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そして始まる主人公の不憫物語
前略、母上、父上。元気ですか?
今朝ぶりなのにすごく会いたいです。全部夢だったんだぜ!って言ってほしいですが、ええと、オレ、どうしたらいいんでしょう。
「そこの少年」
「ッうわあああああああああ」
ぐんって飛び上がってクルって回ってはーいご対面!
ちなみに「お爺さんの胸像と」、が主語である。
飛び上がったり回ったりしたのもお爺さんの胸像の方である。
派手な動きするから恐ろしく血が飛び散った。恐ろしいほど口からダダ漏れしている。
「私が死ぬまで時間が無い。簡潔に状況説明をさせてもらう。私は国連魔術師部の部長補佐をしている伊狩。ところで君は≪魔攻少女ジーン≫を知っているだろうか」
「はっ!?」
ぶっちゃけ今ほど驚いたことは生涯無かったと断言できる。
なんで胸像になってしまった自らの死を悟っている人間の口から、今期最優秀の呼び声高い深夜アニメの名前が飛び出してくるんだろう。
事実は小説より奇なり!
「知らないのか…」
そしてどうしてそんな時間無いって自分で言ったくせに残念そうな表情してるの。
「し…知ってます…」
辛うじて受け答えできた自分が誇らしい。ホントに。
「知っているのか。ならば話は早いな。≪魔攻少女ジーン≫は希少魔法の使い手だ。そして実際に希少魔法は存在する。君に渡したその小瓶の中には、希少魔法の一つである錬金術の集大成というべき錬成生物が入っている」
希少魔法。
現代魔法は大衆化され、使い手を選ばない、すべて身体記載式半自律魔法が採用されている。
使える種類は各々のスペックに左右はされるが、起動すればあとは発動までが自動で行われる、とても便利なものだ。
さっき目の前のお爺さんが使った詠唱式魔法は、職業を魔術師とした人たちしか使えない、複雑で高度なもの。
しかしそれでも、大学で専攻できる。
しかし希少魔法は違う。
希少魔法、もしくはロストマジック(失われた魔法)。
魔物との戦いが最も活発だったころに体系が作られ、しかし淘汰されていった、使い手の少ない魔法たち。
≪魔攻少女ジーン≫は、ジーンという孤児の女の子が、生まれた時から使うことのできた希少魔法:魔法少女化という華々しい能力を使って悪を蹴散らす物語である。
身体能力向上や固有魔法の発現、さらには≪変身≫という、異空間でバトルスーツに着替える間は無敵になれる、実在したのかは不明だが素晴らしい魅せる能力である魔法少女化。
浪漫だ。
希少魔法というのはマイナーな分野で、それこそ魔攻少女ジーンを見ていないと一般人は知らないし知っていても意味はない、そんな話題である。
かくいうオレも、上記した知識はすべてジーン関連で培われている。
「れん、きん…」
「そうだ。ジーンの友人である刹那が使える」
お爺さんの口から刹那ちゃんの名前が出たことに一瞬ビビる。
この人、なかなかコアだぜ…。
「実際に…」
「あった。20世紀にはすでに完成されていたというが、魔物の襲撃にあい最大の拠点が消失。錬金術は世界に対し負担が大きかったのだろう、魔物に優先的に狙われ潰された。許すまじイーンカーン」
そうか…リアル刹那ちゃんいたのか…。
ちなみに刹那ちゃんは第3話で悪の手先イーンカーンの手にかかって衝撃的に散る。あの散華は世界を絶望させた。
許すまじイーンカーン。
「だが、旧オーストラリアに奇跡的に残っていた研究施設の情報を国連が探知。私は研究結果のサルベージに向かったが、旧オーストラリアは魔物の巣窟だった。結界を破って空間を跳躍する魔物に見つかり、今さっき相打ちしたが、この様だ」
私には時間が無い、と再度お爺さんは言う。
「結界が破られたことはすでに政府に伝わっているだろう。間も無く防衛部隊が派遣されるはずだ。君は、その小瓶を彼らに渡すことなく守り抜いてほしい」
……えっ?
「渡して…」
「ダメだ。末端の防衛部隊の手に渡ったのでは、いつ何時粗雑な扱いをされて中身がぶちまけられるかわからない。君には、それを国連に届けてほしい」
「オレが!?」
「安心すると良い。先程の接触で、私が現時点で施しうる最高の防御術式を君にまとわせた。例え小隊を相手取ろうと、君には傷一つ付かない」
「ど、どうやって国連へ!?」
「この国の防衛部隊より到着が遅れるだろうが、国連の派遣する魔術師部隊も追ってやってくるだろう。私の名前を出し、場合によって私を見せれば一発でわかる」
オレのキャパシティが悲鳴を上げている!
「…時間のようだ。健闘を祈る」
「まっ…待ってくれ、そんなん言われてもオレには無理で…!」
「頼む。同じマジョラーとして」
「!!!」
マジョラー、マジョラー、マジョラー…と三回ほど木霊したその名称。
他ならぬ、他ならぬ魔女っ娘愛を捧げた同志よ。
それまで不気味で異臭すら漂わせていた胸像のお爺さんが、死ぬということを衝撃的に受け止める。
同志が死んでしまう。
同志が今際の際にオレに。
託すと、いうのなら。
「貴方の流した汗も涙も、無駄にはしない。私は必ず、貴方の命に報いる!」
小鹿のように震える両足すら動かして、オレはお爺さんに駆け寄った。
握り締める両手が無いのが悔しい。
それでも、必死に脳裏をよぎった最高にカッコいいキメ台詞を叫べばお爺さん…いや、イカリ同志は安心したように微笑む。
「同志よ…頼ん、…エターナルB2、B…」
最期に第14話で発動したジーンの必殺技を呟き、同志は散って逝った。