ビジネスホテル
制限時間30分。お題「東京のホテル」
ある日、出張で東京へ行くこととなった。私の居住している県から東京へは飛行機で約1時間半ほどである。
普段の個人的な旅行では最近増えたLCCを使うが、今回は出張ということで遠慮なく古くからある大手国内航空会社を使わせていただいた。
1時間半のフライトを終え、タラップを歩き、到着ロビーへ降り立つ。コンベアーで流れてくる荷物を受け取る。慣れたものである。
そして私は空港の自動ドアを抜け、空の下へと出る。この外の空気を吸う瞬間が旅行で一番好きである。旅行への期待感は膨れ上がり、胸を焦がす。家族旅行で初めて母親に手を引かれ、人混みの中、飛行機から降りた時から何歳になってもこの感覚は消えない。
出勤ラッシュとは時間がズレていたため、余裕のある電車内で座席に座る。今日の段取りを手帳で確認していると、心地よい振動からか、瞼は重くなってきた。
任せられた仕事を終える。取引先の方と本音など何一つ出さない食事をし、ホテルへの道へとつく。今日は日帰りではなく、ホテルへの宿泊である。
大学を卒業したての頃は、就職で散らばった学友達と連絡をとり、何かの度には食事へでもと行っていたものだが、いつの頃からか連絡をとらなくなっていた。
どこからどこまでが友人と知人であるとは、私は即答はできない。だが、結婚や転職など、人生の転機の度に友人は減っていった気がする。
久しぶりに同窓会へと行ってみようかと、考えが頭をよぎった。
ビジネスホテルのベッドはサスペンションをきしませ、寝転がった私を支える。
カーテンを閉めていない窓からは、終電が間近である時間にも関わらず、自動車の音、人の騒めきなどが灯りともに差し込む。
私が大学時代から就職後もと長くを過ごした場所からは、東京の遠く離れた騒がしさにどこか心惹かれ、騒がしくも懐かしい大学時代へと思いを馳せた。
今年の年末には同窓会があるだろう。
顔も声も朧げとなったが、若き時を過ごし、馬鹿なことも共にした学友たちへの望郷の念は思い出せば、思い出すほど強くなってくる。それは故郷へのものと相似であるのではないだろうか。
取り留めもなくそのようなことを思いながら、枕元のランプを消した。