プロローグ
特別な力を持たない少年が選ばれて、自分は強くないのに巻き込まれて、死にそうな目にあいつつ自分で選択していくお話です(訳:主人公可哀そう)
現代社会に生きる者の共通認識は、世界から魔物は消えてはならない、である。
一昔前には人間社会と魔物は度々互いの存在を掛けた大戦を繰り返したりなんかしていたそうだが、それも今じゃ物語。
今の世は住み分けがほぼ終わり、人間は人間の、魔物は魔物の世界で生活している。…いや、語弊があるか。
両者のそりが合わないというか、お互いが不倶戴天の天敵同士というのはもう仕方のないことであるが、魔物がいなくなると世界が崩れる、というのが最新の研究結果でわかったのだ。
まあ待て。意味が分からない?道理だ。
順を追って話そう。
ところで最近じゃ術式のレベルも向上し、擬似世界を作り出すことも不可能ではない。
擬似世界、つまり一世界を模倣して、同様ながら今世界と別の理が働く空間をつくること。
その世界は、どれだけ緻密に構成しても、魔物が一体でも存在しないと成り立たないことが分かったそうだ。
おわかりいただけるだろうか。
魔物は、世界を構成する上で必須。
つまりそういうことだ。
ちなみに人間は不要。
人間がどれだけやつらを目の敵にして根絶やしにしようとしても成し遂げられなかった魔物殲滅。
それは必然で、むしろ世界にとっていらないものは人間だった、ということだ。
もっと研究が進んだ今、極秘ではあるが、魔物の存在は「=人間という害悪を滅ぼす存在」などという結論も出始めている。
これに困ったのは人間側だ。
世界に生きる1億人強の人間が、即座に死ねと言われて死ねるわけがない。
世界という大きな枠組みに、どれだけ邪魔とされようと、生きている以上は生きたい。
ではどうするか。
結果、魔物を完全に排除した都市を、国を、地域を作り、そこに世界にお目こぼしいただいて人間が住み着いている現在に至る。
ただ、魔物は際限なく増えて人間を捕食しようとする生物である。
人間さえいなければ適度に周囲環境と共存していけるのに、人間を見つけるとバーサク状態にでもなったかのように荒れ狂って襲ってくるのだ。まさに天敵。
当然、人間の住む地域との境界では魔物との小競り合いという表現すら生ぬるい殺戮が日々繰り広げられている。
とはいえ、結界術の進化により、そういった大惨事も少なくはなってきているそうではあるが。
それでもやはり魔物は虎視眈々と人間を狙っていて、魔物という脅威はなくなるはずもない。
そこでオレこと勇者様の出番である。
ところでオレは、何を隠そう16歳の高校一年生、魔術も戦闘術もそれなりだったから若干よかった勉学の方の道に進んで、将来を公務員で安定した生活が出来たらいいな、という淡い将来設計をしている凡人だ。
朝は7時ころ起きてなんとかHRに間に合い、先生からのご指名に戦々恐々し、弁当の中身に一喜一憂し、文化部の活動に従事し、そして18時ころ帰宅、母の手料理を食い、父の晩酌にちょっと付き合う、PCをいじる、寝る。そんな生活の一般人だ。
だった。
そんな男子高校生は、上記したような世界の事情にそこまで詳しくはない。
せいぜいが、世界史やらで習った魔物の必要性と人間世界の変遷を知っている程度。
人間がこの世界に必要とされていなくて、むしろ魔物の方が重要。そんな事実は知らない。知らされない、立場だ。
では、なぜ知っているのか。
それはオレが、実はすさまじい能力を隠し持っていた勇者様だったから…では、ない。
とても残念ながら、オレは弱い。魔術もなんとか検定で2級を取ったくらいだし、センスがないから戦闘術は基礎格闘しかしていない。
そんなわけで、オレは弱い。オレは弱いが、オレが拾った…拾わされた小瓶の中身がすさまじかった。
そうだな。
その辺の説明から始めても良いかもしれない。
オレが、このある意味世紀末で勇者様をやる羽目になった話を。
もし感想等いただけますと、私、泣いて叫んで適当な方向を拝み倒しますハイ。
誤字脱字のご報告ももちろんお待ちしております。