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グッドナイト・メア

作者: kouto

 雲一つない澄んだ青空の下、青く生い茂った草むらのベッドの上で少女は目を開いた。深緑の長い髪を持った彼女は名前をメアと言った。贅沢な装飾品で飾られた豪華なドレスを身にまとうメアは上半身を起こすと、あくびをしながら伸びをした。そして彼女は立ち上がると草原の中でそびえ立つ一本の木の元へと向かう。

 木陰の下、木の根本に布の包みが置かれていたメアはそれを拾うと、彼女はそこに座り、そのまま木にもたれて自分の素足を大きく開いた。そして布の包みを開く。包みの中にあったのは肉と野菜を丸いパンで挟んだハンバーガーだった。彼女はそれを、風もなく揺れる木の葉の中でちらつく太陽を見上げながら口に運んだ。


 食事を終えるとメアは料理を包んでいた布をドレスの中へとしまって柔らかな青い草原の上を歩いた。彼女が向かった先にあったのは大きな川が流れる川原だった。丸い石が敷き詰められた川原を歩いて、川の隣まで来るとしゃがみ込み、両手で川の水をすくってそれを口に含んで喉を動かした。

 彼女は立ち上がるとドレスの裾をつかんでスカートを上げると川の中へ足を踏み入れる。川の水が彼女の膝下までつかるところへ来ると川面を浮かぶようにある大きな丸い石があり、メアは石の上に座って鼻歌を歌いながらばしゃばしゃと水面で足を動かした。


 メアが飽きる頃になると彼女は川から出てまた草原の上を歩いた。次にメアが行き着いたのは工場のように大きな白い小屋が三つ建つ場所だった。メアは左の建物にある横開きの白い扉を開けて、その建物の中へと入っていった。明かりがついた建物の中、メアの目に飛び込んで来るのは天井からフックで吊された大量の肉のかたまり、どれもメアの背丈を優に越えるものばかりだった。彼女は精肉場のようなスペースを歩き続け、様々な刃物が横に並ぶ台まで来た。そして近くにある肉を引っ張って台の上へと運ぶ。そしてメアはその巨大な肉をフックから外す。台の上へ勢いよく落ちた。彼女は自分の上半身よりも長い刃渡りを持つ包丁を両手に持つと、一気に肉へと振り下ろした。包丁を前後に動かし、骨ごと切っていく。それを何度も何度も繰り返す度に彼女の顔やドレスに血が飛び散った。

 たくさんの種類の包丁を使って肉を細かく切り分けたメアは大きなカートを持ってきて、それらを中へといれた。そしてカートを押しながら建物から出る。彼女の体や服についていた血はいつの間にか色あせ消えていた。メアはそのままカートを押して、左の建物の隣にある正面に井戸が備え付けられた中央の建物へ移動する。その建物の屋根には煙突がありそこから白い煙がもくもくと立っていた。煙突のある建物の中は家具店のように棚が陳列されており、その入り口付近には常に火が付いている大きなかまどと石窯を持つ台所があった。メアは棚の前まで来ると自分が切り分けた肉を部位ごとにしまっていく。そして彼女は一食分の肉だけを残して、肉のしまった棚とは別の棚から小麦粉や葉物、果物それに木の実など様々な食材を取り出していった。

 それら料理の食材を石窯のある台所まで運ぶ。彼女はまず建物の外にある井戸から桶を使って水を汲み上げ、台所へと持っていく。そしてその桶の水を使って小麦粉をこねていく。丸く大きく練られた小麦粉をメアはちぎってはこね、大きな物を一つと小さな物を三つ作った。それらを一旦台所の端に置くと、先ほど細かく切った肉を長い柄がついた鉄板の上に広げて、石窯の中へと入れた。次にメアは台所にある包丁を持って、果物の皮を剥いて適当な大きさに切る。その後、大きな器と棒を出し、それらを使って切った果物をぐちゃぐちゃになるまで潰していった。

 石窯の中で肉が十分に焼けた事を確認したメアは鉄板の柄を持って石窯から肉を取り出した。次に彼女は台所の端に寝かせていたこねた小麦粉の大きな生地の方を薄くのばしていく。そして薄くのばされた生地の上に潰してペースト状になった果物を生地の上へ流し込み。そのペーストの上に先ほど焼いた肉を置いて、さらに棚から取り出した葉物と木の実をまぶすように生地の上へとのせて、具材の乗った生地を石窯の中へと入れた。生地が焼かれていく間にメアは建物から出て、今度は右の建物の中へと入り、そこから机、椅子、ナイフとフォークを出していく。そしてそれらを中央の建物の前に丁寧に配置していった。

 しばらくしてメアは石窯の中からパリパリに焼かれて膨らんだ湯気の立つピザを取り出した。木の実の香ばしさと果物の甘い匂いがするそれを皿に乗せると建物の外に置いた机の上へ持っていく。そして彼女は椅子に座るとナイフとフォークを使ってピザを食べ始めた。


 ピザを食べ終えてメアは別にこねてあった小さな三つの生地の中に木の実を混ぜるとそれらを石窯の中へと入れる。生地がふっくらと焼きあがる前に彼女は食事の後始末をする。皿やナイフなどは井戸の水で汚れを洗い流し、机や椅子と共に元の場所に返した。そして石窯の中に入れられた生地はふっくらと丸いパンへと変わった。メアはドレスの中にしまった布を台所の上へ広げるとそこへ石窯の中からできあがったパンを取り出し置いていった。そして彼女は、建物の近くにある適当な木二つにくくりつけられている編んだ網と布でできたハンモックの上に横たわると、日に当てられながら自分の目を自分の腕で覆った。


 日が傾き、彼女の緑色の髪が赤く染まる頃に彼女は目を覆っていた腕を動かした。メアは台所に置いていた三つのパンを布に包んで持つと歩いて建物から離れていった。

 彼女は赤く染まった砂の上を歩く。見渡す限り砂の砂漠の中で彼女は自分の足跡を残していた。風が吹かない砂漠の中で彼女は適当な砂丘の上に座ると布の中からパンを一つ取り出し、赤い太陽を眺めながらほおばった。彼女は自分の口の中でパンの香りが広がるのを感じ、赤い太陽が自分の顔を熱するのを感じた。やがてパンを食べ終えたメアは柔らかな砂のベッドの上に寝転がる。パンを包んだ布を持ちながら彼女は瞳を閉じた。

 太陽が落ちて、月と星が輝き出す。砂漠をほのかに照らす月の下でメアは瞳を閉じるのを止めた。自分のドレスについた砂をはたきながら体を起こして立ち上がると、星が点々と輝く夜空を見上げながら灰色の砂漠の上を歩いていった。やがてメアが見ていた空は森の木々に覆われていき、月の明かりすらも届かない程深い森の中へとメアは入っていった。メアは暗くて見えない地面の上を確かにそこにある闇に包まれた足を使って光のない木々の間を通り抜けて歩き続ける。木の葉が殺風景な音を出して揺れる中、メアは楽しげに鼻歌を歌い始めた。


 真っ暗闇だった木々の間から光が発せられる。その光の先へと抜けたメアの瞳に映るのは朝目覚めた時にいた青い草原だった。彼女は一本だけ生えている木に寄りかかって座る。布の中からパンを一つ取り出し、空に浮かぶ月と広がる草原を見ながらパンを頬張った。パンを両手に持って明るく光る月を見上げながら一口かじり、視線を下ろして月に照らされて輝く草原を見ながらかじる。

 パンを食べ終えると彼女は布に包まれたまま一つだけ残ったパンを木の根本に置く。そして彼女は寝ころんだ。服の乱れも気にせず柔らかな草の上を転がっていく。やがて彼女の体は仰向けになって止まる。そしてメアは自分の瞳に月を映しながらまぶたを閉じた。



 メアは目を覚ます、立てかけられた棺の中で。棺の中から光があふれ、後光のように中にいる彼女を光らせていた。

 棺からあふれる光は彼女の前を照らし出す。彼女の視界に映るのは壁も床も岩でできた広い空洞の中、そこに一人の少年の姿があった。メアと同じ年頃にして少しばかり背の低い彼は口を大きく開き、困惑と驚きに満ちた表情でメアを見ており、その口からは疑問に満ちた声が漏れていた。

 眠りから覚めたメアは目の前にいる少年に微笑んで言った。

「おはようございます」


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