追想
日に日に忘れていく。
君と暮らしたあの日々、あの微笑みも。
あの日大地の怒りを感じ、ただどうすることも出来なかった。
あの子の可愛い笑顔が何回もフラッシュバックする度に、古傷が疼くような気がしてた。
僕は女一人守れなかった愚か者、何回死にたいって思ったことだろうか。
こんな人間のクズが生き残って、あの優秀な子が消えてしまう。
人間界は分からないよ。僕には。
僕の学校は比較的高台にあると思っていた。
あの時も普通に授業をしていた。
突然、大きな揺れがおこり、電気は消え、周りの女の子は泣き喚いていた。
僕の彼女は、足を怪我していた。窓ガラスの破片に当たってしまったのだ。
「逃げるぞ。ここにいては危険だ。」担任はそう言った。
皆が退避準備をする中で、僕は茉莉の元に行った。
「岸本君。先行って。私の事はいいから。」
「何言ってんだよ。お前は、俺の大事な彼女だ。置いていける訳ねぇだろ。」
「でも、ここで二人死ぬよりは良いでしょ?岸本君には他に出会いがあるよ。」
「茉莉、死ぬなんてそんな事言うなよ。俺は、もっとお前と過ごしたいよ。」
「岸本。逃げるぞ。大変だ。下まで水が来ている。このままじゃ波にさらわれるぞ。」
「でも、茉莉…坂本さんが。俺、背負っていきます。」
「馬鹿言うな。二人とも死ぬぞ。」
「じゃあ、どうすれば良いんですか?このまま見捨てろとでも?」
「じゃあ、好きにしろ。高校は自己責任なんだ。どうするか決めろ。」
先生は去って行った。
その後は、誰もいない教室で茉莉と口づけを交わしながら、轟音の響く下を眺めた。そして懐かしい日々を話したりした。
学校に水が迫り来る。最初で最後のキスだったな。
一刻一刻、濁流が学校めがけて襲いかかる。
あんなに嫌いだった学校が俺の墓になるなんてな。
死の砂時計の砂は残り少ないのだろう。
「茉莉。お前と一緒に過ごせて本当に良かった。俺は幸せ者だ。来世でも宜しくな…」僕は泣いてしまった。あまりにも死が怖かった。
「何泣いてるの岸本君。死ぬなんて言っちゃダメって言ったのは岸本君じゃないの。」茉莉は、優しく語りかける。
校舎が傾く。どうやら1階2階部分は完全浸水してしまったようだ。
「茉莉。一緒にいれば大丈夫だよ。きっと助かるよ。」
安心させるつもりが俺を泣かせる。
濁流が大きな音となる。こっちに向って来たようだ。
茉莉の手を握った。温かい手だった。
最期を覚悟した。濁流は俺を飲み込む。
暫くしてある場所に流れ着く。
「俺は茉莉を守れなかったのか。」一人涙を流していた。
それ以来、茉莉が死んだとも生きているとも知らない。
しかし、良く似た記憶喪失の女性がいると聞いた。
死ぬ展開を考えたが、重くなるのではぐらかしました。