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お見舞い

 全属性使えるけど、その月の色以外は代償ありか。その月の色以外の属性を使った事がないから分からんが、もしかすると他の魔法を使ったら魔法の感じがつかめるかもしれない。代償があるって事は、魔法の感じが掴めるって事かもしれないからな。

 試しに、コップに水を満たしてみようかな。それくらいなら、代償も少ないし。


「気付いていなさそうだから、注意しておくが……」


 私が唸っていると、おじい様が真剣な顔色でそう切り出すので、ビクリと震える。え、なになに?私なにかやらかした?まだ魔法使ってないよ、たぶん。魔法試すとしたらおじい様の前でだけだよ。


「どうやら、奇跡を使っていると瞳の色が変わるようだね」

「えっ!?」


 瞳の色が変わるって何その厨二設定?そんな属性いらないですよ?


「ああ……安心するといい。今は黒に戻っている。小さな魔法だと分かり難かったために今まで気付かなかった。ないとは思うが……やはり魔法の使用は控えた方がいいな」

「はぁ……そうですね。どうしてもという状況ではないとやらないです」


 魔法なんて使わなければないも同然である。そんな時がこないように祈るしかないが、手札として持っておくのは良い。

 そもそも、何故そんな特典があるのか良く分かっていない。面倒な事この上ない。

 おじい様も、私が不用意な事をしないと分かっているから教えてくれたんだろうが。なんというか、自由に使えない魔法って不便だよね。いや、使えないよりは全然いいのだけども。

 それにしても、見た目で判断できるような材料があると言うのは、ちょっと危ないかも。サングラスがあればいいんだけど……眼鏡があるから、存在してそうだけど。

 使うとしたら、目には気を付けないといけないかな。


「これでこの話は終いにするとして、だ……セスの見舞いに行ってやってくれんか?」

「見舞い……ですか」


 そう言えば風邪を引いてたんだっけ。おかげでおじい様と存分に話す事が出来て嬉しい訳だが。何故にセスの見舞いなぞ行かねばならないのか。なんか良く分からない病原体とかあったらやだし。


「ああ、随分とリエ殿を気にかけていたのでな」

「私を?……なんででしょう」


「まぁ、行けばわかるよ。念の為に寝ているだけで、もう良くなっているはずだから安心すると良い」

「はぁ……お、おじい様がおっしゃるなら否やとは言いませんが……いや、まぁ……とりあえず、行って参りますね」


「ああ、よろしく頼むよ」


 と言う事はおじい様との楽しい講義はこれでおしまいって事だ。悲しきかな。おじい様に頼まれたなら快く引き受けるしか選択肢がないぜ。おじい様が提案した事なら大抵大丈夫だろうし、行くしかないか。

 おじい様って呼ぶ時にちょっと不自然につっかえたけど、微笑ましそうに笑われた。いやあ、なんだかドキドキしちゃうよね。


「おっと……ヴァレールは私と話をしようか」


 私のあとをついて来ようとした騎士をおじい様が引きとめる。有無を言わせない圧力に思わずと言った形で騎士が頷いた。

 なんだろう……奇跡師についての注意点とか、そういうのを聞かせたりするのだろうか。それだったら私も参加したいけれど……まぁ私が引きとめられなかったという事は違う話だろう。

 おじい様と会話出来て羨ましいなーと思いつつ、その場を後にする。

 エリカの部屋、牢獄部屋、大広間、客間……この4部屋くらいなら行き慣れているが、他の部屋には入った事がないので少々そわそわしてしまう。1度だけエルリックの書斎に入った事があるが、あの時以来入ったためしがない。

 さて、見舞いと言っても何をするか……こちらの世界でもフルーツや花束を持っていくのが主流だったはず。が、人の好みによって持っていくものが変わるのはこちらの世界でも変わらない。が、私にはセスが何を好むか全く分からないわけで。しまった、おじい様に何を持っていけば良いか聞けば良かったか……。引き返してみるか、と思いくるりと方向転換すると、庭師と目が合った。


「お嬢様ではないですか」

「こんにちは」


 軽く挨拶をし、目線を下げると、庭師の手には花束があった。


「どこに行かれるのですか」

「ええ、セス様のお見舞いと思っていたのですが、手土産が分からないのでグリーヴ様にお聞きしに行こうと思っていたのです」


「ああ、ならば丁度良かった。宜しければこの花束をお持ち下さい。セス様の部屋に飾ろうと思っていたのです。男から送られるよりも、綺麗な女性から送られる方が余程嬉しいでしょう」

「うっ……あ、そ、そうですか」


 綺麗な女性扱いされて狼狽える。さらっとそう言う事いうんだよねぇ、貴族って。でもルークとのやりとりで、完全に社交辞令だと気づいたのだ。いやしかし、この庭師のように麗しい男性に言われると、社交辞令でもくるものがあるね。くやしい。

 しかし、花束か……残るモノでもないし、丁度良いんじゃないかな。これでいいかな……飾るつもりだったみたいだし。

 手渡された花の良い匂いがする。


「じゃあ有難く送らせて貰います。シャロン様、ありがとうございます」

「いいえ……ふ」


「……どうかしました?」


 僅かに笑われたようだったので、どうしたのかと思って聞き返す。何か粗相でもしたのか。あれ、男から送られた花束を別の男に送るのはダメなのか……?いや、でも彼は庭師だし。それに、セスも気にしないだろうし。好んでいる相手に送るわけでもなし。


「いえ、花が映えて貴方の可憐さが増したな……と思いまして」

「…………ありがとうございます」


 いやぁ、貴族って恐ろしいね。こんな会話が普通に繰り広げられるんだもんな。今から十分に耐性を付けておかないといけないね。そう考えると、婚約者の不必要な接触は、慣れるのに丁度良かったのかもしれない。

 これ以上色男と会話するのは危険だと判断し、そうそうに話を切りあげてセスの部屋へと向かう。

 セスの部屋……と言っても、客用の宿泊部屋なんだけどね。入り浸っているから、ほぼセスの部屋も同然だ。セスの両親の方はどう思っているのやら。ああ、おじい様がいるから大丈夫だとでも思っているのかな。その通りだとは思う、うん。

 セスの扉をノックして、入れという返事があったので、入らせて貰う。すると、物凄く驚いた顔をされた。


「なっ……なん、な、んで」

「体調を崩されていたと聞いたので、見舞いです」


 おじい様の命令だ。快く受け取ると良い……という心の声は隠しておく。顔を真っ赤にして、布団で体を隠す姿は、むしろ女性っぽい反応で微妙な心地になる。なんかいけない事をしているみたいだよ。

 んー……でもあれだな。婚約者もいるような女が、部屋着の男性の部屋を訪れるのは良くないな。誰か付き添わせるべきだったか。まぁいいか。友達だからダイジョブだよ。襲う気もないし。向こうもそんな気ないだろう。……あんまり親しい友達でもナイとか思ってナイよ!!


「見舞……!?ルカかと思っ……ちょ、あんま、こっち見るな……」

「はぁ……大変失礼したようで」


 とりあえず、背を向けておくか。あまりに恥ずかしいようだし。扉の付近に丁度良い感じの机を見つけたので、そこに花束置いて出ていくか。


「じゃあ、ここに花束置いておくんで。これで失礼しま」

「待っ……!も、もう行くのか?」


 なんか凄く引きとめられている気がする。縋る様な声で言われたよ。

 そう言えば、おじい様が気にしている、とか言ってましたっけ。行けば分かると言っていたけれど……話があるのかな。


「ちょ……まて、すぐ上に何か羽織るから。もうちょっと待て……」

「承知」


 後ろでバタバタと慌ただしく何かやっている。

 ……はっ!ここはもっと女性らしく部屋の前で待った方が良かったんじゃ?いや、もう手遅れだけど。下手に動くと見ちゃいそうだし、目でも閉じておくか。セスも出て行けとまでは思ってないみたいだし、いいか。全裸じゃあるまいし、そこまで恥ずかしがる意味が分からないけども。貴族男子として譲れない何かがあるのかな。


「も、もういいぞ」

「はい」


 言われて、ようやく目を開けて振り返る。ボサボサだった髪が整えられて、上着を羽織っている。もう病人スタイルではなく、普通に会話するスタイルになっているんだが。普通に椅子に座ってるけど……大丈夫なのか?


「……寝てなくていいの?」

「もう治っているし、いい……それより、座れ」


 指示された椅子に座る。動く度に、花の良い香りがして良い感じである。ずっと花束を抱えていたい気分になりますね。しかも、花のチョイスが素晴らしいのなんのって。流石庭師がチョイスしただけある。カスミ草はこっちの世界でなんて呼ぶんだろうな。

 とりあえず、この花束を渡しておくか。


「こちらをどうぞ」

「ああ、有難う……綺麗だ」


 おお。こんな風に笑う事も出来るのか。いつも微妙に怒鳴ってくるから、イメージと違う微笑にビックリしたよ。驚いてじっと見ていると、顔を赤くして目を逸らされる。あー、あんま見ないようにしないとな。淑女らしく。


「けほん!えーと、その。見舞い……有難う」

「いえ、お気になさらず」


 むしろお礼ならおじい様とシャロン様に言っちゃって。提案したのはおじい様だし、花束はシャロン様だし。私は流されただけのようなものだからね!勘違いしないでよね!……ツンデレっぽい。

 セスは目線を私の胸元に向けてきた。なんだろう、乳を眺めるとは無粋ですね。


「それ……何?」

「ああ……さっきおじい様から頂いたんです」


 なるほど、さっき貰った測定器の方を見ていたのか。無粋とか思ってすまぬ。私みたいな女の乳など見ないよね、ごめんね。驕ってたわ。


「じいちゃんに……?あんた本当にじいちゃん好きだよな」

「ええ、まぁ」


 へへ、照れますぜ。ネックレス貰っちゃったし!まぁ、実用性のあるものだけどもね。しかもなんか奇跡師らしき人物から貰った貴重な物質だから、妙に肩が凝りそう。物理的には軽いけど、精神的に重いよね。

 風属性測定器ってのは、普通にありそうな感じで言ってたけれど。大気の魔法を使っているか測定する方は特殊……って表現してたから、物理的にも貴重なのかもしれない。

 ……いやこのネックレスについては深く考えない方が良い。胃が痛くなりそうだから。


「ちょっと見せてもらってもいいか?」

「ええ、どうぞ」


 そう言ってからネックレスを外そうと思ったのだが、その前にセスの手がこちらに伸びて来て、手に取る。

 おおう……首にかけたまま見るのかいっ!?私はちょっとびっくりしたよ……いや、セスが気にしないならいいけども。

 まじまじとネックレスを眺めているセスをまじまじと眺めてみる。んー……やっぱ目元がおじい様に似てるね。さっき笑った時思ったけど、おじい様のように微笑むと、確かに似ている。思わずどきっとしちゃったよ……私どんだけおじい様好きなんだよ。

 若かりし頃のおじい様もこんな感じだったのかな。どうせならセスの方が婚約者の方が良かったな。セスと結婚すると漏れなくおじい様がついてくる!そんな特典があったら迷わず食いつく自信がある。

 にしても、まつ毛なげぇな……つけまつげでもやってんのかって思うわ。


「風属性測定器に、似てる?」

「ええ、そのように言ってましたよ」


「なんでまた?お前無属性だろ?」

「さあ?私に聞かれましても。グリーヴ様に直接聞いたらいいんじゃない?」


 ああ……無属性の人間がこれ持ってても不自然だよね。普段は服の下にでも隠しておこうかな。おじい様と騎士以外は魔法使える事知らないみたいだし、言えないよな。知っている人物が多いほど、情報が漏れる危険性が増すから。


「聞いたら、って……知らずに貰ったのか、よ」


 あきれ顔のセスが顔を上げて、私と目が合う。その瞬間、顔が真っ赤に茹で上がった。


「す、すまっないっ!その、配慮が足りなかった!!……わぷっ!」


 後ろも見ずに後ずさったものだから、ベッドに足を引っかけてベッドにダイブした。まぁ、ベッドなので怪我もないだろう。

 顔を近づけただけでこの反応……女性への免疫がなさすぎでしょう。ハニートラップには気を付けるんだよ?まったく、心配だよ私は。


「大丈夫?」


 大して心配してないが、礼儀として聞いてみる。案の定、大丈夫と言う返事を頂く。まぁ、ベッドにダイブして何かあるとか虚弱すぎるだろうしな。

 のっそり起き上がって、ベッドに腰掛けたまま口を開く。


「その……さ。本名……とかって聞いても、いいか?」

「は?」


「あいや!言いふらすつもりはないんだけどさ!ほら、あのー、知らないってのは、なんか不便だろ?こういう時にさ、お前って呼ぶのも、なんかアレだし、さ」

「エリカって呼べばいいんじゃないっすか?」


「え!?で、でも、そんな……それであんたはいいのか?」


 良いわけなかろう。むしろとっても不愉快極まりないぞ。

 けれど、私はセスを信用してない。なんかの折にぽろっと零しちゃいそうな君が怖いのである。悪気がないのは分かっているが、零しそうじゃないか。感情的な所があるし。


「良い訳ないよ。あー……グリーヴ様の許可が出たらいいんじゃない?」

「またじいちゃんかっ……!というか、同じ事を、言われたよ」


 グリーヴ様にも私の名前の件を聞いてみたが、断った上私にも聞いてみると良いって言われたらしい。たぶん断られるって言われたけど。

 おじい様もそう思うよな。うんうん、不安だよね。


「そんな頼りないか……これでも頑張っているつもりなんだけど」

「グリーヴ様も頑張りはわかっていると思うよ?」


「分かってる、分かってるけどさ……あんたじいちゃん好き過ぎだろ」

「えへへ……」


「照れてんじゃねぇよ……くそ」


 めっちゃ残念な子を見るようにされたんだが。全く失礼だ。

 そんな会話をしていると、扉がノックされたので、セスが返事をする。返事を貰ってから入って来たのは、下ネタを言うメイドだった。その子は私達を目に入れた瞬間。


「逢引……!」


 と言って外に出て行った。

 無言でセスと目を合わせ……かあっと顔を赤らめたセスは、慌てて立ち上がる。


「誤解だっ……!」


 そう言って走ってメイドを追いかける為に出て行った。

 全力で走っていたが、そんな病み上がりで大丈夫か?あれだけ元気ならもう大丈夫そうだけども。ぶりかえさないようにしろよ?

 とりあえず、セスの部屋でやることもないので、さっさとその部屋を後にした。

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