違和感
カイナスは部屋を出たところで立ち止まった。
シルヴェス王の話によると、ララウェルはここの所ほとんど食事を摂っていないらしい。
もし、数日間ほぼ絶食状態が続いていたとしたら、いくら粥とはいえ、あのようにあっという間に平らげることができるものなのだろうか。
空腹を感じ、目では食べたいと感じていても、思ったほど食は進まないものだ。
しばらく休憩していた胃腸が一気にフル稼働するとは考えられない。
ララウェルは無理をしていたのではあるまいか。
カイナスは振り返り、ララウェルの病室の扉を静かに開けた。
ベッドに目をやると、こちらに背を向け、侍女にもたれかかるような姿勢のララウェルがいた。
「姫」
すぐに傍に駆け寄ると、案の定、ララウェルは身体を大きく揺らしながら、嘔吐していた。
カイナスに気が付いたララウェルは、ハッしたように顔を上げようとしたが「ゲホゲホ」と咳き込んだ。
「姫。やはり、ご無理をなさっていたのですね」
カイナスは、苦しそうに首を横に振るララウェルの背を優しくさすってやる。
しばらくララウェルはうつむき、身を揺らしていた。
「お許しくださいませ。明日には食事を……」
吐気が治まり落ち着いたララウェルは、目尻に涙を浮かべながら謝る。
そのいじましい様子に、カイナスはフッと微笑むと、突然ララウェルを抱き上げた。
「ク、クーラヴェルハイム公?」
侍女が驚きの声を上げた。
「姫を我が屋敷へお連れします。国王陛下からの許可は頂いております」
カイナスはポカンとしているララウェルを抱き上げたまま、病室を後にした。