10 魔王様、聖女欠乏症にかかられる
おっぱいについて勇者と語り合ってから時は流れ夏休みになった。
やはり夏は良い。
何しろ聖女の薄着姿を拝める最高の時期だ。
寺の嫁にくればこの様な服装は殆ど出来なくなる……一応出来はするが、寺の嫁とは何かと面倒ごとが多いのが現実だ。
無論、寺ごとに色々と変ってくるのだがな。
檀家さんとの一番近い立場となり、時には人生相談を請け負うこともあれば、法事などの受付、掃除、お客様への御茶出し……上げれば切がない。
母も寺庭婦人として忙しくしているのが現状だ。
特にお盆や彼岸と言う時期は忙しい。
寺での葬式だってそうだ。
師走は文字通り忙しい時期ではあるが、それと同じくらいお盆と彼岸は忙しいのだ。
それは聖女も同じで、実家が花屋の聖女もお盆と正月、彼岸と母の日と忙しい日々を送っている。
以前聖女は愚痴を零していた。
珍しく愚痴を零すので聞いていると――。
「花屋って女の子が憧れる職業って言うけど、実際は肉体労働なんだよ? 夏場は水が腐りやすいから大変だし、店の前にある苗物へ水をあげるのだって凄く神経使うんだから」
確かに花屋とは女の子が憧れる職業の一つだと聞いた事はある。
だが実際はとても大変だというのは聖女の疲れ具合を見れば一目瞭然であった。
そして、花屋と寺は切っても切れぬ関係と言っても過言ではない。
寺に納品する花は聖女が早朝に持ってきてくれる事が多いのだ。
朝から聖女に会える事は嬉しいが、少々疲れ果てている顔を見るのは胸が痛む。
引っ切り無しにお墓参りの方々が訪れ、祖父と父が御経を上げている。
我はその間、家で絶対に欠かしてはならない本堂等の御勤めを主に動いている。
朝から袈裟を着て動き回る我を見かける者たちは「小さなお坊さんね」と声を掛けてくるが、当たり障り無く一礼する日々が続いた。
そして夜、勇者達との壮絶な戦いを終えた後のような疲れを感じつつ鐘打ち堂に向かい、ペットボトルのお茶を飲みつつ夏の空を見つめる。
「……今日も疲れましたね。それに聖女もお盆の忙しさから会いにきて下さらない……」
我は猛烈なまでの聖女欠乏症になっていた。
会いたい、会いたい、会いたい、おっぱい。
おっと、思わず欲が出てしまったな……だがあの柔らかさに埋もれて疲れを癒したいと思うのも少しは許して欲しい。
溜息を吐きつつそろそろ家に入ろうかと言うとき、鐘打ち堂に向かってくる人影が見えた。
――聖女だ。
「――心寿! この様な時間にどうしたのです?」
「祐ちゃん! やっぱりここにいると思ったの!」
我の存在を確認すると聖女は駆け寄って来た。
花屋の手伝いで疲れ果てているのだろう、月明かりで見る聖女の顔は少々青白い。
聖女の家までは寺に続く坂道を一本のぼって来ればいいだけだが、それでも夜に出歩くには危険だ。
「最近お互い忙しくて会えてなかったじゃない? だから様子を見に来たの!」
「そうでしたか、丁度私も貴女に会いたいと思っていたところです」
「良かった!」
「ですが一人で夜遅くに出歩くのは関心致しません。何かあったらどうなさるのです」
「相変わらず厳しい……いや、心配してくれてるのは嬉しいけど、会いたい時に会いたいって思うのは駄目なの?」
「そうでは無いのですが……」
ストレートな気持ちをぶつけてくる聖女に思わず我の頬が赤くなりそうだった。
目を逸らしたものの、横目でチラリと聖女を見ると嬉しそうに微笑んでいる……。
「……帰りは送らせてください」
「宜しくお願いします!」
こうして、つかの間の聖女との語らいを鐘打ち堂でするのだが、やはり聖女の家もお盆は忙しいらしく夕飯らしい夕飯も最近は食べれていないらしい。
「パートさんも夜遅くまで仕事してくれてはいるけど、花を納めてる店舗数を考えると色々と花が足りなくって、私も朝三時に起きて父と兄とで花の仕入れに着いて行ってるの」
「そんなに朝早く?」
「この時期は仕方ないよ。花を車に運び入れるのだって重労働だし、夏場は暑さで花が萎れるの早いから急がないと……時間との勝負だよ」
苦笑いしながら我に手を差し出す聖女の手を見ると、納品する花を組んでいたのだろう……肌は荒れ、葉っぱの着色汚れがあった。
「幾ら洗っても取れないの、この時期は仕方ないけどね」
「心寿……」
「でもここに来る前にシャワーは浴びてきたから大丈夫! お盆時期の花と正月の時期の花は農薬が兎に角凄いの。花を組んでる最中はマスクしてないと喉が潰れちゃうし、直ぐ肌が被れるから色々大変」
「貴女は肌があまり強く無いのですから気をつけてくださいね?」
「ありがとう、でも祐ちゃんだってお盆時期は凄く忙しいでしょう?」
そう問い掛けられ一瞬悩んでしまった。
確かにお盆時期は袈裟の中も蒸し暑い……何より来客が多くて笑顔を作るのだって大変だ。
その他色々やる事はあるが、聖女のように肌がボロボロになる訳でも、農薬で喉をやられるわけでもない。
「そう言う意味では、花屋のほうが過酷だと思います」
「客商売は笑顔が大事! でもこの時期だけはマスク許可貰っちゃった」
「でしょうね、去年貴女は農薬で喉がつぶれて高熱を出しましたから」
「ソレはソレ、でも私はお坊さんのほうが大変だと思うわ。だって沢山亡くなったご家族が会いに来る時期なんでしょう? 家族と過ごすための時間を祐ちゃん達は守ってると思うと、とても大変なことだと思うの」
「ですが、その為には花が欠かせません。昔、私に話して下さった事を覚えていますか?」
そう問い掛けると聖女は首を傾げて我を見た。
「人は、花に自分や故人の人生を重ねると仰っていました。花が咲くのは命が咲くのと同じ、だから花は愛されるのだと……幼少の頃お話して下さったでしょう?」
「祐ちゃんがまだ小さい頃に一度話したことがあるけど……よく覚えてたね」
「私はそれから花を愛でる趣味を持つことが出来ました。花を見る目が一つ変った……と言って過言ではありません」
オル・ディールで好きに暴れた我が、今では花を愛でる余裕と言うべきか、そう言う風に花を愛でることが出来るようになったのは聖女のおかげだ。
――命が咲くのと同じで綺麗ね。
当時、そう最後に付け加えた聖女の微笑みはとても美しかった。
寺には多種多様の樹木、そして花が植えられていて、それらを管理するのは母の仕事だ。
代々受け継がれてきた樹木や花たち、それを見る目が変ったのも――雪が降っていたあの日、二人で水仙の花を見た時だった。
――美しかったのだ。
雪がまだ降る時期に咲いていた水仙の花が。
――何故か愛おしく感じることが出来たのだ。
そっと水仙の香りに微笑む聖女の横顔が。
「私はこの世に生まれて色々な発見をしては堪能しています。人とは色々な感情を持つ生き物だと知ると……」
――オル・ディールで我の行った行為は許される事では無いのだと、改めて思い知らされる。
罪悪感で胸が押し潰されそうになる瞬間とてあるのだ。
特に僧侶となり墓参りに来る者たちを見ると……家族を思う気持ちを踏み躙った当時の我を許すことが出来なくなる。
でも、それは我とて同じだ。
大事な家族を……失ったのだから。
「祐ちゃん?」
「すみません、折角会いに来て下さったのにツマラナイ話をしてしまいましたね」
ハッと我に返ったのに、聖女は我の頬に手を寄せ、そして強く抱き寄せてくれた。
「祐ちゃんは立派な僧侶になるよ……大丈夫、怖い事はもう終わったんだから」
「怖い事……ですか?」
「あれ? 怖い事って何だろう?」
「それを貴女が言いますか?」
「えへへ」
一瞬、聖女が過去の……前世の事を思い出したのかと冷や汗が流れたがそうではないようだ。
それが分ると安堵の息が吐けた。
聖女の胸に顔を埋め、暫し疲れを癒していると玄関の戸が開く音が聴こえた。
「祐一郎、おっと……お取り込み中だったかな?」
「お爺様、何か御用でしょうか」
「宿坊の見取り図が出来ていたのを思い出してな、明日にするか?」
「お爺ちゃん私はそろそろ帰るから大丈夫だよ~」
「なら祐一郎に送って貰いなさい」
そう言うと祖父は玄関の戸を閉めて家に戻って行ったが、我と聖女は照れ笑いしながら聖女の実家である花屋まで送り届けた。
「怖い事はもう終わった……か」
帰り道、聖女が口にした言葉を思い出す。
ならば我は聖女の期待を裏切らぬよう、立派な僧侶になろう。
立派な僧侶になり、聖女と共に今のこの時代を生きよう。
――もう、怖い事は終わったのだから。
(魔王様は すこしだけ しんみりされた)
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最後まで読んでいただいてありがとう御座います!
出来れば毎日更新したいところですが、気楽に書ける感じで執筆中です。
日間恋愛異世界転生/転移ランキング52位に、
転生魔王は寺に生まれる ~「魔王様、現在のお仕事は?」「異世界で僧侶してます」~
が上がってました:(;゛゜'ω゜'):
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