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婚約者(仮)

 エリカ様の婚約者がやってくる日がやってきた。

 メイドのニーナに身ぐるみを剥がされて、豪華なドレスに身を包んでお出迎えをする。こんなに豪華にしなくてもいいんじゃないだろうか、向こうは偽物だとしっているのだから。


「ダメですよ?何が起きるかわかりませんし、婚約者なんですから、きちんとした恰好でお出迎えしないといけません」


 そういいながら、髪の毛を綺麗に整える。緩くウェーブを付けられて、まるで美容師のような手際だ。

 ニーナ・トュラ・ラクトル。伯爵位とは思えない程だよ、ほんと。ラクトル伯爵の3女で、今は公爵家でメイドをやっている。下の位の貴族が、上の位の貴族の家にメイドなどを出すのは別段珍しくないそうだ。

 そうなると、このメイドの恋は成就する可能性は大いにあり得る。何せあの騎士は男爵位なのだから。

 ちなみに男爵は、栄誉ある平民に送られる貴族位なのだそうだ。あの騎士が平民だった所など到底想像できないが、叶わない恋ではないだろう。平民上がりだが、きちんとした貴族なのだ。平民と婚姻するよりは望みはある。

 そうなると、あの日このメイドに出会った時に騎士が僅かに困惑していたのも頷ける。このメイドの方が貴族の位が高いのだ。だから離してもいいですよ、と言われても失礼な事はできない、と困ったのだろう。

 なるほどねぇ。メイドと騎士の恋か、まぁロマンティックだねぇ。私には無縁のお話だよね。

 準備も整い、部屋をでる。流石にこの牢屋部屋にあげる訳にはいかないだろう。ご令嬢をこんな部屋に押し込んでおくのなんて普通はありえないんだけどね。

 廊下には騎士がいつもの通りに無音でそこに佇んでいる。そこを素通りし、客間に向かう。

 客間の前には執事のルカがスタンバイしていた。


「……お待ちしておりました、お嬢様」


 物凄く微妙な表情でお出迎えされた。何故そんな顔をされているか。あれですか、あんまり似合ってないですか、所詮私ですもんね。

 あれっ、だとしたら同じ顔のエリカ様は……察し。あまり触れないでおこうか、うん。

 それはそうと、もう婚約者は来ているのだろうか。


「ルーク様はいらっしゃっているのですか?」

「いいえ、ですがそろそろかと思います」

「そうですか。では、中で待っていてもいいかしら?」

「御随意に」


 ルカが扉を開けてくれ、中に入ると、エルリックもスタンバイしていた。姿勢に気を付けながらその隣の椅子に座る。

 多少マシになってきたが、まだまだ粗の多い動きしかできない。これはもう繰り返しで慣れるしかないだろう。


「参られました」

「どうぞ」


 しばらく待っていると、婚約者が来たらしい。ぎゅっと体に気合を入れて立ち上がる。

 客間に入って来たのは、黄緑色の短い髪の男と、それの護衛らしき男と、執事のような男の3人だ。ああ、そうか。貴族だから普通1人でプラプラできないよな。セスやエリカ様が特殊なだけで、普通は護衛を雇うものだ。

 婚約者は影武者の事を知っているだろうが、他の人は知らないはず。あの2人の前じゃあまり満足に打ち合わせも出来ない。

 そう思っていると、黄緑色の男が他2人を下がらせてくれた。護衛達は不満そうだが、しぶしぶ下がっていく。


「お待たせいたしました。我が愛しの君」


 そう言って、黄緑色の男が私の手を取って甲にキスをした。その瞬間、侍女長が馬鹿と評した事を思い出す。この人、女方面でだらしのない馬鹿じゃなかろうか。

 私は張り付けた笑顔を剥がさずに応対する。


「ええ、心待ちにしておりましたわ、ルーク様」

「ふふ、驚いた。本当みたいだね」


 キラキラした王子顔で笑っている。やたらとキラキラしているので目が眩しい。

 直視しないようにしよう。

 本当みたいだね。は本当に別人のようだ、という意味合いでいいかな。

 それにしてもこの男、髪の毛はどうした。貴族の力の象徴なんじゃないのか?髪が短くて、この男に心底似合う髪型だから、たぶん女子受けは良いだろう。そしてたらし能力が高そうだ、そんな空気がヒシヒシと感じる。私が苦手なタイプだな。


「まっていたぞルーク。お前とんでもない事をやらかしたな」

「おや?なんの事でしょう?」

「あれだけ分かりやすく使ったくせによくもとぼけられるな。そういうとこ、俺は心底尊敬するよ」

「それはどうも」


 なんだか分からないが、エルリックとは仲良い……のだろうか?それにしては笑顔が怖い気がするな。この怖そうな会話になるべく関わらないように、じっとしておこう。

 エルリックが机の上に置かれてある謎の丸っこい物体をツンツンと突く。


「対策はしてあるから、音漏れの心配はない、理由を言え」


 ふむ、あれが魔道具というものなのかな。

 音漏れ防止用の魔道具か。魔法には代償が必要になるから、それを保存して使う魔道具は高級品である、とおじい様が言っていた。

 大切な魔法を売るなんて事は大抵の場合が金に貧窮した貴族か、価値をよく理解していない属性持ちの平民くらいだろう。


「そうかい?じゃあいわせて貰おうかな?」

「ああ」

「可愛い女の子の頼みは断れない性質なんだ、僕」

「ふざけるな!」

「いいや、僕は大まじめだよ?」

「そんな事で……そんな事で命をかけたってのか!?好きでもない女の頼みを聞いたってのか?」

「そうだよ、おかしな事でも言ったかな?」

「おかしいだろう、どう考えても!」


 なんだいなんだい、ついていけないよ、私。なんだか熱く語り合っているが、事前に話を聞いていないので、全然分からない。

 怒っているエルリックに対し、婚約者の方は優雅に構えている。


「それで?犯人は分かった訳だ。どうする、処刑台にでも連れて行く?」

「んな事出来るか!!分かって言っているだろう、お前!」

「生ぬるいねぇ、いっそ、全員処刑でも、僕は構わないんだけど」

「……!お前、まさか……!あの時、病死だと聞いているぞ!」

「本当、にそんなの信じてるんだ?僕には、どうしても信じられなくてね。だって都合が良過ぎる。疑わない方が、どうかしてる」


 全然わからん。

 犯人ってのは、なんの話だ。

 この場に関係するなら、エリカ関連かな。まさか無関係な私にまで聞かせるような話でもないだろうし。

 エリカを外へと逃がした犯人?それが分かったって事で良いのだろうか?いや、でもエルリックは罰する事は出来ないと言っているし、違う?処刑台とか言っているくらいだし、大罪人なんだろうと思う。王族の血を引く公爵家のご令嬢を誘拐、なんてものもそれに値しそうだけど。

 で、その病死の話は全然ついていけないぞ。誰の話だ。雰囲気から察するに、誰かが死んで、婚約者が恨んでいるような感じか。


「だから……やったってのか……馬鹿だろ、お前……」

「ふふ、コルムさんにこっぴどく言われてるよ」


 言っている婚約者の目は暗い。

 その死んだ相手ってのは、婚約者の大切な人物だったという事だろう。そして、その死を誰かのせいだと思っている。

 だから、やった……?

 ふとこの婚約者の髪に目が行く。貴族の象徴である髪が極端に短い。とすれば、自分から切ったか、大規模な魔法を行ったと推測。大規模な魔法を使ったなら、或はエリカを逃がす事も可能な人物……?風魔法は、上手く扱えば音も消す事が出来る。可能だ、この男の魔法なら、エリカを逃がす事も可能である。

 ふむ、この人は公爵位だから、簡単に処刑する事もできない地位というのも理解した。だが、罪は罪だ。エーテルミス領とは険悪な仲になる可能性がある。なるべくなら友好関係を築きたいからこその婚約者なのに、逆に破綻させるとは。

 だから、エリカの脱走を隠しているのかもしれない。


「ふふ、それも不可能になった訳だ。無関係な人間まで巻き込んで、貴族って本当に身勝手だよね」


 婚約者がちらりとこちらを見て、悲しそうに笑っている。


「良く言う。誰のせいでここまでこじれたとおもってやがる。責任は果たせよ……俺はエーテルミス公爵と争う気はない」

「分かってるよ」


 ふふ、と力なく笑う婚約者。

 なんだか良く分からないが、知らない内に話がまとまったらしい。


「エルリック様、恐れながら、彼女にも説明された方がよろしいかと」

「あ、ああ……すまない。ちょっと焦ってた」

「いいえ、お気になさらず」


 ルカがそう注意し、エルリックからの謝罪されたので、軽く首を振ってこたえる。


「僕から説明しよっか?」


 ふわりとした笑顔で申し出たのは婚約者だった。


「……お前の真実が聞けるってのか?」

「もちろん」

「……聞こう」


 少し迷ったようだが、婚約者の申し出に頷く。


「言っておくけど……僕はエリカが大っ嫌いなんだよね」

「は?」


 突然の告白にエルリックがきょとんとしている。


「な、ちょ、ちょ……お前、さっき可愛い女の子の頼みは断れないって」

「言ったねぇ」

「な、なら、何故、実行した!?お前になんの得があるってんだ!」

「うるさいなぁ、ちょっとは喋らせてよ」

「す、すまん……てなんで謝ってんだ俺……」

「情けないです、エルリック様」

「うるせぇお前は黙ってろルカ」


 ルカが横から茶々を入れているのが微妙に面白い。

 この人達、仲が良いのか悪いのか良く分からないなぁ。

 ああ、でも婚約者だから、ある程度の交流はありそうだな。


「ま、嫌いではある訳なんだけど、見た目だけなら可愛いじゃない?花は沈黙が美しいってね」


 見た目だけなら可愛い……?その言い方だと、見た目が同じの私も可愛いと言う分類を受けてしまうんだが。いやまさかな。この婚約者なら、女の子は全員可愛いもんだと思ってそう。


「そして、エリカの方も僕の事が嫌いだった……だから逃げ出したくて仕方なかったんだと思うな……エリカが逃げ出せばお互い婚約は破棄だ。だから僕は逃げ出すのを手伝ってあげたんだ。どうだ?万々歳だろう?」

「その結果が自分の命を落とす事になろうと?」

「まぁね……僕も、そこまで生きている事に価値を見出してないし」

「だったら……!エーテルミスとフォルジュに迷惑かけないところでしろ!!こっちははた迷惑だ!」

「ふふ……言うね」

「言うわ!!言ってもお前は言う事を聞くような人間ではないがな」

「良く分かってるね、僕は「可愛い女の子の言う事しか聞かない!」」


 エルリックと婚約者の声が重なる。

 「だろ?」と呆れたようにエルリックが婚約者に言って溜息を吐いていた。


「散々言っていたからすっかり覚えたぞ」

「ふふ……君に覚えられてもあまり嬉しくないね」

「こっちも覚えたくて覚えた訳じゃない」


 にこやかに会話しているが、実にオドロオドロシイ空気が流れてて恐ろしいね。

 ふむ、推測は当たっていたか。

 婚約者が脱走の手助けをした犯人という訳だ。

 婚約者だから不審人物として跳ねのけられる事もしない。自然と懐に入り込んで逃げる手助けが出来る。

 エリカ様は好きな人と逃げ出せて嬉しいし、エリカ様が嫌いな婚約者様もエリカ様と婚約しなくて済む。だが、手助けした代償は大きすぎる。

 貴族としての象徴を失い、地位や、或はその命までも危ぶまれるほどの行為だ。普通なら、許されるようなモノではない。

 だが、フォルジュがそれを「なかった事」として処理しようとしている今なら、エーテルミスを陥れるような事にはならない。と言ったところか。この事実がつまびらかにされた瞬間、この婚約者の首が飛ぶ。なんとも物騒な話だ。

 まぁ、王族の血が濃いからなぁ……いわずもがな。同じ公爵家だとしても、罪は罪だ。婚約者だからと言って許されるものでも……いや、むしろ婚約者だからこそ重くなる可能性も無きにしも非ず。

 そして、この婚約を取り決めた両親にも罪が及ぶ。元より、攫う為にした婚約だとか、重い罪にしようと思えばいくらでも。

 フォルジュやエーテルミスの今までの友好関係が崩される。婚約者はとんだ大馬鹿野郎だ。侍女長の言っている意味が分かったよ。こいつは馬鹿だ。貴族の風上にもおけない。なんで公爵家にこんな爆弾がいるんだ。公爵家は問題児しかいないのか。エリカ様然り。


「それに……エリカは貴族に向いてないって思ったしね」

「だが、平民にも向いてない。分かってるだろう?」

「ふふ、確かに!」


 貴族向きでも、平民向きでもないって……どこでなら生きれるんだよ、それ。

 破天荒な感じで、平民ならやっていけそうなんだけどな。イメージ的に。

 婚約者はとても愉快そうにしている。その姿はなんとも貴族的で、癪に障る。やべぇ、話を聞けば聞くほど苦手なタイプだ。婚約者のフリできるかなぁ。

 げんなりしていると、婚約者の目がこちらに向く。おっと、とりあえず微笑を貫こう。貴族ガードだ。説明しよう、貴族ガードとは貴族が貴族たろうとする鉄壁の笑顔なのである。


「……気になったんだけど、こんな胆の据わった子、どこで拾って来たの?」

「……下町で拾った。それはエーテルミスの方が良く知っているんじゃないか?」

「ああ……あの時拾ったというのが、このお嬢さんか。ふぅん」


 値踏みするようなその視線、嫌いだな。まぁ、貴族ガードしとこ。


「僕がエリカを逃がした張本人だ。そのせいで君はここで囚われている。そのことについて、なんでも文句を言ってもいいよ」

「……」


 思いの外優しい笑みに、少し面食らう。だが騙されてはイケナイ。こやつは貴族だ。細心の注意が必要である。ましてや、貴族を逃がした犯人であるからね。

 スッと視線をエルリックの方に向けると、コクリと頷かれて「言っても良い」と言われた。言っても良いタイプか。だがしかし、私にはなんの不平不満もない。むしろ、おじい様という偉大な人物と会話が出来て嬉しいくらいだ。


「わたくしからは、なにもございませんわ」

「……本当に?」


 疑わし気に婚約者から見られるが、出ないものはでない。

 そりゃ確かに、貴族代理としての重責や勉強は非常につらい。だが、それ以上に努力は報われると言う事を、ここでは教えてもらっている。何かを覚えれば褒められるし、笑顔を向けられる。そういう事が、嬉しいのだ。

 それに、1日3食で宿泊費ナシだよ?文句のつけようもないじゃないか。そうだよ、案外この生活が気に入ってしまっているのだ。気に入ってはいけないのにな。所詮私は代理でしかないのだから、あまり深く踏み込んではいけない。

 ……そういう意味では、辛いかもな。ニーナとか良い子だし。騎士も何考えてんのか分かんないけど、見下したりはしないし。ルカも笑顔は黒いけど、なんだかんだ仕事はこなす。エルリックも案外気遣いの出来る人って分かったし。

 気に入っちゃってるんだよなぁ。


「……ええ、ありませんわ」

「そう、君、変わってるね。貴族って窮屈で嫌じゃない?」

「確かに窮屈ではありますが、不自由はしてません」

「ほんと……変わってるね。貴族は不自由な事だらけだってのに」


 どこか呆れられたような溜息を吐かれる。

 そして、その柔らかそうな笑みを消して、真剣な表情で見つめられた。


「君は、利用されているだけだって言っても?」

「……そうですわね」

「本物がみつかれば君は用無しで、殺されるとなっても?」

「死ぬ事に恐怖がないかと問われれば嘘になりますが……そうですわね。そうならないよう、エルリック・ヴィリスト・フォルジュが最善を尽くしてくれる事を知っています。その心配はありませんわ」


 私がエルリックの名を呼んだ事に驚いたのか、目を丸くしている。

 利用されている事ははなから分かっている。それは理解し、同意した。了承した瞬間は確かに後悔したものだが……もう私はここの人間を知ってしまっている。悪い人たちではないのだ。

 最悪、おじい様が颯爽と助けてくれるってわたくし信じてますし。貴族の手前、公爵のエルリックを言ったけど、本当の所信じているのはおじい様の方なんだけどね。これはさすがにまぁ、言えないけども。いやいや、エルリックも悪い男ではないと分かっているし、なんとかなるだろうと思っている。

 ま、それに、利用しているのはこちらも同じだ。お互い様って事で、別段文句はない。私は影武者を頑張る。そのかわりに、衣食住を保証される。それでいいじゃないか。


「君は……利口なのか、それとも考えなしなのか、よく分からないね」

「……ふふ」


 貴族ガードで流しておく。

 さぁ、勢いに任せてやっちまう考えなしでもあり、考えすぎて行動しなくなるチキンな面もある。利口ではないが、チキンだから色々考えてしまう。とりあえず最悪の結末だけ考えて、それよりはきっとマシだろうと信じて祈る。大体そんな感じである。

 貴族との会話では余計な事言わない。これ鉄則って侍女長が言ってた。


「まぁ、君に不満がないならいいんだけどさ……なんだか不思議な感じだね。見た目はエリカそのものなのに、穏やかな反応されると」

「気持ちは分かる」

「成程、そりゃ兄であるエルリックの方がよっぽど違和感があるだろうね」

「ああ」


 まじまじと見つめられて、居心地が悪くなって来る。だから、その観察するような目はやめろ。


「なんだかなぁ……でも、この雰囲気、嫌いじゃない」


 私を見て、ふふ、と笑っている。

 おおう……これが女子供を魅了する笑みか。髪型もカッコいいのでグッとくるものがあるのが悔しい。自分がカッコいい事を分かっている男程苦手なモノはない。


「……珍しいな。ルークがそんな風に笑うなんて」

「心外だな……女の子の前だとこんな感じだよ?」

「エリカは?」

「論外」

「まぁ、納得ではあるが……」


 むむ……と少し考え込んでいるエルリック。

 そして、どうやら婚約者殿は私の事を嫌いではなかったようだ。口先だけではない雰囲気である。何をどう見たら嫌いにならなかったのか……ただ笑ってただけだぞ。好きになってはいないので、これから嫌いになる要素はいくらでもある。気に入られるのだけは避けたい。


「で?引き受けるか?」

「まぁね。この子の事は任せておいて。流石に放り出す気はないから安心してよ」

「だろうな」


 ふぅ、と息を吐いている。

 とても疲れているみたいだ。仕事やってるって言ってたし、大丈夫だろうか。若いのに、ワーキングホリデーのような状態?もしかして、気晴らしをしたかったのってエルリックの方なんじゃ。い、いや、あれはエルリックの厚意だ。そういう事にしとこう。それでもエルリックは16歳。現代でいうところ19歳である。その若さで土地を回していくのは相当苦労するだろうな。お祭りに行った方が良かっただろうか。めんどくさいし、本当に行くならエルリックだけでも行くか。わざわざ護衛対象を増やす事もない。


「で、君の名前はなんていうの?」


 物凄くキラキラした笑顔でそう聞かれて、ドン引く。だがしかし、そこは悟らせない貴族ガードだ。

 でも困ったので、エルリックの方に視線を向ける。フルフルと首を横に振ったので、答えは「言うな」である。さもありなん。エリカ様を逃走させるような人物に言えるようなモノでもないか。いつなにがあるか分からないからな。この屋敷内でも、私の名前を知っている者は少ない。それなのに、この人に言う訳がない。


「エリカですわ。ルーク様」

「……なるほど、考えなしじゃあ、ないね。君の事を見誤っていた。謝るよ」

「謝られるような事は御座いません。どうかお顔をあげてください」


 イケメンに頭を下げさせるなんて心臓にわるいんだよ。やめてくれよ。考えなしっていわれたくらいで今更傷つくような繊細さを持ち合わせてないんです。むしろこちらがすいません。


「ふふ……君が本当の婚約者だったら、良かったのにね」


 冗談じゃねぇ!はっ、つい心の言語が荒くなってしまった。

 この婚約者は、ちょっと先行き不安。

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