25 魔王様、魔法使いと取引を行われる
決戦の地――鐘打ち堂。
我の前に佇みし勇者は死相を浮かべ、魔法使いは下半身を悶々とさせながら立っている。
これは面白いことになった……どうやら勇者は記憶が戻ってしまったらしい。
ソレほどまでにこの恵、いいや、魔法使いは勇者にとって強敵のようだ。
今後一緒に生活していくのだから上手くやっていきたいのだが、さて、どうしようか。
「この異世界では一応初めましてですね、魔法使いさん。勇者の兄の魔王です」
「一応初めましてかな? まさかこんな事になっていようとは、ボクも予想すらしてなかったよ」
「魔法使いさんは前世では女性だったと記憶しておりますが」
「どういう訳か、性別逆転して転生してきてしまったみたいでね。きっと禁術を使った所為だと思ってるんだけどボクとしては僥倖だよ。だって……ねぇ? 勇者」
勇者をウットリとした表情で見つめる魔法使いに、勇者は「ヒェ!」と声を上げて我の後ろに隠れた。
「な……なぜ魔法使いが私と魔王の家に住むんだ!? 帰ってくれ!!」
「帰られないんだよ……だってボクは君のお爺様から呼ばれて来たんだから」
「本当なのか魔王!」
「事実です」
我の言葉に勇者はその場に崩れ落ち、魔法使いはそんな勇者を狂気に満ちた瞳で見つめ笑みを浮かべた。
こやつを仲間にしておけば色々と扱いやすいかもしれんな……。
「勇者、ボク達はこうなる運命だったんだよ。聖女の事は諦めてこの異世界でボクと幸せになろう?」
「イヤだ! 私は聖女様を諦めることなど出来ない!」
「聞き分けの悪い勇者ですね、聖女はもう私と将来結婚することが決まりましたよ?」
「はぁ!?」
我の言葉に一番反応したのは魔法使いだ。
その反応に、聖女が近くに住んでいること、そして前世の記憶が無い事を告げ、将来我の妻になる事を再度伝えると両腕を組み我と勇者を交互に見た。
「ボクの今後の未来に聖女は必要なかったんだけどな……」
「私には必要です」
「私にだって!!」
「ボクには勇者さえいてくれればそれで良いんだよ!?」
「なので……魔法使いさんは私と取引しませんか?」
そう言うと我は勇者の腕を掴み、魔法使いに良く見えるように立たせると――。
「聖女が来ても嫌がらせや嫌な顔せず過ごし、なおかつこの寺にいる間は勝手な行動を慎んでくださるというのであれば、生贄……ではなく、お礼として勇者をこの寺の中では家族は例外とし、貴方が独占する事を許します」
この言葉に魔法使いは歓喜に満ちた表情を浮かべて勇者を見つめている。
「魔王! 何て事を言うんだ! 私はお前の所有物になった覚えはない!」
「で・す・が。私達はまだ幼いですし、寺では貞操概念を強く教え込まれます。その辺りも含めて多少なりと自分を律し、理性を失わないように心がけるというのであれば――勇者と一緒にお風呂に入る事も許可しましょう」
「ボクは魔王と仲良くやっていけそうだよ……っ」
こうして我と魔法使いは勇者と言う犠牲のもと、固く握手を交わしあい契約を結んだ。
勇者は泣き叫んでいたが我らの前ではどうする事もできぬことだ。
「勇者……あぁ、ボクだけの勇者……もう離さないよ、死んでも離さない……」
「やだぁああああ!!」
「あぁ、それともう一つご忠告が」
忘れる前にと思い魔法使いに声を掛けると、魔法使いはヨダレを流しながら我を見つめた。
うむ、これは重症のようだな。
「勇者を妹として大事にしているアキラという友人がいます。喧嘩を余りなさらないようにしてください。彼は私の大事な友人です」
「解った……勇者に色目を使わないのなら何でも良いよ」
「そうですか、助かります」
「魔王の悪魔!! 鬼!! 人でなし!!」
「元は人でも無いです」
「ギィイイイイ!!」
叫ぶ勇者に素っ気無く返事を返す。
うむ、やはりこの感覚……妹としての小雪も可愛かったが、この勇者は中々面白い、やはりこうでなくては物足りないのだ。
このやり取りに餓えていたのか、その後も勇者を甚振ったら気持ち的に満足した、お肌ツヤツヤとは正にこう言う事だろう。
「幼い勇者……大粒の涙を零す勇者……ソソラレルヨネ」
「私はそそられはしませんが楽しいです」
「お前達なんか嫌いだ!」
「ボクは大好きだよ……」
「私は可愛い妹だと思っていましたよ」
「過去形!? 過去形なのか!?」
地団駄を繰り返す勇者に優しく微笑む我に、魔法使いは「この輪に入れて幸せ」と呟いている。
その後、母が呼びに来たので母屋に戻ったが、勇者は魔法使いにずっと抱っこされたままで、その様子を見た魔法使いの父親は驚き戸惑っているようだった。
上手くやっていけそうかと祖父に問い掛けられ、我と魔法使いは顔を見合わせてから「はい、勿論です」と答えると、勇者だけがムスッとした表情を浮かべて我と魔法使いの体を叩いた。
どうやら酷くご不満なようだ。
「恵さんは小雪の事をとても可愛がって下さいますし、私としても安心できます」
「ボクもこんなに可愛い妹が出来るとは思わなくって、弟妹が出来る事は憧れだったんだ。本当に小雪ちゃんは可愛くって可愛くってどうして良いか困ってしまうくらいだよ」
「それは良かった……小雪、お兄ちゃんが一人増えて良かったな」
魔法使いの言葉の意図に気づけるものは――いないようだ。
勇者は最早諦めの境地なのか遠い目をしている。
ここまで勇者の事を想ってくれる相手がいると言うのに聖女聖女と……少しは痛い目を見たほうが勇者は良いのでは無いだろうか。
まぁでも、これで一つ勇者に関する問題は片がついた。
諸刃の剣のような気も多少するが、勇者をダシに使えば扱いやすい。
お互いの意図が解らない様に微笑み合う我と魔法使いに家族は安心したように微笑んだ。
その後、魔法使いの父親は父の案内で新しい職場に挨拶に向かい、勇者は母の手伝いをすると言って離れた為、我は魔法使いを今後生活する為の部屋へと案内した。
勇者の隣の部屋で無い事に不満はあったようだが、そこは致し方ない事として諦めて貰うと、子供部屋付近の壁に一日のスケジュールが書かれた大きな紙を見て驚いたようだ。
「寺って忙しいんだね……こんなに早くから寝て朝は凄く早いしやる事も沢山だ」
「まずはここでの生活に慣れることからスタートでしょうね。私にとっては日常でも貴方にとっては全てが初めての体験ですから」
「まぁ、これでもあっちの世界で時間に厳しく生活していたから問題は無いよ。魔法使いは詠唱時間とかも重要視するからね」
「なるほど」
「それにしても、敵対していた魔王がこんなに話がわかるやつとは思わなかったよ」
「それは私も同意です」
もし仲間であったならば、コレほど心強い者もいなかっただろう。
そこを理解していない勇者は、少しくらい罰が与えられても良いくらいだ。
「魔法使いは私と同じ背丈ですし、暫くは私の作務衣で丁度良さそうですね。近々貴方用の作務衣も届く手筈になっています」
「それはあり難いね、ボクも勇者と同じ作務衣を着てお揃いの服装で出かけたいよ」
「ピンクが着たいんですか?」
「それは止めておく」
そんな会話をお互いにしながら一日が過ぎ、お風呂に入る時は勇者が魔法使いと一緒に入るのはイヤだと泣き叫んだ為、我が一緒に入る事になってしまった。
魔法使いは悔しがっていたが、勇者が泣き叫んだのであれば致し方ないと諦めたようだ。
勇者と一緒にお風呂に入っている間といえば――まぁ、不機嫌だ。
何度も我の手足を叩き、文句を言いたそうにしている。
「良かったではありませんか、昔の仲間と出会えたのに喜べない貴方は変わり者ですよ」
「違う! 私は……魔法使いが苦手だ、アキラのほうがず――――っと素敵だ!」
バン!!
その言葉に風呂場のドアが開き、魔法使いが凄い形相で睨んでいたが我は立ち上がりそっと風呂場のドアを閉めた。
今度風呂に鍵をつけて貰おう……まぁ鍵ごと壊される未来しか見えないが。
「私を命がけで助けてくれたアキラは優しくてまるで理想の勇者のようじゃないか。私とて勇者だがアキラは私の理想の勇者そのものだ……だからアキラに憧れているんだ」
バン!!
再び開いた風呂場のドアを閉めると、我は扉を押さえつけつつ勇者に苦言をする。
「勇者、あえて言わせて頂きましょう」
「?」
「時と場合を選んで口になさい、でないと魔法使いは貴方をもっと独占したがりますよ」
我の言葉にドアが今にも破壊されそうになる様を見て、勇者は顔面蒼白のまま何度も頷いた。
まぁ、時すでに遅し……と言う気がしなくも無いがな。
こうして、風呂から上がると魔法使いは涙をボロボロ流しながら勇者の体を隅々まで吹き上げ、ドライヤーで長い髪を乾かしている。
ハッキリと断られたりすると脆いのか……コレは一つ弱みとして握っておこう。
「魔法使い、アキラと言うのは」
「その名は……今は聞きたくないなぁ?」
おぉ、アキラよ……我がこの異世界での初めての友よ。
お前の命は風前の灯かもしれんぞ。
涙を流し凄まじい殺気を纏った魔法使いにとって、アキラは最大の敵となった瞬間であった――。
(勇者は 仲間を 拒絶した!)
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