(20)
「――お前、何やってんの?」
晶に話しかけられて、七海は「何でもありません!」と言った。
「何でもありません! ――で、でも、何で宮古島の星空なんて見てるんですか?」
七海は慌てて話題を逸らそうとした。
「別にいいじゃん。いつも同じ星空だと厭きるんだよ。それに、俺、宮古島なんて行けねーし」
晶はそう言うと、手元のギネスビールを一気に飲み干した。
そうだった……、と七海は思った。
晶はこのビルから出ると魔法が使えなくなるから、ビルの外に出られないんだった。
宮古島なんて、そう滅多に行ける場所ではない。
宮古島に行かないで一生を終える人なんて、日本中にそれこそたくさんいるだろう。
でも、宮古島に「行かない」のと「行けない」のとでは、意味が違う。
七海は「俺、宮古島なんて行けねーし」と言った晶の言葉に、晶の今の状況の重さを感じたような気がした。
それにしても、何度も思うが、どうして晶はビルの外では魔法が使えないのだろう。
「――あの」
七海は晶に話しかけた。
「何だよ?」
晶は飲み干したはずのギネスビールの缶のプルタブを抜きながら、七海の方を見た。
ビー玉のような晶の瞳が、七海の方を真っすぐに見ている。
七海は思わず目を逸らした。なぜかわからないが、やっぱり「どうしてビルの外では魔法が使えないのか」と訊けないような気がした。
「あの……、葉月さんのことなんですけど」
七海は慌ててまた話題を逸らし、もう一つ気になっていたことの方を訊いてみた。
「ああ、あいつのこと?」
「もしかして、堀之内さん、葉月さんが友達の小説を盗作したことを知っていたのかな、と思って」
「知るか、盗作とか」
「えっ? 知らなかったんですか?」
「お前さあ、俺が魔法使いだからって、あいつの心の中が読めるとか、そういうこと考えてねーか?」
「えっ? 人の心の中とか読めないんですか?」
魔法使いなのに、と七海は心の中で付け足した。
「もちろん、読めるさ」
晶はそう言うと、七海の顔に手の平をかざした。「こうやると、読めるんだよ」
「えっ? ちょっと、何するんですか?!」
七海は晶の手の平から顔を背けた。
「お前の心の中なんて読まねーよ、読んだってつまらなそうだし。って、言うか、よっぽどのことがないと、人の心の中なんて読まねーよ」
「どうしてですか?」
「どうしてって……。お前、人の心の中なんて読んでも、良いことなんてねーんだよ。余計なことなんて、知らない方がいいんだって。そこら辺の『普通の人間』でも時々心の中、読めるようなヤツもいるけど、大体暗い顔してうつむいてるしさ。まあ、開き直ってるヤツもいるにはいるけど」
その「普通の人間」って、超能力者とかいう人間なのだろうか、と七海は思った。
人の心の中が読めるなんて便利そうな感じもするけど、と七海は心の中で首を傾げた。




