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6

 今度こそ精神が壊れてもおかしくないんじゃないか。

そうだそうだそうしよう。


ぽん。


全て放棄しようとしたオレを宥めるように、背中がかるく叩かれる。

相変わらず、その感触は優しい。

……ひょっとして、実は味方がもう一人いたんだろうか。

これだけリアムさんと白木さんが酷いことになっているのに、オレだけ無事なのは、つまり、誰かが助けてくれたからに違いない。

そしてそれが、きっとこの手の主。

そうか。


「…はは」


そっと、オレは、後ろを振り向いた。

乾いた笑いがオレの口から洩れる。


幼女がいる。


10歳は間違いなく越えてないだろう幼女がいる。

オレンジっぽい髪をツインテールにした幼女。

この歳で髪の毛が床につくくらい伸びてるんだけど、生まれてすぐから伸ばしつづければここまで伸びるもんなの?

ところで、額に2本角が生えてるんだけどなんかのコスプレ?


っていうかコレがもしかして味方?

すごいな国連。人材が豊富。

この歳で国連勤務か、ならオレが特別戦闘員なんかに選ばれても仕方ないな。


「ッ逃げろ、小宇坂君…!」


呆けたように幼女と見詰め合っていたオレは、その声で文字通り飛び上がった。


「り、りあむさ」


腕どうしたんですか。


白木さんは腹が無いんだが、リアムさんは両腕がない。


「逃げろっ!」


立ち上がれないんだ、と気付いた。

人間、腕の力を使わずに起き上がるってのは案外難しいらしく、何度も何度も血の染み込んだ絨毯に顔を擦り付け、リアムさんがもがいている。

ところで、逃げろって何から?


「そいつから早く離れるんだ、小宇坂君!!」


そいつ。


幼女を見下ろす。

オレと目が合って、今度は幼女が満面の笑みを浮かべる。

さっきは幼女のインパクトがデカ過ぎて気付かなかったが、この子可愛いわ。


あー…ところでさっきから目を逸らし続けていた現実と向かい合うべきかな。

向き合ったらオレ、今度こそパンクする自信があるんだけどさ。


「…お前、小瓶の中身なの?」


わかってもらえてうれしい。

明らかにそんな顔をして、幼女がオレに抱き着いてきた。

ぎゅっと腰あたりに腕を回して。

抱き着いたままオレを見上げ、また満面の笑み。


可愛いなー。

そうか、これが世界最強の錬金生物かー。

うん…実は最初っから全裸だったもんなー。味方の確率低いわー。

なるほど、手も触れずに白木さんの腹に穴を開けたり、刃物もないのにリアムさんの腕をすっぱり切り落としたり、確かに納得の戦闘力ですわー。


よおし。

ここで正気を失うのはとっても簡単なんだけど、ちょっと待てよ小宇坂少年。

こいつと一緒にいるとオレは多分、次にやってくるだろう国連戦力にもろともぶっ殺されると思うんだよね。

っていうかむしろ、もっと酷い事態になると思うんだよね。

理解不能の力を持ってるだろ?少なくとも、オレはこんなことを魔術で再現しようなんて途方もない労力の必要なこと、できないし知らない。

ってーことは、この騒ぎを聞きつけてやってきた人たちも白木さんリアムさんの二の舞になる気がするんだよ。

頭良いねオレ!


「なあお前、オレが主だって思ってるの?」


「ん!」


「おお。喋れるの?」


「んー?」


「んー、か。あんまりおしゃべりは得意じゃない感じか」


「ん!」


「そっかそっか。ところで、お前、あの人たち治せる?」


「……」


「あー…そうだな、お前攻撃されたんだもんな。けどな、あの人たちはオレの…えーと…友達なんだよ」


「…んー…?」


「えーと…大事な人?」


「ん…ん!」


ちょっと迷うそぶりを見せた幼女は、けれど頷いて、


「! こっちへ来るなっ」


血の海に沈んでいる二人へ、とてててて、と走り寄る。

多分腕が…指がないから魔法陣を描けないらしいリアムさんが警戒を顕わにしているが、やはり動けない。

ちらっと幼女がオレを振り返るから、ゴーサインを出してやると、幼女がリアムさんの肩に触れた。


「!!」


覚悟した表情で目を閉じたリアムさんの、腕が、生えた。

違うな。空間から…現れた?感じだ。

呆然と座り込んで、自分の新しい腕を見つめているリアムさんには構わず、幼女は白木さんの方へ近寄る。

それを止めようとして、しかし寸でのところでそれをやめたリアムさんは凄まじい精神力を持っていると思った。


そうして幼女は白木さんの腹を一瞬で修復し、白木さんは…生きてる、のか?

腹は元通りだけど、顔色は悪いままだ。

息をしているのか、オレには確認が出来ない。


とててて、と戻ってきた幼女を受け止めるオレをよそに、リアムさんが白木さんの首に触れて…


「…大丈夫だ。気絶しているだけのようだよ」


そう言ったのを最後に、オレは今度こそ暗闇に意識を投げた。




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