放課後
「むぅ……。あの子って、たま~に付き合い悪いよねぇ。カレシでも作りやがったかなぁ」
「なになに? だれ子ちゃんの話? そういうのお姉さん大好物だから教えなさい」
「誰って、コユリの話よ。な~んか付き合い悪い時あるよね~ってハナシ」
「なんだ。……流石に彼氏は無いんじゃない? 今朝も寝癖つきっパだったもの。色気付くのはまだ先でしょ」
「でもさ、今日もさっさと帰っちゃったわよ? なんか用事? って聞く暇も無いくらい」
「ふぅん。……そっか、今日は水曜じゃない。ならしょうがないわよ」
「なになに? アンタなんか知ってんの?」
「知ってるもなにも……。そっちこそ知らないの? あぁ、そういえば貴女、中学は別だったわね」
「えっ……。なんか有名なハナシ?」
「有名と言えば有名かも。中学から同じだった子ならたいてい知ってる話よ。このクラスでも、たぶん半分以上は知ってるんじゃないかしら」
「そうなっちゃうと、今まで知らなかったワタシはなんなのってカンジなんだけど……」
「好き好んで話題にするような内容じゃないもの。しょうがないわ」
「あ~、っと。……もしかして事情アリ?」
「……そうね。まぁ、貴女も知っておいたほうが良いのかもね。さっきも言ったけど、みんな知ってるレベルの事だもの」
「そっか。……ん、アンタが話しても大丈夫って思うなら聞かせて?」
「わかった……。そうね、どこから話せばよいかしら。……ねぇ、貴女もずっとこの町で育ったのよね? なら少し前の話だけど、緑ヶ崎のモールの中に○○って中華系のお店があったの、知らない?」
「ちょっと待って。……あ~、あったかも。ちっちゃい頃、親と一緒に行った気がする。確か、名物料理的なのがウリだったような」
「そこよそこ。知ってるなら話早いわね。実はあのお店って、あの子のご両親がやってたのよ」
「へぇ~、そうだったんだ! スゴいじゃん。たしかあのお店って、あちこちに支店あったよね。話してて思い出したけど、確かウチの近くにも…………。アレ?」
「あったけど、今は無い。でしょ?」
「そうそう! 結構あちこちにあったはずなんだけど、最近は見ないな~って。……えっ? もしかして、そゆこと?」
「そういうこと。私も詳しくは知らないんだけどね。あそこってあの子の父親が始めた店らしいの。で、最初は人気が出てあちこちに支店作ったは良いんだけど、しばらくしたら上手くいかなくなっちゃったんだって」
「あっちゃ~」
「あっちゃ~はこれからよ。もともとは、あの子の父親とお兄さんが働いてたそうだけど、上手く行かなくなる前から二人の仲がこじれちゃったみたい。それで、とうとうお兄さんは出ていった。その後も経営の悪化は止まらなくって、せっかく作った支店もどんどん潰れていく。最後には本店だったお店も無くなっちゃったらしいわ」
「なんでなんだろうね? 結構美味しかったと思うんだけど」
「さぁ? 経営のことなんて私にはわからないわ。……前にあの子が、計画性がどうとか言ってた気がするけど、詳しい話は知らないもの」
「ん~、良くわからん。私にも向いてないね、そういうの。……それで? まだ続きあるんでしょ?」
「というか、ここからが本題よ。中学に入ってすぐの頃だったと思うんだけど。最後に残った本店も潰れちゃって、失意のどん底になっちゃった父親が、こぅ……首を、ね?」
「あちゃ……。やっちゃったんだ」
「やっちゃったらしいわ。で、幸いって言って良いのかわからないけれど、借金とかはなかったらしいの。それでも、残されたあの子の母親も心労で倒れちゃって、今でも花山手の病院に入院してるのよ」
「花山手のって、もしかして、ココロ的な?」
「そうね、そっち系。だからあの子、毎週水曜日は母親のお見舞いの日なのよ」
「そっかぁ……。いや、……ホント。そっかぁ……」
「まぁ、それくらいしか言えないわよね。私も中学の頃は、あの子とそんなに仲良くなってなかったけど、それでも人づてに聞いた時にはそんな感じだったわ」
「そだよねぇ。……それじゃあの子って、今はそのお兄さんと二人で暮らしてるんだねぇ」
「あぁ、いや……。これもまたなんと言うかな話なんだけど、お兄さんも亡くなってるらしいわ。家を出てすぐに、交通事故で」
「なによその不幸の連鎖。って、……えっ? じゃあ、一人で生活してんのっ?」
「書類上は母親との二人でってことになってるらしいけど、実質は一人暮らしね」
「アンタは行ったことある? あの子の家」
「一度だけね。でもあんまり来て欲しくないみたい。あまり治安が良くないからとか言ってたけど、やっぱり大変なんじゃない? 一人暮らしって」
「ホント。そうだろねぇ、だよ。料理とか洗濯とかも、全部自分でやるんでしょ? ワタシなら絶対無理だよ」
「私も親元離れるのは不安だわ。まぁ、大学に入ったらそうも言ってられないだろうけど。……なんにせよ、あの子の状況ってこんな感じなのよ。親戚も近くにいないらしいから、基本は一人で生活してるらしいわ」
「わかった、色々と。……でも、正直そんなん、全然気づかなかったわよ」
「色々と慣れちゃったんじゃないかしら。あの子ってそういうトコあるし」
「うっわぁ~。……もぅ、明日っからどんな顔して話せばよいのさ~」
「普通にしてなさい。本人もそうして欲しいみたいだしね。それに、変に同情されるのって、あまり良い気はしないものでしょう?」
「そりゃまぁそうだろうけどさぁ。難しいよ。知っちゃうと」
「だとしても、これからもあの子と付き合う以上は知っておいた方が良いわ。今日みたいなこともあるしね」
「……ん。……ヨシ。わかった。できるだけフツウにしてみる」
「それが良いわね。私も出来るだけ気にしないようにって思ってるもの」
「そだね。…………でも、さ」
「……うん。わかる」
「……だよね。
どうしたって――」
「――可哀相とは、思っちゃうわよね」




