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残酷描写を含みます

 文化部の活動は多岐にわたる。言い過ぎた。そこまで多岐じゃない。

もっぱらは趣味の話をしているか、漫画を描いたり小説を書いたりイラストを描いたりとか。

少なくともうちの高校の文化部はそんなもんだ。

ちなみにオレは小説を嗜んでいる。

絵は…察してほしい。美術の成績は3だ。現代文・古文・漢文方面は5なので許してくれ。


今は別に新刊を出すとか文化祭が近いとか文芸大賞が!などという時期ではないので、今日はもっぱら深夜アニメの話に従事している。

今期の深夜枠は豊作で嬉しい限りだ。

女子部員ともお話が出来て、オレ楽しい。なんていうか、異性との話って妙に心が高鳴るよな。

…童貞ですけど、何か…?


「変身シーンを使いまわさない心意気がすごいと思うんだけど」


「それ思う。っていうか、年々質が上がってるのは嬉しいんだけど心アニの人たちは死なないの?」


「きっとすでに数回死んでるんじゃないかと思う」


「あー。反魂しちゃってる的な」


「使えそう!心アニの人たち使えそう!」


こんな感じでオレの部活動は終始する。

趣味の話が出来る仲間がいて、オレは、オレは青春を謳歌している!


などと話していたらすぐに帰宅時間がやってくるものだ。早すぎる。

名残惜しいながら、部でただ一人チャリンコ通学なオレは駐輪場へ行くために皆と別れる。

ちなみに、皆は親さんの送り迎えだ。

魔物は出ないとわかっているものの、やっぱり夕暮れの街はどこか闇がある。生まれてこの方会ったことが無いが、魔物は闇に乗じて人間を食いにくるとか。


一人になったせいか、赤い夕陽のせいか、妙に寂しい気がしてオレは自転車を漕ぐ速度を上げた。

丘の上に立つ校舎だから、帰り道は下り坂が多い。

慣性に従って、灯りの付き始めた住宅街を走り抜ける。

コンビニとスーパーが隣立ってる、互いの利便性を理解しているんだろうかっていう立地の前を通り過ぎ、あと10分もすれば家が見えてくる場所の橋を渡り、河原沿いの歩道を進む。

ところで、オレは車輪が回る影が妙に好きなんだが、あんまり理解を得られたことが無い。


どうせ回りにだれもいないからと、舗装された地面に伸びる車輪の影に目を落としていたのが悪かったのか。


オレの長く伸びた影に、急に大きな…うっそ人型?の影が合体した。

背中に衝撃。


「…っえ」


辛うじて言えたのはそれだけで、あとは土手をまっさかさまだった。

ただ身一つで落ちるならまだしも、自転車を巻き込んで+背中に当たった物体と仲良しこよしだ。

どうしたって痛いわ。


「~~~~い……ってぇええええ!!!」


どこが痛いってわからないレベルで痛い。折れた。どこか折れた、絶対折れた。

とにかく声出してないと気が紛らわせられないくらい痛い。


「ふざけんなよオイ! 転移術失敗に巻き込まれるとかついてねぇ!」


急に影が出来たってことは、つまり転移術だろう。

知識で知ってるだけだが、魔術検定5段くらいになると使える人間がいるらしい。

が、それだって普通は開けた、誰もいない、安全な場所を探知して初めて術が発動するように組まれている。

今回みたいに空中に出てくるなんて、失敗も失敗、よくテレビのバラエティで九死に一生!とか言われている状況だ。


と、そこまで思考してやっと落ち着いてきた。痛みも、なんとか自己治癒術式が働いてマシになってきている。


「……で…あー、えーと、大丈夫ですか…?」


自転車といっしょに地面に転がっているその人、さっきから一言も話さないどころか動きもしないんだが、ホント大丈夫か。

気絶か?


っていうか、臭い。

ごめん。初対面にごめん。

でも臭い。なんか、あー…運動部の練習試合が終わった後のロッカーみたいな匂いがする。訂正する、それよりだいぶ臭い。


自転車本体に引っかかってうつ伏せになってるから顔は見えないが、魔術師の正装であるローブを着ている、どうやらお爺さんらしい。

髪の毛が真っ白だ。ふさふさか。羨ましいな。


「すみませーん…?」


あんまり触りたくなかったが、自転車と分離しなければなるまい。

そっと肩辺りに触った、と思ったらいきなりおじいさんの体が跳ねる。


「うおおお!?」


明らかに人間の動きじゃないしオレは手を掴まれているし!?

ハヤワザ!


「これを持って速やかに身を隠せ」


掴まれた手が離れる。

いつの間にオレはガラスの小瓶なんて素敵おしゃれアイテムを手に入れているんだ。

気が動転して声が出ない。

なんでオレは言われた通り橋の下の背の高い草むらにダイブしてんだ。

息を潜めて身を潜めて、何をしているんだ。


ジジッ、とスピーカーで増幅されたようなノイズを聞いた。


オレの自転車に乗り上げていたお爺さんが、ゆっくり身を起こす。

背が高いな、と思った。オレはまだ165くらいしかないが、あれだと180くらいあるんじゃないだろうか。

こっちが風下らしく、お爺さんからする異臭が草の匂いに混じって漂ってくる。何の匂いだコレ。


「防御術式・自動攻勢・いつ何時も何人たりとも」


詠唱か。すごい。初めて聞いた。

なんて思った瞬間だった。

空間は裂けるんだな、って初めて知った。

お爺さんの着ているローブがひしゃげる。


「攻撃・自動追尾・魔物」


お爺さんの両足が無くなった。と思ったら胴体が喰われる。

黒い、真っ黒い、4足の獣に。

あ、そうか血か。この匂い、血か。運動部の人ごめん。


そこまでだった。


ばしゃん、と水音が、水面でもない位置で聞こえた。

お爺さんの目の前だった。大きく広がった真っ黒な液体が、河原の石の間を縫って、川に流れ込む。

重油か何かみたいに、流れの緩やかな川面に決して混じることなく浮かんでいるそれ。

元はお爺さんを食った黒い獣だったんだろう、と自然と理解する。


それを目で追っていたら、お爺さんの体が(1/2くらいしかないけど)、糸でも切れたみたいに崩れる。

オレは動けない。

状況を整理することができない。

今のは、なんだったんだ?





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