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葉隠桜は嘆かない  作者: 玖洞
五章

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132.戦士たちの想い

 何故か微妙に気まずい空気になりながらも、鶫と壬生は対策室の前にまで戻ってきた。医務室に行っていたのは二十分ほどなので、幸いなことにそこまで時間はかかっていない。


 対策室の中に入ると、どうやら職員達は忙しすぎて鶫たちが戻ってきていることに誰も気が付いていないようだった。これでは手伝いを申し出ようにも、下手な時に話しかければ迷惑になる可能性がある。


 鶫がどうしようかと視線を迷わせると、テーブルに広げられた巨大な日本地図が目に入った。よくよく見てみると、どうやらA1のコピー用紙を何枚も繋げて即席で作ったものらしい。その一切の飾り気のない地図には、点々といくつもの赤い丸が書きこまれており、その脇には数字の番号が振られている。


 それとは別に、白い壁にプロジェクターでいくつかの数字が映し出されていた。現在の数字は5/286となっている。何だろうと思いそれを見つめていると、ポーン、というピアノの鍵盤の音が部屋に鳴り響き、数字が5から6へと変わる。……何のことだかよく分からないが、何となく嫌な気配がした。


 そうしている内に、鶫たちに気が付いた薔薇が駆け寄ってきた。


「葉隠さん。怪我は大丈夫でしたか?」


「はい、問題はないです。消毒もしてもらいましたし」


 鶫がそう答えると、薔薇は「医者が診てくれたなら安心ですね」とホッとしたように微笑んだ。……まあ正確に言うと医師の診察は受けていないが、腕に違和感は特にないので大丈夫だろう。


「それは良かったです。さすがに血まみれの姿には肝が冷えましたから」


「ご心配をかけてしまってすみません。でも服に付いていた血の殆どは、怪我をした子を抱き上げた時のものなので。本当に大した怪我はしていないんですよ」


 そう言って肩をくるりと回して見せる。傷を縫った糸がやや引き攣る気配はあるが、魔法少女の回復力であれば二、三日あればほぼ完治する筈だ。……腕を回した時、壬生から咎めるような視線を向けられたがきっと気のせいだろう。


「大きな地図が置いてあるけど、何か分かったのか?」


 壬生がそう問いかけると、薔薇は少し考え込むような仕草を見せ、すっと顔を上げて話し出した。


「魔獣と繋がりがある場所は特定できました。地図に書かれた赤い点がそれです。……でも、少し問題があって」


「問題?」


「数が多すぎる(・・・・)んです。魔獣の気配は全部で百を超えています。恐らく殆どは私たちの目を誤魔化すためのダミーでしょうね。神祇省や転移管理部の協力を得て大元の特定と探索を続けていますが、未だに進展はありません。私の探査がもっと精度がよければ良かったんですけど……」


「でも、いくら数が多いとはいえ魔獣の場所は分かっているんだろう? ならしらみ潰しにしていけばすぐに解決すると思うが」


 壬生が不思議そうに言うと、薔薇は気落ちした様に口を開いた。


「す、すみません。居場所は何となく掴めたのですが、半径約十メートルほどの誤差があるみたいでして。現地に向かった魔法少女や職員が必死で捜索をしているのですが、ダミーの花も含めて形状が小さいため捜索が難航しているみたいで。私が現地に行ければもう少し簡単に見つけ出すことが出来るのでしょうが、そういう訳にも行かず……」


 申し訳なさそうにそう告げる薔薇に、鶫はそういう事か、と納得した様に頷いた。


――確かにその様子なら薔薇が現地に向かうのが一番手っ取り早いだろうが、転移管理部のキャパシティを考えるとそういう訳はいかないのだろう。


 他者と一緒に転移できる魔法少女がどれくらいいるのかは分からないが、そういった能力の持ち主は基本的にクールタイムが長い。複数人の移動を可能とする千鳥だって、一回につき一時間のクールタイムを強いられるのだ。きっと他の魔法少女も同様だろう。最悪イレギュラーが出る可能性も考えると、管理部側もそう簡単に転移を連発出来ないのかもしれない。


 そう考え、鶫は「やっぱり来てよかった」と強く思った。この状況に、鶫以上に適した魔法少女は存在しない。


 戦闘中に繰り返されるハイスピードの転移ならともかく、単純に転移するだけならば大して力は使わない。転移に関するコスパの良さならば、恐らく鶫の右に出る者はいない筈だ。何度転移を繰り返したところで、体に負担はかからない。


 鶫は落ち込む薔薇の手を取り、安心させるように目を合わせながら口を開いた。


「ですが、敵の場所が分かっただけでも僥倖でしょう。幸いにも、此処には転移のエキスパートが一人います。――私の転移スキルのクールタイムをご存じで?」


 そして自分を鼓舞するかのように、フッとわざとらしく不敵に笑いながら鶫は言葉を続けた。


「――約二分(・・)です。そのクールタイムの間に気配の主を見つけ出してみせます。大元の魔獣が見つかるまで、私は何回だって飛んでみせる。……だから薔薇さんは気に病まないでください。ここからは私の仕事です」


「葉隠さん……。ありがとうざいます、わたし先輩なのに不甲斐なくて駄目ですね」


 そんな鶫の言葉に、薔薇は自嘲するように微笑んだ。そんな薔薇に、壬生は軽く笑いながら言う。


「それを言ったら、私なんかちょこっと口を出しただけだからな。呼ばれたけど何の役にも立ってないのと一緒だ。それに比べたら薔薇先輩は畑違いの仕事でも頑張った方だろう」


 そうさらりと言いながら、壬生は「後は葉隠や現地の魔法少女が頑張ってくれる。信じて待とう」と薔薇の背中を撫でた。ぐっと涙を耐える様にうつむいた薔薇は、小さな声ではいと頷いた。


「じゃあ早速因幡さんに聞いて向かう場所を決めないと。急がないといけないですから」


 そう言って、鶫はぐるりと部屋の中を見渡した。薔薇たちに啖呵を切ったものの、あまり現状は良くない。問題があるとすればやはり魔獣の居場所候補の数だろうか。


 現在チェックが終わっている箇所はおよそ二十。自分が二分ごとに駆除と転移を繰り返したとしても、一時間に三十程のポイントしか潰せない。いつ大元に当たるかは分からないが、最悪このペースだと、数時間は掛かってしまうだろう。


――それまで、夢路は大丈夫だろうか。そんな不安が鶫の心の中に過る。


 そんな事を考えている間に、またポーンというピアノの音が鳴り響く。「この音は?」と薔薇に聞くと、彼女は悲しげな様子で「あれは死亡者の報告です」と小さな声で告げた。


「あの壁に映っているのが、現在の死者数と被害者の数です。……人が死ぬのは慣れているつもりでしたが、ああやってはっきり示されるとやっぱり辛いものがありますね」


「――……そう、ですか」


 ざあ、と自分の血の気が下がる音が聞こえてきた。

 もう既に犠牲者が出ている。その情報は、鶫にとって衝撃を与えた。


――こんなことなら、治療なんてせずに此処に居座っていればよかった。そうすれば医務室に行っていた時間――十数分の間にいくつものポイントを回れていた筈なのに。ああすればよかった、こうしていればよかった。後悔はいつも後からやってくる。――けれど、それでも前を向かなくてはいけない。だって、自分にやれることはまだ残されているのだから。


 鶫はすっと決意を込めて顔を上げ、薔薇と壬生を見つめた。


「行ってきます。――これ以上犠牲者を増やさないためにも」


――みんなやるべき仕事はきっちりとこなした。ならば次は自分の番だろう。


 鶫がそう告げると、薔薇は深々と頭を下げて「どうかご武運を」と静かに言った。そして壬生は鶫に近寄って強めに鶫の背中を叩くと「頑張れ!」と声を掛けた。


 それに鶫は小さく頷くと、真っすぐに因幡の元へ向かった。立ち向かうべきは花の魔獣――そして時間であると心に刻みながら。


※2/8補足説明追記

鶫の転移スキルのクールタイムについて。

大前提として、魔法少女は結界の外だとスキルの性能に制限が掛かっている。

鶫の場合、結界の中なら2~5秒の間隔で転移を繰り返せるが、結界の外だと約二分ほどのクールタイムが必要となる。だが視認できる近距離の転移はその限りではない(10~30秒)

このクールタイムはスキルの精度や理解を深めることによって縮めることが可能。



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― 新着の感想 ―
[一言] 結界内だと2〜5秒で転移連発出来るの強すぎるな〜最強やん!
[一言] あれ?転移のクールタイムって……?
[一言] 救えるかな
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