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「本当は僕、『魔法使いジョニー』シリーズみたいなファンタジー小説が書きたかったんです。でも、賞を獲った友達の小説が純文学だったから、そういう純文学小説を書くようにって編集の人に言われて。だから、ずっと新しい小説のことを考えたり書くフリをしながら、自分の好きなファンタジー小説を書いていたんです。この店で小説書いていたのも、編集の人に小説を書いているってアピールをするためで……。 でも、やっぱり自分の好きに書いた小説は、前の小説と内容も違うし文体も違うから編集の人には見せられなくて。石橋さんに『小説の登場人物に出てくると面白いような、強烈なキャラクターの人とか、いますか?』って、訊いたのも、『何かお手伝い出来ることって、ありますか?』って訊かれてどうすれば良いのかわからなくてとっさに言ってしまって……。
最後に雑誌に発表した短編は友達が書いたプロットの内容を元に、僕が友達の文体に似せて書いたんです。新しい小説を書くのは、あれが精いっぱいだったし、もうウソを吐くのは止めにしようと思いました。
あんなに親身になってくれたのに、本当にすみませんでした。どうしても謝っておこうと思って、こんな話をしてしまってすみません……」
再び頭を下げた葉月を見て、七海はキャラクターの話をした時に葉月が、自分から話を振ったにも関わらず、その後あまり小説のことを口にしなかったのはそのためだったのか、と悟った。
七海は葉月にどう声を掛けて良いのかわからなかった。
裏切られたような気持ちだと正直に言えば良いのだろうか。
それとも、葉月が盗作したことをずっと悔やんでいたことを同情するべきなのだろうか。
それとも……。
「――お前さあ」
七海と葉月の沈黙を割くように、ずっと黙って居た晶が突然口を開いた。「小説書くのやめて、これからどうすんの?」
「取りあえず、別の仕事探します」
「あっ、そう。――じゃあ、それでいいんじゃね?」
「ほっ、堀之内さん!」
晶の軽い口調に七海は思わず目を吊り上げながら晶の方を振り返り、思わず「ハッ」とした。
振り返ってみた晶の表情は、軽い口調とは裏腹に、いつになく真剣な表情だった。
前に信彦から「ソングバード」の本を渡された時にした神妙で真面目な表情の時よりも、葉月が「ここでいつも小説書いたり本を読んだりしてるんです」と言った時にした妙に神妙な表情の時よりも、今の表情の方がずっと真剣だった。
七海は晶の真剣な表情を見て、もしかして、晶は葉月の「ソングバード」が友達の盗作だと言うことを悟っていたのだろうか、と思った。
だから、自分に「あんまりあいつの前で小説書く話とか言うなよ」と言っていたのだろうか。
葉月が友達の小説を盗作したのを悩んでいることを知っていたから……。
葉月に「書けないんだったら、ムリに書かなくてもいいんじゃね?」と言ったのも、筆が進まないことを言ったのではなく、ムリに自分が書けないものを書かなくても良い、と言いたかったのだろうか。
そうすると、葉月とおしゃべりしていたのも、悩んでいる葉月の気持ちを紛らわすためだったのだろうか。
「――ありがとうございます」
晶に「じゃあ、それでいいんじゃね?」と言われた葉月は、晶に深々と頭を下げた。
そして、顔を上げた葉月の表情は、何かずっと背負っていた「重荷」をやっと外すことが出来た清々しささえ感じられた。
「――じゃあ、失礼します」
葉月は後ろを向くと、七海や晶のことを振り返ることなく、そのままゆっくりと「Tanaka Books」を出て行った。
七海は「Tanaka Books」を出て行く葉月のことを、ただ黙って見送った。




