは、自分も他人に「縛られている」ということなのだろうか。

 いや、そんなことはない。

 私は誰かに「縛られている」わけではない……。



「――よし!」

 晶は2本目のギネスビールを飲み切ると、クシャっと缶を握りつぶした。「お前さあ、ホットケーキ作れよ」

「えっ? 今からですか?」

 店の片づけが済んだらそのまま帰ろうと思っていたの、と七海は思った。

「いいじゃん、作れよ。昨日、ノブさんがチョコレートソースを買ってきたはずだから、今日はそれかけろよ」

 チョコレートソースって……。七海はやっぱりこの人は子供だな、と思った。


「――わかりました」

 七海は「ムッ」とした表情をして答えたが、ふと、もう葉月が自分のホットケーキを食べることはないんだろうな、と思った。

 でも、もう自分のホットケーキを食べられなくたって、それはそれで良いのだろう。

 晶の言う通り、葉月はこれから「自分の人生」を生きていくのだから。

 葉月のこれからの人生に、自分のホットケーキは必要ないし、あの「ソングバード」の小説も必要ないのだ。

 必要ない、というよりは、断ち切らなければいけなかった、と言えば良いのだろうか。


 七海は「お腹空いたな」と言いながら先を歩き始めた晶の背中を見つめた。

 信彦は晶のことを「あんな感じですが、根は本当は良い子なんですよ」と言っていたが、その言葉は本当なのかもしれない、と七海はぼんやりと思っていた。

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