8ぷに(科学者ぷに助)
ぷにすけは、ついにこの日を迎えた。
かねてより研究していた新薬がとうとう完成したのだ。
その新薬の説明をする前に、少しだけぷに助自身の話をしよう。
ぷに助は研究の職に就く前、五年ほど一般の会社で営業の仕事をしていた。
巧みな話術と物腰の柔らかい話し口。
それらを使い、入社当初よりめきめきとその頭角を現したぷに助は、上司から一目置かれるようになるまでそう時間はかからなかった。
加えて、礼儀正しさと明るい性格を持ち合わせていたぷに助。
同僚からの信頼は厚く、わざわざぷに助を指名してくる取引先もあったほどだ。
そんなぷに助を研究者の道へと導いたのが、同じ傘下のグループで研究所の人事部長をしていた今井さんだった。
今井さんは当時のぷに助についてこう語る。
「確かに彼のプレゼン能力、それに人柄の良さには驚かされました。しかしそれ以上に私が気に入ったのは、物に対する斬新な発想力です。一見すると使い道が限定されているような物でも、彼にかかれば新たなる使い道が生まれる。彼は物に新しい命を吹き込むことが出来るです。・・・って言うと、なんだかまるで神様みたいですね」
異例の営業から研究へのコンバート。
最初こそ勝手の違いに戸惑っていたが、持ち前の明るさと礼儀正しさで、それをどうにか乗り越えた。
そんなぷに助が2010年ごろから、特別な研究に取り組んでいる。
しかしその研究内容はトップシークレット。
何かの新薬を発明しているらしいこと以外は、同じ研究所の所員であっても詳しい事は知らされなかった。
さて、そろそろその薬が何なのか、知りたくてたまらなくなった頃かな?
OK、教えよう。
その薬とは『透明人間になる薬』である。
思春期の男子であれば、喉から手が出るほど欲しいその薬。
映画やその手のビデオに出てくる夢の液体を、ぷに助はとうとう現実にしたのである。
研究のきっかけとなったのは、生物の本質にも関わってくる高尚な思いからだった。
女湯が覗きたい。
その一心で日夜研究に明け暮れたぷに助は、ついに今日、その薬を実践投入する事になる。
女湯の目星はつけてあった。
透明人間になれる薬の完成にめどがついた一年前ごろから、ちょくちょく通っている銭湯。
昔ながらの男湯と女湯が壁一枚で隔てられているスタイルを取りながら、女子大が近くにあるため若い女性客の利用が他に比べて多い。
ババアの裸なんかまっぴらごめんだ、どうせ見るなら若い女の子の裸でしょ。
ぷに助はそう考えると居ても立ってもいられなくなって、おもむろに薬を一気飲みした。
そして服を全て脱ぎ捨てると、ぷに助の姿はすで目では確認できなくなっていた。
急いで銭湯へやって来たぷに助は、番台の前に立つ。
ゴクリと唾を飲み込んだ。
ここまでの道中、誰にも警察を呼ばれていない事から、透明になれているのは間違いない。
(・・・いける。)
前に進もうとしたぷに助は、番台のおばちゃんに大人料金の480円を払おうとして、手を止めた。
(まずい!)
動揺しかけた心をどうにか落ち着かせる。
(何をしているんだ、俺は透明人間なんだぞ。どこに金を払って女湯を覗く透明人間がいるんだ。それに俺は全裸。財布を入れるポケットがないじゃないか。)
ぷに助は一度仕切り直すために、番台から離れる。
実を言うとぷに助の開発した『透明人間になる薬』、完全なる万能という訳ではない。
よくある設定で、時間制限というものがあるが、あれはぷに助の薬には関係ない。
対になる薬を飲むまで、透明を維持したままだ。
その代わり激しく動揺してしまうと、ホルモンバランスの乱れによって、一瞬でその薬の効果が切れてしまうという弱点がある。
これはどう改良を加えても、潰せない弱点だった。
不幸中の幸いは、興奮したとしても薬の効果に異常はないという部分か。
ぷに助はもう一度自分自身の体を隅々まで鏡で見て、きちんと透明の状態を維持できているかチェックする。
そして再度番台まで行くと、今度は女湯に続く暖簾の前に立った。
(・・・参る!)
ぷに助は、その一歩を踏み出す。
「失礼します!」
女湯に一歩踏み入った瞬間、ぷに助は大きな声でそう挨拶をした。
ぷに助持ち前の礼儀正しさが、ここで仇となってしまった。
誰もいない所から発せられた大声に気づき、裸の女性たちが一斉にぷに助の方を見る。
ぷに助は激しく動揺した。加えて、・・・激しく興奮もしたのである。
この日記、何ぷにですか?
「赦し屋とひこじろう」、「未成年委員会による日本の壊し方」という二つの作品を書いているので、よかったらそっちも読んでみてください