マナーを考えよう
「今日は『電車の中で』という話を読んでいきたいと思います」
先生がそう言って、私たちは道徳の本の118ページを開いた。そこには可愛いイラストとともに小さめの字でなにやら細かく書かれているようだ。マナーの話らしい。
割り込みやハンドバッグを投げて席を確保する女性、そして匂いのする食べ物を口にするサラリーマン。
なんてひどいんだろうと思いつつも、もしかしたら気づかぬうちに私もひどいことをしていたのかもしれないと考える。もし、私も誰かの迷惑になっていたとしたら、考え直さないといけない。だって、自分がされて嫌なことは人にはするなってよく言うもんね。まあ、自分は嫌じゃなくても他の人が嫌だと思うことだってあるだろうけど、最低限、自分が嫌だと思うことはやめたほうがいい。
「こういうの、聞いたことある?」
後ろから肩をつついてきたのは、左斜め後ろに座っていた雛だった。
「うーん、あんまりないかも」
そう言って私が苦笑いすると、そっかあ、と雛は残念そうにしてまた教科書に向き直った。
それにしても、本当にマナーの悪い人っているよね。私も人のことを言えるほどいいことをしたわけでもないけど、さすがにひどいって思うこともたくさんある。
まあ、合宿にお菓子持って行ってめちゃくちゃ怒られて学年の前で謝ったことはあったけど、それはそれだ。まあ結構最近のことだけど、ちょっともう忘れたい黒歴史になりつつある。
でもきっと10年後の私はそんなこと忘れるほど多忙な日々を過ごしているかもしれないし、覚えていても「そんなことあったよね~」「あたしもしてたわww」みたいな笑い事で終わりそうな気がする。
つまり中学生でやったおとなんて軽く押さえつけられるというわけで。もちろん忘れるからいいやってわけでもないんだけど、別に、ねえ? 謝ったしね。まあ謝ったら許されるというわけでもないんですが。
いじめとか殺人とか万引きしてるような人と比べたらまだましじゃないかな? どちらかというと迷惑をかけているって感じではないしね。で、でも悪いことをしたっていうことは分かってるんだよ?
「じゃあ今から20分でそのワークシートを埋めて下さい」
え? ワークシート? そんなの配られてないんだけど……って、前の男子がずっと手を後ろにしたまま持って、おそらく私に差し出していた。
「ご、ごめん」
「お前、ちゃんと前見とけよ」
怒られた。ごめんなさい。私も悪意があったわけじゃなくて、ただちょっと自分の世界に入っていたというか、なんというか……。
ワークシートには[1.どんなマナーがあるか][2.マナーを守らない人についてどう思うか][3.マナーを守らないことでどんなことが起きるか][4.『電車の中で』を読んで感じたことを書きなさい]という4つの項目があった。うわっ、書く場所多いなあ。こんなに書けるかな。
1は、バスや電車の中で通話をしない、とかいろいろあるよね。私は思いつくものをぼんぼん書き入れていく。2はやっぱりダメだとは思うかな。できれば守って欲しいよね。3はやっぱりイライラする人が増えたりトラブルの原因になるかなぁ。4は、文章読んでからだね。うーん、感じたことかあ。やっぱり、マナーを守ることは大切だなあってことが一番かな。それから、迷惑にならないか考えてから行動するとかが大切、みたいな感じでいいか。
まだ10分残ってる。お絵かきでもしとこ。
マナーは、守ろう。