サラダにドレッシングはお付けしますか? 4
「す、すいません。私が提供の時にきちんと確認しなかったせいで」
問題の髪の毛はサラダの中央にある。これだけ目立つなら冷蔵庫から取り出した時に気付くはずだ。
俺はぐるりと周りを観察した。俯いてサラダを見つめている高谷に、心配そうにこちらを見つめている客人たち。それに…
「…そっか。そういう事だったのね」
「宮下さん?どうしたんですか」
そこには、先ほどまで何かを考えていた宮下はいなかった。サラダを見て、そのまま視線をこちらに向けた。
「須藤、このサラダ片付けといて。それから新しいサラダの補充」
「は、はい!」
「高谷は新しいサラダの提供ね。ドレッシングも付けるの忘れないで」
「了解です」
矢継ぎ早に指示が飛ぶ。さすが店長代行だ。
高谷は新しいサラダを冷蔵庫から取り出し。ドレッシングと一緒にトレーに並べた。3人で確認したが、今回は何も入っていない。
「では、提供行ってきます」
ガチガチになりながら提供に行こうとする高谷を宮下が引き留めた。
「ちょっとまって」
そうして、振り向く高谷の耳元に何かを囁いた。
目を見開いて驚く高谷に、宮下はお願いね、と短く言った。
「何を頼んだんですか」
低姿勢でサラダを提供する高谷を見ながら聞いてみた。
「ねえ須藤、ハーゲンダッツとゴディバ、どっちが好き?」
ハーゲンダッツとゴディバ?この人は一体どうしたんだろう。珍しく問題が起こっておかしくなったのだろうか。
「えっと、どっちも好きですよ。けど、やっぱりゴディバの方が特別感がありますよね。ここら辺じゃ買えないし」
「そっか、ゴディバか。ふふふ」
楽しみだねぇ、とニヤニヤしている。幸せそうだがちょっと不気味だ。
突然、店の中がざわつき始めた。客人はあの3人しかいない。見ると、何やら興奮した様子で俺と高谷を交互に見ている。
サラダを提供した時に何かあったんだろうか。
高谷さん、と声をかけようとしたが、こちらが声をかける前に高谷から声をかけられてしまった。
「あの、悠人さん」
…悠人さん?
確かに俺の名前は須藤悠人だが、高谷はもちろんこの職場の誰も俺をファーストネームで呼ぶ人はいない。
何なんだ。さっきからみんな様子がおかしい。
すると、そんな俺の不安を察したのか、高谷が小さく耳打ちした。
「仕事が終わったら休憩室に残っててください。宮下さんが解いてくれるそうです」
…解く?解くってなんだ。宮下の考え事の理由か。それとも高谷の突然の名前呼びか。それとも…
それとも、あの異物混入の事か?