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王女の恋煩い  作者: 岸野果絵
クーラヴェルハイム邸
9/10

反抗

「カイナス。そなたは自分のしでかしたことがわかっていますか?」

 リーラレイアはカイナスが入室するなり、怒気を含んだ静かな声で尋ねた。

カイナスは不思議そうにきょとんと首を傾げた。


「そなたは国王陛下の顔に泥を塗ったのです」

 リーラレイアは薄目でカイナスを睨みつけた。


「母上。お言葉ですが、ララウェルを娶るようにおっしゃったのは陛下です」

 カイナスの返答に、リーラレイアはカッと目を見開いた。

その迫力にカイナスは目を丸くし、軽く身体をひく。


「そなたは王女を拐かした大罪者です。王女との縁談は内々のこと。公表すらされていません。他の者から見れば、そなたは国王の手元から王女を盗み出したのです。それも、病に伏せっている王女を」

 リーラレイアはカイナスを見据えながら、声を荒げずに淡々と話す。

その静かさが、かえってリーラレイアの怒りの大きさをあらわしていた。


「陛下の面目は丸潰れです」

 カイナスはハッとしたように視線を落とした。


「そなたの行状は、わたくしだけならいざ知らず、王太后様の立場も危うくしたのですよ」

 リーラレイアは相変わらず、低い静かな声で言い聞かせる。


「シルヴェス王が寛大なお方でなかったら、今頃どうなっていたことやら」

 カイナスは身じろぎもせず、じっとリーラレイアの言葉を聞いていた。


「 いい年をして、そのようなことにも気が回らないとは……」

 リーラレイアは大きなため息をついた。


「なさけない」

 そう吐き捨てたリーラレイアの声をカイナスはうつむいたまま、身じろぎもせずに聞いていた。


 気まずい沈黙がつづいた。


 ボッズが仕方なく助け船を出そうとしたときだ。

カイナスがゆっくりと顔をあげた。


「母上。私の心得違いにより、このような事態を招いてしまったことはお詫びいたします」

 口では詫びの言葉を述べてはいたが、その声は無機質で、まったく心がこもっていなかった。

リーラレイアの片眉がピクリとあがる。


「ですが、ララウェルを王宮に連れ戻すことだけは、どうかご容赦下さい」

 口を開こうとしたリーラレイアを遮るようにカイナスは続ける。


「衰弱したララウェルに、これ以上無理をさせる訳には参りません。それに、私はララウェルを手離すつもりはありません」

 カイナスは強い声で言い切ると、絶句しているリーラレイアに静かに一礼をし、くるりと向きを変えると出口へと向かった。


「カイナ……」

 呼び止めようとするリーラレイアの声をかき消すかのように、扉がバタンと閉まる大きな音が響いた。


 ボッズは一連のやり取りを、驚きながら眺めていた。

カイナスがリーラレイアに逆らう姿を、はじめて目の当たりにしたからだ。


 反抗期。

ボッズの頭に、ふと、そんな単語が浮かんだ。

カイナスは幼いころに父を殺害され、逃亡生活を余儀なくされた。

そのうえ青春を内乱の混乱の中で過ごすという、過酷な運命に翻弄されてきたのだ。

普通の若者のように、のん気に反抗などしている暇などなかった。

今、国内は落ち着き、カイナス自身も新しい生活に慣れてきたというところだ。

カイナスは遅い反抗期を、やっと迎えたのかもしれない。


 ボッズは戸惑っているリーラレイアに目礼するとカイナスの後を追った。

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