サラダにドレッシングはお付けしますか? 2
すっかり煮上がった玉ねぎをバットに上げていると、テーン、という間の抜けた音が鳴った。
音の鳴る方に顔を向けると、そこには見知った顔があった。
「あれ、越野じゃん。それに沢村と葉風も。いらっしゃい」
「あ、須藤君!ここで働いてたんだね」
「そうなんだよ。…あ、どうぞ、テーブル席をご利用ください」
やだ、須藤君がちゃんとしてるー、とはしゃぎながら、3人はテーブル席に着いた。
「じゃあ、お冷持っていきますね」
そう言って水を持っていく高谷と入れ違いに、宮下がこちらへ向かってきた。
「あの女子高生たち、須藤の知り合い?」
「ああ、クラスメイトですよ。俺の知り合いっていうより、彼女が仲良いみたいで」
「ふーん。…不思議な子たちだね」
「別に、普通の高校生ですよ」
3人とも今時の高校生らしく、髪を巻いたりスカートを短くしている。
そもそも不思議がどうといえば、宮下の方が派手な高校生活だったと聞く。俺と入れ違いに卒業してしまったため詳しくは知らないが、宮下の1つ年下の高谷はよく知っているそうだ。高谷曰く、知らない人はいないほど有名人だったらしい。どう有名だったのかは知らないが、その片鱗は今でも残っていると言えるだろう。今年で20才になるとは思えないほどの童顔で、胸元まで届く髪は少しくすんだ金色。背は標準より少し低めだろうか、俺と並ぶと頭の1つ分高さが違う。
まったく、これで店長代行なのだから恐れ入る。
そんなことを考えていると、注文を取り終えた高谷が戻ってきた。
「オーダー通しますね」
流れてきたオーダーには、牛丼の並が3つとチーズが1つ、それにサラダが1つとあった。チーズとサラダはフロア側から出すので、俺は牛丼を盛るだけだ。
「高谷、ドレッシングは?」
「ごまドレッシングです」
そう言って高谷はトレーにサラダを置いた。その横に宮下がドレッシングを置く。
俺は盛り終えた牛丼をトレーに並べ、その1つに用意されていたチーズをかけた。
「提供しちゃいますね」
楽しそうに提供しにいく高谷とは対照的に、宮下は腕を組んで何かを考えているようだ。
「何かありました?」
聞いてみたが、驚くほど反応がない。完全に自分の世界に入っているようだ。
宮下さん!、と強めに声をかけると、宮下は組んでいた腕をほどき、そのままファイティングポーズの構えをとった。
「な、なにさ。やるのか」
「そんなことしませんって。何か考え込んでる様子なので気になっただけです」
「ああ、うん。まあね…」
何やらはっきりしない返事はいつもの宮下らしくなかった。
すると、ちらりと横目で客人を見て、それから言った。
「いや、何も起きないならいいんだけどね」