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ビルの中の魔法使い  作者: 木原式部
2. Songbird(ソングバード)
29/105

(20)

「――お前、何やってんの?」

 晶に話しかけられて、七海は「何でもありません!」と言った。

「何でもありません! ――で、でも、何で宮古島の星空なんて見てるんですか?」

 七海は慌てて話題を逸らそうとした。

「別にいいじゃん。いつも同じ星空だと厭きるんだよ。それに、俺、宮古島なんて行けねーし」

 晶はそう言うと、手元のギネスビールを一気に飲み干した。


 そうだった……、と七海は思った。

 晶はこのビルから出ると魔法が使えなくなるから、ビルの外に出られないんだった。


 宮古島なんて、そう滅多に行ける場所ではない。

 宮古島に行かないで一生を終える人なんて、日本中にそれこそたくさんいるだろう。

 でも、宮古島に「行かない」のと「行けない」のとでは、意味が違う。

 七海は「俺、宮古島なんて行けねーし」と言った晶の言葉に、晶の今の状況の重さを感じたような気がした。


 それにしても、何度も思うが、どうして晶はビルの外では魔法が使えないのだろう。


「――あの」

 七海は晶に話しかけた。

「何だよ?」

 晶は飲み干したはずのギネスビールの缶のプルタブを抜きながら、七海の方を見た。

 ビー玉のような晶の瞳が、七海の方を真っすぐに見ている。

 七海は思わず目を逸らした。なぜかわからないが、やっぱり「どうしてビルの外では魔法が使えないのか」と訊けないような気がした。

「あの……、葉月さんのことなんですけど」

 七海は慌ててまた話題を逸らし、もう一つ気になっていたことの方を訊いてみた。

「ああ、あいつのこと?」

「もしかして、堀之内さん、葉月さんが友達の小説を盗作したことを知っていたのかな、と思って」

「知るか、盗作とか」

「えっ? 知らなかったんですか?」

「お前さあ、俺が魔法使いだからって、あいつの心の中が読めるとか、そういうこと考えてねーか?」

「えっ? 人の心の中とか読めないんですか?」

 魔法使いなのに、と七海は心の中で付け足した。


「もちろん、読めるさ」

 晶はそう言うと、七海の顔に手の平をかざした。「こうやると、読めるんだよ」

「えっ? ちょっと、何するんですか?!」

 七海は晶の手の平から顔を背けた。

「お前の心の中なんて読まねーよ、読んだってつまらなそうだし。って、言うか、よっぽどのことがないと、人の心の中なんて読まねーよ」

「どうしてですか?」

「どうしてって……。お前、人の心の中なんて読んでも、良いことなんてねーんだよ。余計なことなんて、知らない方がいいんだって。そこら辺の『普通の人間』でも時々心の中、読めるようなヤツもいるけど、大体暗い顔してうつむいてるしさ。まあ、開き直ってるヤツもいるにはいるけど」

 その「普通の人間」って、超能力者とかいう人間なのだろうか、と七海は思った。

 人の心の中が読めるなんて便利そうな感じもするけど、と七海は心の中で首を傾げた。

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