悪夢
本当に大切な人は、偶然現れる。
でも、いつ現れるか、誰にもわからない。
一生、現れないで、気が付かない場合もある。
でも、もし偶然でも、そんな人が現れたとしたら、
その人はとても、幸運だと言える。
僕は夢を見ていた。
僕は毎朝のように歩いているアスファルトの歩道を歩いている。
正確に言えば、アスファルトの歩道を歩いている自分を映像として遠くから覗いている。
夜中に降り続いた雨は路面に残っていた雪を溶かし、気まぐれで顔を出した太陽は、濡れた路面をキラキラと照らして僕をさらに憂鬱な気分にさせる。
映像はなぜか、モノトーンになっている。
モノトーンの映像の中、歩道の上を僕は歩いている。
右手にはあけぼの薬局の看板、その向こうには、無駄に大きなケーズデンキの看板が見える。
ケーズデンキを通り過ぎるとその向こうにはゼビオの看板が見えるはずだ。
僕は一歩一歩歩いていく。。
でも、
あけぼの薬局の看板は一向に、近づいてこない。
僕は前に進んでいるはずなのに。。
映像の中の僕は焦っている。
そして、映像の中の僕は、、額から上が切り取られている。頭のない僕の身体。でも、そんなことを意に介さないように僕は歩いている。
汗が出てくる。
陽の光の照り返しは眩しさを増していく。
僕はふと、右の手のひらにぬめりのようなものを感じる。
手のひらを見てみる。
手相の筋のくぼみに血が滲んでいる。
モノトーンの映像の中で、なぜか血の色だけは、真っ赤に色付いている。
血はゆっくりと、でも、止まることなく、滲んでくる。
僕の手相が血に染まって、赤く浮かび上がる。
ポタポタと血が一滴、一滴、アスファルトの上に落ちる。
出来たばかりの様な鮮やかな赤だ。
まるで、出来たばかりの僕の記憶を少しずつこぼしている様に見える。
忘れれたくても、忘れられない記憶がある。
新しい記憶が増えれば、古い記憶は薄まり、淘汰されていく。。
でも、それは違う。
印象的で、強烈な記憶はそれが古い記憶でも、新しい記憶をどんどんかき消していく。
僕はもう一度、手のひらを見る。
僕の血に染まった手相は、呪われた僕の運命を象徴しているようだ。
頭のない僕は、歩き続ける。でも、前に進まない。
頭と、身体が切り離されている。
僕は自分の意志で歩いているのではない。
僕は前に進むことができない。
僕は後ろに下がることもできない。
僕は、停滞している。
そう、
僕は、
どこにも、
行けない。。
これは、僕の体験が元になっています。
辛く苦しい恋。
心が通じ合う、でも、切ない心。
終始、暗い文体かと思いますが、共感を持ってくれる方がいれば、嬉しいです。