サラダにドレッシングはお付けしますか?
玉ねぎの食感は、いったいどれくらいがベストだろうか。
シャキシャキとした歯ごたえを求める人もいれば、しんなりとして味が染み込んだ方が好きな人もいる。いっそのこと両者の中間にしてしまおうかとも思うのだが、その選択はなんだか味気ない。
あと5分煮込むか、それとももうバットにあげてしまうか。客がいないおかげで余裕があるため、つい悩んでしまう。
「何をそんなに考え込んでいるの」
横からの声に顔を上げると、手持ち無沙汰な宮下さんと目が合った。
「どうせまた彼女のことでしょ。愛されてるのはいいけど、束縛されすぎてバイト来られません、とかはやめてよね」
「仕事中に彼女のことなんて考えませんよ」
実際、頭の中は玉ねぎでいっぱいだったのだ。ふと鍋を見ると、まだシャキシャキらしい玉ねぎが浮いている。決断を下すのはまだ早い。
「俺のことは気にせず、宮下さんもちゃんと働いてくださいよ。さっきから高谷さん1人で作業しているじゃないですか」
「須藤のくせに生意気。こっちは店長代行なんですけど!」
「だったら店長代行らしくしてください。ほら、高谷さんがかわいそうじゃないですか」
フロアに目を向けると、高谷さんは笑いを堪えながら作業をしていた。どうやらこの会話は丸聞こえらしい。
「もう少しで作業終わるので大丈夫ですよ。お客さんもいませんし、のんびりいきましょう」
そうだよ大丈夫だよ、という宮下さんの声には聞こえないフリをする。そもそも夜の7時に客がいない飲食店なんて、どう贔屓目にみても大丈夫なはずがない。このまま10時までこの3人で働くのに、誰もこなかったらどうしよう。
「あ。そうそう、須藤」
「今度は何ですか」
彼女のことなんて考えませんよ、と顔を上げずに答えると、宮下さんは静かに鍋を指差した。
「それ、そろそろ上げたほうがいいんじゃない」
みると、すっかりしなしなになった玉ねぎがそこにあった。