サラダにドレッシングはお付けしますか? 8
「いやいやいや、どういう事ですか!ゴディバ?なんで俺が」
身振り手振りで無罪を伝えるが宮下は何処吹く風だ。冗談じゃない。
「確かに俺のクラスメイトですよ。けど、だからって俺が責任取るのもおかしな話じゃないですか。そもそも、どうしてこんな事したのかだってわからないのに」
「え、わかんないの?」
「…まさか、わかってるんですか?」
ここまで自信満々に言われてしまうと少し悔しい。
「えっと、俺の事が嫌いで嫌がらせを…」
「ないね」
「ですよね」
よかった。いやよくない。
「すいません。ヒントをください」
このままでは埒があかない。理由もわからずゴディバを買うのだけは避けたい。
「ヒントねえ…。じゃあ、あの時何があってそれぞれがどう行動したのか、思い出してみなよ」
「何があってどう行動したのか、ですか」
たかが2、3時間前の事だ。それくらいは覚えている。
「えっと、まずあいつらが異物混入に気づきました。それで高谷さんを呼んで、高谷さんがサラダを厨房側に持ってきました」
「高谷、その時の行動は?」
「はい。宮下さんと須藤さんを呼んで、3人で異物混入の確認をしました。その後宮下さんの指示で私が別のサラダを提供、須藤さんが新しいサラダを作りました」
「別におかしなところはないですよね」
高谷が調理担当である俺、そして店長代行の宮下に異物混入を報告し、それに対して店長代行である宮下が俺たちに指示を出す。完璧な流れだ。
「ないね。誰が対応していてもそうするってくらい正しい。たぶんあの子たちでもわかっただろうね」
「…それはつまり」
「そう、それを狙ったって事だよ。答えが出ないみたいだから言っちゃうけどさ…」
そう言って宮下は言葉を止め、ちらりを俺を見た。
「あの子たちの目的は須藤とあたしたちの関係を推し量る事だったの。だからわざと問題を起こした。大方、彼女にでも頼まれたんじゃない?」
俺とこの人たちの関係を知るため?しかも彼女に頼まれて。
そんなことってあるか?
「いや、そんなことあるはずないですって!第一、これで何がわかったって言うんですか」
「えー、そこまで言わなきゃわかんないの?あたしだったら一番気にするのに」
「わからないものはわからないですって」
宮下は呆れたように、これだから男は、とぼやいている。
すいませんね。乙女心のわからない鈍い奴で。
「あのね、あの子たちが知りたがってたのは呼び方だよ。須藤がなんて呼ばれてるのか。本当は須藤があたしたちの事なんて呼んでるのかも知りたかったんだろうけど、須藤は特に喋ってないからね」
「呼び方…。そんな事のためにこんな事したっていうんですか!?」
馬鹿らしい。たかが呼び方を知りたくて起きた事なんてひどすぎる。
「ま、これで須藤が居づらくなってバイト辞めれば、彼女としても万々歳でしょ。一緒に居られる時間が増えるわけだし」
…本当に馬鹿らしい。