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目が覚めて、周りが廃墟になってたらどうしようって、真面目に心配した。
「小宇坂君、彼女を止めてくださって本当にありがとうございました」
どうやらオレの心配は杞憂で終わったようだ。
すっかり顔色も元に戻った白木さんが、深々と頭を下げる。
「そして、恐怖のあまり咄嗟に呪縛を使おうとしてしまった事、申し開きのしようもありません。恐らく私が彼女に攻撃しなければ、このような事態にはならなかったでしょうから」
オレが泊まっていた部屋と同じ造りだが、内装が若干違っている部屋でオレは目覚めた。
そして、おなじみになった白木さんとリアムさん、さらに逆側から幼女に覗きこまれているのに気付いて、夢じゃなかったんだなと暗澹たる気持ちになった。
「物的被害は軽微…君のもともと泊まっていた部屋の風通しがちょっとよくなったくらいだし、それをやったのはボクだから。人的被害は、まあシホとボクが一度死にかけたくらいで今はもう完治している」
複雑な表情でオレを挟んだ向かい側を見るリアムさん。
そこにいる幼女は、依然としてオレをきらっきらした目で見つめている。
照れる。
「さて…それでは、小宇坂君。質問はありますか?」
ベッドから身を起こしたオレに、いつぞやの如く切り出したのは白木さんだった。
*****
オレは3日間目を覚まさなかったそうだ。
そりゃもう酷いうなされ様で、医者は「ひょっとすると目覚めても正常な状態ではないかもしれない」なんて不吉な予言を残したりもしたそうな。
が、意外や意外、オレはなかなか図太かったらしく、こうして目覚め、普通に会話できている。
驚きだ、オレこそ今度こそ精神とおさらばした気がしていたんだが。
そしてこの幼女について。
やはり紛れもなくこの幼女は伊狩同志が旧オーストラリアから持ち帰った形見、錬金術の粋、錬成によって生み出された世界最強と呼ばれる生物であるとのこと。
どうやら人間に作られたために安全措置が施されているらしく、自衛のため攻撃を受けると反撃するようになってはいるが、何もしなければただの幼女、らしい。
ただしオレに何かしようとした場合はさらに別の条件が働くそうで、オレが「大事な人」と称した白木さんやリアムさん以外は決してオレに近付けようとせず。
医者に診せるのだって、遠隔医術を会得している、本来なら国のトップあたりしか診てもらえないような超ハイクラスなドクターに遠くから診察してもらうなどという方法で行われたそうだ。
「お前すごいんだな…」
オレは知らないが、オレが気絶している間に定位置となったらしい場所――オレの腹に腕を回し、膝の上に乗り上がってご満悦の幼女の頭を撫でる。
ちなみに、オレがそうして普通にスキンシップをする度にリアムさんと白木さんの顔が強張るのは仕方ないことだと思う。
オレ?
オレはほら…何にも見てないから。
幼女が何かした場面は、何も。
そういえば。
トラウマばりな戦闘を幼女と経験したにもかかわらず未だにこの二人がオレの側にいるのは、唯一…唯二?オレに近付けるだけじゃなく、白木さんとリアムさんはともに、国連魔術部隊でも結構上の方の実力を有するだけでなく、兼任で国連幹部も兼ねているから、だという。
この二人だからこそ、幼女へ総攻撃に移ろうとする国連戦力を押しとどめることが出来たのだと、説明の傍ら漠然と理解した。
「本来であれば、彼女の封印解除の前に小宇坂君に決断をしてもらいたかったのですが…致し方ありません」
「この子の再封印はほぼ不可能とわかっている。錬金術の分野は情報に乏しいからね、変に弄って壊しては意味がない」
「だからこそ、小宇坂君。これからの君の選択は極端に幅が狭くなりました」
1.幸い自立戦闘が可能な幼女に命令し、結界防衛に協力する=国連特別戦闘員になる
2.オレ以外の適合者が現れるまで国連で研究される(幼女含む)
狭くなった選択肢。2つになったらしい。
すごい絞られたな…。
「すでに引き返せない場所まで来ていることは、君も分かっているはずです。君は…分別の無い子供では、ない」
「君の精神を支配するような案も実は出ていた。君が正気を失っていた場合、その案が採用されていた可能性は高い」
だからこそ、選択を。
リアムさんの真剣な表情に、白木さんの憐憫の眼差し。
オレが逃げたがっていることを知っていて、それでも巻き込むことを是と考えている。
ふぐふぐ、とオレの腹に鼻の頭を押し付けて遊んでいる幼女を見下ろす。角がなんかごりごりする…。
綺麗なオレンジからピンクのグラデーションのかかった長い髪。初見では気付かなかったが、どうやら光の加減でそうなるらしい。
白い肌は大福みたいなもちもちすべすべ加減だ。打ち粉でもはたいてんじゃねぇのか。
錬金生物なんて大層な名前をしていたが、生物だからこそ感情があるんだと思う。
だから、
「お前はどうしたい?」
オレは幼女に話を振る。
逃げ道が欲しかった。重大な選択を前に、責任がオレだけに降りかからないよう。
「んー?」
会話は成立しないが、言葉が通じるのはわかっている。
顔を上げて首を傾げる幼女は、やや考える素振を見せ、
「……ん」
自信満々に、深く頷かれた。
「だよなぁ。オレに従うって言うよなぁ」
思わず吹き出して、再度幼女の頭を撫でる。
そうしてから、固唾を飲んでオレたちを見守る二人に顔を向けて。
オレが出した答えは。
当然ながら彼の出した答えは皆さまの予測通りなわけですが、はい。
次回最終話です。最後までお付き合いいただければ幸いです。




