28 魔王様、バレンタインの呪いをお知りになる
二月と言えばバレンタインだろう。
女が好きな男にチョコを贈る日らしいが、料理が出来る我は一味違う。
我も、聖女にチョコを贈るのだ。
大型スーパーのチョコ売り場でチョコを買い、必要なものを一通り揃える我に勇者も一緒にチョコを作りたいと願い出た。
家族へのチョコとアキラへのチョコ、そして義理だが魔法使いにも贈るらしい。
少しずつ女の子らしい発想になってきたではないかと感心している我とは別に――クラスの女子達は少々気が立っているようだ。
「なんか、二月になってから一気にクラスの女子の目が獲物を狙う目になってね?」
「確かにそれは感じますね」
「祐一郎とアキラもターゲットになってるんだろ?」
「恵もだと思うけどな!」
そんな会話をしながら昼休みを過ごす我たち。
小学校一年生ともなると色恋沙汰も多少落ち着いてくる頃だと聖女から聞いたことがある。
一番無垢に恋が出来るのは幼稚園までだろうと冷静に語っていた聖女だが、そういう冷めた目というか、冷静に分析できる所がギャップ萌えと言う奴だろうか?
「女に生まれたら早く成熟する。それに女は群れを作って生活する生き物だから厄介だよねぇ」
「そうなんですか?」
「女社会は面倒くさいよ、ボクには耐えれないね」
「恵ってたまに男なのか女なのかわからなくなるな。見た目もそうだけど」
アキラの言葉に恵はニヤリと微笑んだ。
栗色の少し癖のある長めの髪に泣き黒子のあるタレ目、パッと見はクラスの誰よりも美少女だろう。
「アキラと祐一郎にもボクから気持ちを込めたチョコを上げようか?」
「貰えるなら貰うけど?」
「遠慮します」
そう遠慮したその時だ。
「やっぱり恵って女だったんだ――!」
「やっぱりな~! 女と思った!!」
騒ぎ始めるのはクラスの一部の男子だ。
魔法使いの見た目を馬鹿にしたつもりだろうが、魔法使いはそんな彼らに歩み寄ると――。
「そんなにボクからのチョコ……欲しい?」
「え?」
「お……いや、えっと」
「義理になっちゃうけど……欲しいなら上げようか?」
口説くように口にする……というより、前世では色気のある女だったのだから、そのノリのまま聞かれれば馬鹿にしていた男子は顔を真っ赤に染めて口篭っている。
「本当に貰えるなら……」
「なぁ……?」
顔を真っ赤に染めて口にしたクラスの男子、しかし――。
「プッ 馬鹿じゃないの? 嘘に決まってるだろ? なんでボクがお前達にチョコ上げないと駄目なのさ?」
「恵……っ お前――!!」
「ああ、でもボクとデートしたいならお金くれればしてあげてもいいよ?」
クラスの男子にそうやって馴染んでいる魔法使いも凄いが、アキラは「恵の悪いところだな~」と苦笑いしていた。
それもそうだろう、魔法使いを毛嫌いする女子もそれなりに存在するからだ。
まぁ、自分達より可愛い男子なんて敵対心が上がる以外の何物でもないのかもしれないが、見た目で優劣を作る傾向が強いこの異世界では仕方ないのかもしれない。
中身が伴わなければ、ゴミと一緒なんだがな……。
「アキラはチョコ好きなんですか?」
「オレ? お菓子は何でも食べるぜ! でもバレンタインのチョコはあんまり欲しくないな、だってお返し面倒だし! ユウはお菓子は食べるより作る専門だっけ?」
「ええ、私は食べるのも好きですが作り手として動くほうが好きですね。それに好きでも無い相手からチョコを頂いても味に点数をつけてしまいそうで」
「それは……贈った相手に失礼だと思うぜ?」
「そうですか?」
「ボクは小雪からチョコ貰うんだ~」
ひとしきりからかって来た魔法使いが戻ってきて口にすると、アキラは「え!」と驚いたように口にした。
「小雪からチョコ貰うのか?」
「そうだよ? ボクの為に頑張って作ってくれるんだって!」
「別に恵さんの為だけではありませんよ、義理チョコを配るそうです。アキラは小雪からのチョコはいらないのなら伝えておきますが?」
「あ、いや、貰う」
「でも先ほどお返しがどうのと」
「小雪はオレにとって妹だから良いの!」
ムスッとした表情で口にしたアキラに我が笑うと「解りました」と告げる。
勇者もそれなりにモテルではないか。
流石我の妹として転生してきただけの事はある。
「ボクは小雪以外の女の子からチョコを貰うつもりは無いけどね。随分昔に流行った呪いを聞いてからは流石に貰えないや」
「呪い……ですか?」
その言葉に我とアキラが魔法使いを見ると、魔法使いはニヤッと笑った。
「そう、相手を自分の物にしたい、相手を振り向かせたいって言う一種の呪いさ。手作りチョコに自分の体の一部、髪の毛やツメ、血を混ぜてチョコを贈る人間がいるらしい」
「うわ……」
「ほう……」
「体の一部、特に血を使った贈り物っていうのは呪いがとっても強力なんだ。だからボクは貰うとしても手作りだけは欲しくないね。既製品なら貰うけど」
「確かに手作りチョコはそれだと怖いですね」
「既製品が一番安全って思っちゃうな」
「ボクは小雪のなら欲しいけどね!」
フフフッと笑う魔法使いに若干引き気味のアキラだが、実際口には出さなかったが聖女の呪いが入った手作りチョコ……良いかもしれない。
我も喜んで呪いを受け入れてしまいそうな気がするが、アキラの引き気味加減を見ると絶対に口に出さないほうが良いだろう。
「私が監視するのでそんな真似はさせません。馬鹿じゃあるまいし、あの子は絶対に呪いなんてしませんよ」
「そうだよな!」
ホッと安堵するアキラに魔法使いは少し不満げだったが、台所を預かる身としてそう言う真似は一切させる気は無い。
そんな会話をしていれば昼休みも終わり、午後の授業に入った訳だが――その間クラスの女子はナニカ 手紙の回し読みをしていたようで、それが後に魔法使いを陥れる問題になるとは想像すらしていなかった。
(魔王様は バレンタインの呪いを お知りになった!)
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